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第四七話

できました。

「帰ってくれないか!!」


 けんもほろろに家から叩きだされる。

 その家は山川の話に出て来た事故で大けがした人間の家だ。

 アポイトメントを取らなかった俺たちが悪かったが、塩までまかれた。


「まさかここまで激しい反応されるとは驚きましたねぇ」


「当たり前と言えば当たり前だが……」


 ただどちらかというとおびえていると言った方が近い反応だった。

 ある意味一番因縁がある相手だから他の人間はこれよりは反応が柔らかい気がするが。

 と視線を感じる。

 探すと今叩き出された家の二階からだ。

 よく見るとカーテンが少しだけ開けられている。

 ダメもとでスマホを振る。

 すると一つの紙飛行機が投げられた。


「よっと、これですね」


 それを難なくヒュプノスがキャッチした。

 その中にはIDらしき番号が書かれている。

 緑のSNSアプリを起動して友人として登録し、早速通話する。


「お前らか? 木下を調べてるやつって」


 とげのある声が向こうからする。

 どちらかというと警戒しているというのが近いだろう。

 一瞬ヒュプノスに任せる気も起きたが、やめる。


「ああ、そっちが警戒するかもしれないが、木下の同級生だ」


 その言葉に対してまずかえって来たのは絶句だ。

 息をのみ、何かを考えこんでいる様子だ。

 しばらくしてからようやく言葉が返ってくる。


「深くは聞かない、だから何を聞きたい?」


 少しだけ質問を考える。

 そしてやはり一番聞きたいことは――


「中学生時代の木下を知りたい」


「……おまえ、アタシに何が起きたかを知って聞いているのか?」


「ああ」


 はっきりとうなずく。

 他人への印象は結局完全に中立な意見を行うことは不可能dあ。

 なら全然違う立ち位置の人間たちから丁寧に聞き取ることでどんな人間なのかは想像できる。


「いい根性しているよあんた」


「そうなりたいんだよ」


 向こうから苦笑がくる。

 そして続く。


「いけ好かないやつだ、誰にも興味がないくせに誰かがいないと不機嫌になる、そんな奴だった」


「なるほど」


 やっぱり今の木下とは全く印象が違う。

 もう慣れてきたが、二人いるような考えが浮かぶ。


「だからアタシは少しは痛い目に合えばいいと思った!! そしたらアタシはハメられた!!」


 スマホから耳を離し、音量を調整する。

 ある程度落とした後で再度話を聞く。


「あの日、アタシは用具室に片付けに行った、そしたら誰かがアタシを突き飛ばした!!」


 話しながら当時の記憶を思い出してきたのか感情のボルテージが上がり続ける。

 もう俺の話なんて聞いていないだろう。

 だからなだめることはあきらめて感情の波がひくのを待つことにする。


「そのままバランスを崩して転んだら、棚が倒れ掛かってきたそれに挟まれて月曜まで放置された!!」


 その話だけを聞いたなら運がなかったという結論になる。

 なので一応聞いておく。


「誰に突き飛ばされたとか、棚はしっかりつけられていたとかはないか?」


「それは……なかったが、あまりに都合がよすぎる」


 何事かボソボソとつぶやいている。

 が、それ以上なにが言われたかは聞き取れなかった。

 だが気になった言葉なので聞き返す。


「都合がよすぎるってなにかあったのか?」


「そこに閉じ込めるつもりだったんだよ」


 さっきの話だと月曜まで放置されたという話だった。

 下手をすればいじめですむような問題にならなかった可能性がある。

 かなり身勝手な話だがその感想を飲み込み我慢する。


「わかった、それで他に何かあるか?」


「ほかか? 思い出せば気に食わない事ばかりだったが……」


 と言葉に詰まっている。

 と、そこである疑問が浮かぶ。


「そういえば木下の写真がアルバムにもなかったんだが、何か理由は知らないか?」


「ああ、そりゃ簡単だ、撮られるのを本気で嫌がっていたからだよ、パニックになるくらいな」


「……なんでだ?」


 その疑問に対して相手は笑い飛ばす。


「知らない、もっと前からの知り合いならなにか知ってるかもな」


「わかった、すまんな」


 そこでふと疑問が浮かぶ。


「ちょっと聞きにくいことを聞くんだがいいか?」


「何だよ」


 口調はぶっきらぼうだが、話を聞く体勢のようなので思い切って聞く。


「木下を気に入らないと感じていた人間はそれなりいたんだよな」


「ああ」


「結局何人くらいいたんだ? その人間たちは卒業までなにか接触はあったか?」


 しばらく考え込んでいる。


「なかった、なにもない、足が壊れてそのあとずっと……」


 現時点での話はここで切り上げた。

 通話を終えるとヒュプノスがこっちを見ていた。

 だからスマホをおさめて話しかける。


「なんだよ」


「なかなかやさしいのか、それとも意気地なしなのか」


 とどこか楽しそうに話している。

 ほぼ間違いなくさっきの通話の内容についてだろう。

 だから視線をそらして答える。


「言いたい事があったのは確かだが言っても仕方がない事だろう」


「確かにそれはそうかもしれませんね、彼女はこもることを選んでいるわけですから」


 振りかえり見るのは窓のカーテンがぴったりと閉められている部屋だ。

 それはいまだに放置された時から前に進んでいないことを示すようだ。


「今はそれでも外に興味はあるみたいだな」


 と言ってみるのは投げられた紙飛行機だ。

 本当に興味がないならこんなことはしないだろう。


「近い将来引きこもりをやめるかもしれないな」


「そうなると良いですね」


 と二人で苦笑して次の目的に向かった。

明日も頑張ります。

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