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第四四話

できました。

 目的の街には昼前にはつけた。

 早速聞き込みでもするのかと思ったらまず向かったのはコンビニだった。


「ん? 何か買うのか?」


「いいえ違いますよぉ、調査の一環です」


 コンビニで何か調べることができるのかわからなかったので疑問に思ってついて行くと持ち込んできたフラッシュメモリをコピー機に接続してなにかを印刷している。

 その間に俺に封筒と収入印紙とやらと切手を買ってくるよう言われる。

 軽く見たところどこかの役所の書類のようにやたら格式ばった申請書のように見える。

 それをもってイートインコーナーで項目を埋め始める。


「なんだそれ?」


「登記簿謄本……簡単に言えばとある住所の持ち主が誰かを記した書類ですね、それを取り寄せる申請書類です、おそらくガーガも調べているでしょうけど、私の方でも手に入れておくにこしたことはないですからねぇ」


「え? そんなの調べられるのか? どう考えてもプライベートな情報だろ?」


 俺のその言葉に苦笑に近い表情をヒュプノスは浮かべる。


「まぁ色々ありますが、詐欺を避けるためというのが大きな理由でしょうねぇ、土地が誰の物なのか簡単に調べることができないと詐欺をする方法んていくらでもあるでしょう?」


「なるほど」


 言われてみれば確かに土地が誰のものなのかわからなかったら騙す方法はいくつかあるだろう。

 そこでヒュプノスは肩をすくめて言葉を漏らす。


「と言っても郵送してもらうので結果がわかるのは数日後ですけどね」


「それでも何かがわかるんだろ?」


「ええ、木下ちゃんが持っているのか、それとも別の人が持っているのか、それがわかるだけでも話は変わりますよ」


「というと?」


 向けたのはあくまで素朴な疑問だ。

 当のヒュプノスはスラスラと必要な項目を埋めながら話す。


「物件の所有者が木下ちゃんで、それなりに価値のある物なら財産目当ての可能性も出てきますよ」


「どうだろうな?」


 思い出すのはあの異常な情熱だ。

 アレがただの金銭がらみのようには思えないのだ。

 そんな俺の視線を読み取ったのかヒュプノスは少しだけ眉を立ててたしなめてくる。


「それぞれの人がどのような理由で狂気に落ちるかなんてわからないものですよぉ」


 静かなその声がよく聞こえる。

 もしかしたら聴覚に介入しているのかもしれないと思いつつ、ヒュプノスの方を見る。

 そのあとすぐに表情を崩し笑いかけてくる。


「色恋沙汰による狂気が最たるものですけどね」


 そこで項目を埋めるのが終わったらしく、封筒にきれいに畳んで返信用封筒も納めて封をしている。


「あとはコレを投函すればOKです」


「この後はどうするんだ? 頼ってばかりで申し訳ないが」


 実際足である車を出してもらったばかりか、調べ物に積極的にかかわってくる。

 俺一人だとどうしようもないことが多すぎて頭が上がらない。


「好きでやっていること、というよりいままでずーっとあの世界でただ存在していただけなので、誰かのために骨を折ること自体が楽しいんですよねぇ」


 とフワフワとした笑みを浮かべて言い切った。

 その言葉を聞いて思ったのが――


「ヒモに捕まりそうだな」


「そこはまぁ私自身も理解していますからねぇ」


 と笑いながら俺に視線を向けてくる。

 その笑みにはどこか俺をからかうような雰囲気が見て取れる。

 なんとなく嫌な予感がしていたが、ヒュプノスはそのまま口を開く。


「もう捕まっている気がしますけどねぇ、年下の子に」


「……自覚するからやめてくれ」


 げんなりとした表情をしていた俺をみてヒュプノスは軽く笑った。

 そして席から立ちあがった。

 手には封筒を持っている。


「意地悪を言うのはここまでにしましょうか」


 と言ってコンビニの外に歩いて行った。

 俺は助けられている事実と、遊ばれている事実、そして本質的には人じゃない相手への感情の置き所にいまだに迷うながらも置いて行かれないように席を立ち追いかけた。


=====


「それでガーガから送られた学校で調べ物をするための物ってなんですかぁ?」


 目的の中学校が近くなったので付近のコインパーキングに止めて徒歩で向かう。

 足の長さが根本的に違うが、ヒュプノスが気を使っているのか俺に合わせた歩きだ。

 こういうのを何気なく行ってくるために何となく隙を見せてしまう。

 そう思ってはいるが、ありがたいことなのは確かなのでなんともコメントに困る。


「物というか名前だな、今日学校に行ってこの名前――山川って人間に取り次いでもらえばいいらしい」


 それはそうとして聞かれた事にはちゃんと答える。

 真意がどうであれいま俺が迷惑をかけているのはたしかなので誠実に行動する。


「……どんなコネがあるんですか?」


 おそらく校内に残っている教師の名前か何かだろう。

 そんなことを話している間に目的の中学校にたどり着いた。

 大きさとしてはそれほど大きくはなく、三棟の校舎が渡り廊下でつながれている。

 一番外側に屋根だけでつながった体育館らしき建物が見える。

 運動部の活動が行われているのか何かの掛け声が聞こえる。


「さて、守衛室……まぁ人が詰めている場所に行きましょう」


「だな」


 ヒュプノスの言葉にうなずいて軽く見回すと正門から少し離れた場所に正門方面に視線を向けている人物がいる部屋を発見する。

 おそらくそこが守衛室なのだろう。

 そちらの方に向かうと男性が不審そうな目を向けてくる。

 中年を少し超えたくらいの年齢でツナギのような服を着ている。

 厳ついに近い外見は威圧感がある。


「関係者以外立ち入り禁止だよ!!」


 男性は窓を開け怒鳴るに近い声量で警告してくる。

 がヒュプノスはお構いなしに近づいてゆく。

 そして見下ろすような角度で笑いかける。


「まぁまぁ、ちょっとお話位いいじゃないですか」


 男性はヒュプノスの背丈にまず目を剥いた。

 日本だとまず目にかからない身長なのでそれはそうだろう。

 が、そのあと無防備という表現が近いヒュプノスの笑みに鼻白んでいるようだ。


「いや、決まりは決まりだ」


「山川先生に話があるんだが……」


 駆け寄りガーガから聞いた名前を出した。

 その言葉を聞いて、男性は驚いた表情を浮かべる。

 どうやらガーガの言っていたように話は通っているようだ。


「これは驚いた、まさか言っていた通りになるなんてな」


 と言ってどこかに内線を入れている。

 二三会話をしてこっちに向いた。


「すぐ来るそうだ、ちょっと目立つから校内に入ってくれないか」


「はいはい、よろしくお願いしますね」


「わかりました」


 と答えて中学校の校舎に入って、山川という人物を待つことにした。

明日も頑張ります。

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