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第四五話

できました。

「あなたたちは今日、山川という存在しない教員に会いに来て叩き出された人間です、いいですね?」


 やってきた中年の女性教師が開口一番にそう言い放ってきた。

 恰幅の良い女性だが、それに反して目線は落ち着きがなくやましい事でもあるようだ。

 返事をしようとすると、こっちをにらんで。


「返事はしなくてよろしい!! 良いから来なさい!!」


 と俺たちを置いていきかねない速度で歩いてゆく。

 というかあわよくばおいていきたいというところだろうか?


「それにしてもこんないはやく、しかも二人だなんて聞いてないですよ」


「あ、それは――」


「言い訳はよろしい!!」


 慌てて説明をしようとする。

 が、前を歩いていた山川は急停止し、俺の言葉を遮ってくる。

 仕方がないので肩をすくめるようにして言葉を引っ込める。

 何となく察していたがどうにも余裕がないらしい。

 仕方がないのであたりを見回しながらついて行く。

 校舎自体にこれと言っておかしなところはない。

 吹奏楽部の練習なのかどこかから楽器の音が聞こえる。


「ここです」


 立ち止まった部屋には資料室と書かれたプレートがとびらにかけられている。

 廊下側には一切窓がなく殺風景だ。

 山川が懐から辺りを見回して鍵を開けた。

 その後すぐに扉を開けて、俺たちに早く中に入るよう急かす。


「グズグズせず早く中に入りなさい!!」


 きつい物言いにはもう慣れたのでさっさと中に入る。

 そして山川は内から鍵を閉める。

 おそらく偶然中を人が見ないようにだろう。

 採光用の窓もないらしく真っ暗だ。

 山川は内部の照明をつけた。


「普通だな」


「ええ」


「文句がるなら今すぐ帰りなさい!! あと中の物はむやみに触らないように!!」


 声は押さえられているがかなりとげのある言い方だ。

 もちろん帰るつもりはないので無視をして木下が卒業したあたりのアルバムを探す。


「じゃあ私は木下ちゃんが在学していたころの教員たちの報告書を当たりますね」


 そうやって二手に別れたとき山川が鼻息荒く再度いう。


「むやみに触らないようにと言ったはず!!」


「ええ、ですから必要なものは気にせず調べます、つまりはそういう事ですからね」


 とヒュプノスはしれっと言い切って背表紙の記載から目的の物を探し当てたようだ。

 俺も木下が卒業した年のアルバムを発見した。

 とりあえず名簿を確認する。


「あった、木下ふたば、この年に卒業していたのは確かみたいだな」


 住所もあらかじめガーガから伝えられたものと一致している。

 ほぼ間違いなく木下だ。


「ガーガは見当たらなかったと言っていたけど……」


 一応中を見ていき、顔写真が集められたページを開く。

 そこには――


「名前だけか、なんだってこうなっているんだ?」


 中を見直そうとするが、そこでヒュプノスから話しかけられる。


「中一つ一つ確認するのは時間がすごくかかるんで、スマホでバシバシ撮っていった方が良いですねぇ」


 言われて気づく。

 確かにそっちの方が早い。

 なので無心で中の写真を撮り続ける。

 山川が卒倒しかけているが二人で無視をしてあらかた撮り終える。


「これで大体資料は取り終えましたね」


「あなたたち!! なんてことをするんですか!?」


 山川が改めて俺に詰め寄ってくる。

 かなり威圧的だ。

 その気持ちもわからないでもないが撮影については何も言っていない。

 だから押し黙っているとヒュプノスが俺の肩に手をかけ擁護するように話始める。


「個人が高性能な情報端末を持ち歩ける時代に撮影を禁止していないのでこうなりますねぇ、そもそもわたしたちは生徒ではないので」


 ニコニコと言い切る。

 ヒュプノスのその言葉に酸欠の金魚のように口をせわしなく開閉させる。

 が、そんな山川にヒュプノスはさらに追撃を入れる。


「さてさて、山川先生?」


「だからそんな名前の教員はいないと――」


 するりと移動し、出入り口に砲口に移動して逃げ道を絶つ。

 そこからさらに山川に向かって話す。


「木下ふたば、という名前に心当たりは?」


「……いえ、全く」


 だが言葉と裏腹に確実に動きが挙動不審になる。

 目線をそらしじりじりと出入り口に移動しようとする。


「おかしいですね、先ほど調べた資料にはあなたは木下ふたばが在籍していた教室の担任だったはずなんですが?」


「覚えがないものはないんです!!」


 わざとらしくため息をつき流す。


「それこそおかしい、だって保護者が死んでいるんですよ?」


「ぐ……」


 そこで言葉に詰まった。

 何か言い逃れを考えているようだ。

 しかしそれを待つほどお人好しではないらしい。


「そんな事件があった生徒に対して覚えがないというのはいかにも不自然です」


 一歩山川に詰め寄る。

 それに押されるようにして山川は二歩下がる。


「普通は詳しい話は何も知らないといううはずでしょう? 覚えがないなんて言いたくない情報を持っているって言っているようなものですよ」


「……だから」


 山川を覗き込むような姿勢でヒュプノスは問い詰める。

 大きなものに迫られるのは恐怖感が湧く。

 だから山川の挙動も不安定になっていく。


「おおかた木下ふたばを調べると聞いて余計の事を別の方から言われないように買って出たのかもしれませんが気にしすぎでしたね」


「……いつから 怪しいと」


 絞り出すような声で山川は答える。

 それに意地の悪い笑みをヒュプノスは浮かべて答える。


「最初から怪しいとは思ってました」


「さいしよ から?」


「ええ、最初から」


 頷いて、山川をじっと見ている。

 それがどうにも居心地が悪いのか山川は目線をそらす。


「どんな方法であなたにつなげたのかはわからないですけど、お膳立てするだけして不機嫌を隠すこともしないのはちょっと不自然ですよねぇ」


 どこか意地の悪い笑みを浮かべて話を続ける。

 怒りか焦りかはわからないが山川の顔色がどす赤くなっていく。


「自然にふるまうことを行わないなら何らかの目的があるはずですねぇ」


 クスクスという小さな笑いと一緒に最後の言葉を言った。


「だから揺さぶったら大当たりだったわけです」


「だとしても……言えない」


「おやおや、隠したい情報があるって言っちゃいましたね」


「……」


 今度こそ山川は押し黙る。

 どうやら相当マズイ情報を持っているようだ。


「まぁ、ある程度は予想ができますけどね」


「!?」


 山川は慌ててヒュプノスを見る。

 その視線は半信半疑と言ったところだろうか・


「木下ふたばの周りで起きた人死に事件についてかなりの事を知っていますね?」


「な、ぜ? わかった?」


「その反応は言ってくれるという事でいいんですね?」


 山川はうなだれる

 その動きはなずくようにも見えた。


「では山川先生、お願いします」


 ヒュプノスのその言葉の後にぼそぼそと山川は話し始めた。

明日も頑張ります。

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