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第三二話

久しぶりに8時代にできました。

「もういい」


 そんな底冷えする声を発したのは小柄な人間だ。

 しかしその格好は頭から厚手の布をすっぽりとかぶっているせいで人相はわからない。

 布自体はところどころ金の刺繍が入っており手の込んだ代物のようだ。


「僕の名前は――」


 そいつは自分に被っている布に手をかけ振り払うようにして取り去る。

 すると下からあらわれたのはしなやかな肉体を持った美少年だ。

 古代のギリシャとかできていたような薄手の衣装を着ていなかったら性別を間違えてしまいそうになるほど容貌は中性的な魅力を持っている。


「ウーラヌス、島を滅ぼした忌々しい物に関わる名前だよ」


 ベリーショートに切りそろえられた金髪は後頭部の一部だけ伸ばしておりきれいに編まれておりくるぶしまで届く尻尾のように見える。

 そして意思の強そうな目はヒュプノスをじっと見据えている。

 金のサンダルを履き、麻布のバンテージを巻いていおりそれが武装のようだ。


「ん? 俺に突きつけていた武器どこに行った?」


「何も決めていなかったですからね、持っているかもしれないですし、持っていなかったかもしれないってことですねぇ」


 そのヒュプノスの説明に肯定も否定もせず飛び掛かる。

 俺を一足で飛び越えたように見える。

 はやすぎて何が起きたのかは分からなかった。


「シャアっ!!」


 その鋭い掛け声とほぼ同時に三発の破裂音が響く。

 出所はヒュプノスだ。

 ウーラヌスと名乗った存在の右拳がヒュプノスの左わき腹に入り、左拳は右肩。

 そして右の膝が顎にきれいに入った異常な攻撃姿勢だ。

 それぞれは拳一つ分ほどめり込んでいる。


「が――ふ」


 ヒュプノスがうめきふらつく。

 傷の深さを見る限り普通なら戦闘不能になるほどだ。

 しかしウーラヌスは警戒を解いていない。


「ヒュプノス、隙を探るのは無駄じゃないかな?」


「あらら、ばれてますね」


 と、無傷のヒュプノスが現れる。

 何がどうなっているのか全く分からずに木下二人で目を白黒させる。

 間に居ると何が起きるかわからないので木下の手を引き離れる。


「ふぅん、逃げるのは悪くないね」


 とどこか感心するような表情でウーラヌスが話す。

 続いてヒュプノスに向かい意外そうに話しかける。


「で、前までならさっさと逃げてたよね? なんで?」


「まだまだ新米ですけど、生徒を助けるのは教師の務めですよぉ」


 と自然体で立っている。

 正直先ほどの立ち回りを見ただけだとヒュプノスがかつ未来が見えない。

 冷や汗を流しているとヒュプノスが口を開く。


「逃げなくていいんですかぁ? そろそろシャインちゃんが来ちゃいますよ?」


「……次は聞きだす」


 と捨て台詞を残して部屋から去って行った。

 同時に世界に色彩が戻る。

 と、木下が不自然に止まっている。

 俺のその視線に気づいたのかヒュプノスは抱き上げてベッドに寝かせる。


「さて、何とかしのげましたねぇ」


「……何なんだアイツ」


 思わず漏れたのはそんな感想だ。

 だが、分かるのはどう考えても危険な奴という事実だ。


「面倒な話ですよね」


「ああ」


 ヒュプノスの疲れが見えるその言葉に同意する。

 続いてこちらを見てくる。

 そのまま薄い笑みを浮かべたまま俺に質問――いや意見を聞いてくる。


「で、大谷君はウーラヌスにどんな印象を持ちましたかぁ?」


 世間話をするような調子だ。

 しかしその内容は気軽に答えていいようなものではないだろう。

 これからの対応に関わる重要な事柄だ。

 だから少し考えてから話す。


「見た目は若いが年寄りみたいなやつだったな」


「へぇ」


 ピクリ。

 とヒュプノスが片方の眉を上げる。

 どこか感心しているようだ。

 それに気づくが気を抜くことなく話を続ける。


「聞いてくること、気にすることは全部昔の事だ」


 そこでいったん言葉を切って、ウーラヌスを名乗ったやつの言動を思い出しながら話を続ける。

 それほど多くの言葉を交わしたわけではないが、見た目と言動にどこか齟齬があったのは確かだからだ。


「見た目通りの精神年齢なら、もっと向こう見ずに行動していたと思う」


 どんな問題があるのかは分からないがウーラヌスを名乗ったやつは最後の最後まで名前や姿を見せなかった。

 その後の戦闘時の動きのキレから考えると能力が落ちるというわけではなさそうだ。


「不都合は一切受けないように動くって、最低限子供が行うことじゃないだろう?」


 ところどころは癇癪のように激昂していたが、全体的な印象は厄介な年寄りだ。

 自分の中では自信はある。

 がヒュプノスの目から見たらどのように映っていたのかは別だ。

 だからヒュプノスの話を待つ。


「おおむねその通りですね」


 あっさりヒュプノスも同意した。

 その表情は笑みを濃くしただけでどのような意図があるかは分からない。

 そんな俺を取り残してヒュプノスは話を続ける。


「さて、あのウーラヌスという名前はかなーり古い物です」


 存在ではなく名前に対して言及していることが引っかかる。

 ヒュプノスは名前と契約が大切と言っていた。

 おそらくそれに関連していると思うが、ヒュプノスの話を遮るほどの事でもないのでそのまま耳を傾ける。


「となると一つおかしなことに気が付きませんか?」


「……ギリシャ――地中海の辺の名前なのにハイアイアイ諸島は確か太平洋だよな?」


 その答えに満足げにヒュプノスはうなずいた。

 そう考えれば確かにおかしな話だ。

 地域が全然違うのに異常に気にしていた。


「答えって程でもないですが、そもそもハイアイアイ諸島の文献ってたった一つだけ、島民の手記すらない」


「……まぁ、創作だからじゃなにのか?」


 俺のその言葉には非常にあいまいな笑みでヒュプノスは答える。

 あと少し、とでもいうようだ。


「……まさか、元の本がフェイクの上にさらにフェイクを重ねたとでも?」


「そうかもしれないですし、そうでないかもしれないですねぇ」


 いっそ楽し気にそんなことをヒュプノスは語った。

 となると嘘がどっちになるかだ。

 ハイアイアイ諸島の場所が違う。

 もしくはウーラヌスが名乗る名前が違う。

 今のところどっちが嘘だと断定できる要素はない。

 それを知っているのは――


「ヒュプノス……」


「何が聞きたいのかは大体わかります」


 小さくうなずき、笑みを濃くして言い切られた。


「ですけどそれに大きな意味はないですねぇ」


「……なぜだ?」


 聞き返す。

 しかしその言葉にはゆっくり首を振るだけで答えない。


「取り合えず一番大切なことはいかにしてウーラヌスを撃退するかですね」


「え? 陽川に任せればいいんじゃ?」


「残念だけど、陽川ちゃんは頼れないの」


 その言葉に首をかしげる。


「おそらく次は一気にわたしの首を取りに来るでしょうから、外の大物を囮にして。そのときついでに大谷君と木下ちゃんも殺されるわねぇ」


「は?」


 かなり衝撃的なことを言われたのでヒュプノスからさらに話を聞きだすことにした。

明日も頑張ります。

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