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第四六話

出来ました

「あの子は……木下ふたばは化け物です」


 ぽつりぽつりと山川は話しだす。

 目はどこか虚ろで焦点が合っていない。


「目立つ子でした」


 その感想について驚愕する。

 今の木の下とは真逆の言葉だからだ。

 何かを言おうとしたが、ヒュプノスが手で制する。

 その後右手の人差し指を唇の前で立ててウィンクまでする。

 しばらくそのまま話をさせておこうという事らしい。


「積極的に発言をするような子ではなかったけど、誰もが彼女を気にしている、そんな空気がありました」


 やはり今の木下とは全く違う話が出てくる。

 語られる内容と今の木下とつながらない。


「それだけならまだいい!! ある年転校生がありクラスの男子からちやほやされていたと感じたのか、クラスの同じような不満を持つ女子を集めていました、特に陸上でそれなりの成績を残した選手だったので陸上部経由でもシンパを集めていました」


「そうしたらどうなったんですかぁ?」


 怯えに近い表情を浮かべて、ゆっくりと話す。


「転校生は部活中の事故により選手生命が絶たれました」


「は?」


 それだけならただの偶然だと思うので思わず声が出た。

 が、山川はぶるぶると震えながら声を出す。


「その『事故』を確認した教師はおらず、用具室で膝から下が重量のある器具にはさまれていました、偶然一人で用具室で事故に合い、偶然気づかれず施錠され一晩そのままで過ごした」


 その時のことを思い出したのか体を一度大きく震わせる。


「その後彼女は引きこもりがちになりいまでもセラピーを受けているようです」


 確かに複数の偶然が重なったというのは怪しむ理由にはなるだろう。

 だが、気にしすぎている気がしないでもない。


「まぁまぁ、他にもあるんでしょうけど――」


 ヒュプノスは笑みを浮かべて耳打ちする。

 山川は跳ね起きるように身をこわばらせる。


「本題お願いしますね」


「ええ、えぇ」


 と二度うなずいて話始める。

 顔からは血の気が引き真っ白だ。

 人死に――それも自分が見ていた生徒の自殺だ。

 こうなる理由も想像できる。


「その前日から話すと、色恋沙汰は生徒間でよくある話です、そうしたとき木下と特に親しい生徒が居ました」


 その声は静かにしかし確かな狂気をはらんでいるように聞こえる。


「そしてその生徒ごく親しい友人に言ったそうです、付き合っていると」


 そこでやまくぁは頭を掻きむしり始める。

 それは何かにおびえている様にも見える。


「……その日のホームルームで木下はこう言ったんです「証明してほしい」ってね、ここまではあくまで伝聞でしかないです、でも次の日彼は――牧村博君は教室内で首をつって死んでいました、その日偶然早朝の見回りをしていたので私が第一発見者でした」


 カチカチと硬質な音が聞こえる。

 どうやら震えによって歯がぶつかり合ってなっている音らしい。


「き、木下の机の上に一枚だけメモが置かれてありました、そのメモにはただ一言書かれてありました」


 こっちを見てくる。

 その目には明らかな恐怖が浮かんでいる。


「死ぬほど好き」


「それはわりとホラーですねぇ」


 とヒュプノスはどこかのんきに言い放つ。

 が、山川はそんなヒプノスのセリフを無視してまだまだ話す。

 いままで話せていなかった反動だろうか?

 堰を切ったようには話す。


「そもそもその教室の空気がおかしかったのです。 私の前任者の担任が死亡していたのに大まかな空気は他のクラスとほぼ同じでした、どう考えてもおかしいでしょう担任が死んだのにずっと引きずるようなこともなかった」


 もう一度俺たちの方に支銭を向けて言い切った。


「それもこれもあの木下のせいだ、奴は化け物だ!!」


 その言葉を言った山川に対してヒュプノスがなだめ始める。


「貴重な意見ありがとうございます、そろそろ時間ですのでお暇しますね」


「……」


 無言で山川はうなずいた。

 続いてヒュプノスはある紙片を渡す。


「こちらが私のメールアドレスです、これからも連絡が取りたいので」


「それは……」


 さすがに難色を示している。

 おそらくこれっきりのつもりだったのだろう。

 拒否の言葉が出るより先にヒュプノスが動く。


「木下ちゃんの秘密を暴くために協力してもらえる人は多い方が良いんですよ、それに今の私たちの知り合いでもあるんですよ」


「……わかった」


 とつぶやいてアドレスの交換が始まる。

 俺も慌ててソレに混ざり山川のメールアドレスを手に入れる。

 そして今度こそ本当に学校を離れることにした。


=====


「さて、大谷君は山川先生の話をどう思いますかぁ?」


 ハンドルを握ったヒュプノスが話しかけてくる。

 少しだけ考えて率直な意見を述べる。


「俺は気にしすぎだと思う」


 俺のその言葉にヒュプノスは軽く笑いうなずいた。


「わたしも同じような考えですね、木下ちゃんに何かがあったのは確かでしょうし、自殺の第一発見者なのも確かでしょう」


 そこまで言葉を並べたうえで、一呼吸時間をおいて続ける。


「伝聞も多く、想像の話も混じっていました、色々警戒して私たちの相手を買って出たようですが気にしすぎでしたね」


「そうだな」


 ヒュプノスの言葉に同意する。

 それこそ幸せに生きたいなら自身が持っている妄想と向き合ってつき合って生きていかないといけないだろう。


「さて、次は住んでいた家の周囲での聞き込みとさっき手に入れたアルバム書かれた人への接触ですね」


「わかった、頑張ろう」


 軽くうなずいて次の調査に頭を切り替えた。

明日もがんばります。

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