第三〇話
またまた謎の適当文章が頭に来ています。
名前を失った『神』は如何なる様相を示すのかについて考えを進める。それはおそらく『神』と呼ばれる存在には極めて我慢ならないことに他ならないだろう。というのも古来より名前というモノは自己が何者であるかを認識する事の最も基本的な事であるからだ。そして『神』とは名前そのものが権能や姿を表している。つまりは『神』から名前を剥奪することは自己との境界を曖昧にし、力を失いそれどころか自身の姿すら保てなくなるだろう。そして人格すら名前に頼っていた『神』は名前を失ったら木偶の坊になるのか?私はそうは思えない。変わる前の名前を遮二無二取り戻しに行くだろう。記憶が失った者でもかつて暮らしていた場所を懐かしいと感じるように、自らの根は過去を失ったとしても逃れることができないように。
――原戸 寺目
『隠された信仰とその軌跡――カミヤドリを追って』
=====================================
「一つ質問良いか?」
後から脅してくる存在に声をかける。
案内させているならすぐに殺すつもりはないだろうと見切って話しかける。
「っち、なに?」
不満げに舌打ちをするがそこまでだ。
なので質問を続ける。
「ハナアルキに何かあるのか?」
「……君になにか関係あんの?」
「それを一度もらった者だからな気になる」
その返答が気に入らないのか不満げに鼻を鳴らす。
だが声を荒げることもなければ、歩調が崩れることもなく一定だ。
そのまま階段を下る。
「懐かしく……感じてる」
自分が持ってる感情を確かめるような口調で話す。
それにしては平坦な声に聞こえる。
その事実に内心首をひねる。
その後にまた話を続ける。
「君はさっきこれをハナアルキって言ったよね」
どこか俺に探りを入れてくるような口調だ。
さらに深く首をひねる。
元々知っているならもっと違ういいかたになるはずだ。
どこか初めて見聞きしたものを再確認するように聞こえる。
「言ったが……本当の名前を知ってるのか?」
「なんでそんなことを僕が答えなきゃならないのさ」
ごまかした。
つまりはそういう事だ。
多少のリスクを負ってでも手に入れた場所へ案内させるほどの物の正式な名前を知っていない。
どう考えても異常なことだ。
つまりそこが漬け込むすきだ。
「まぁ、確かにないな」
しかし刺激するのはよくない。
声と実際の年齢は違っているだろうが、気まぐれで俺を殺してくるかもしれない。
一番の目的は殺されないように時間を稼ぐことだ。
おそらく小さいから陽川の目にまだ見つかっていないのだ。
俺と同じようにやはり巨大な影を探しに行っているのだろう。
「だろ? だから僕が君に言う必要ないね」
どこか安心したような声だ。
情報は知りたいが他人に伝えるのは嫌がっている。
いや、もしかしたら自分に関することを知られること自体を忌避しているようだ。
事実顔すら見せることを拒否している。
そこがこいつの特徴だ。
もしかしたら激昂する可能性もあるので慎重に行動しないといけない。
自然に情報を引き出すための質問を考える。
「そーかい、あと俺には大谷 亜守って名前がある、君ってやめてくれ」
「……」
相手は即答せずにじっくりと何かを確かめるように俺の様子を見ているようだ。
一瞬何かの逆鱗に触れたのかと思うがどうも様子が違う。
「そう、それで?」
たっぷり時間をかけてそれだけを答えた。
名前に何かある。
そんな直感が働く。
だがそれは地雷を踏み行くようなものだ。
俺の名前を口にすることもなかった。
もしかすると相手が知っていたとしても何かの情報を口にすること自体を避けている。
となると懐かしいと感じるという事を口にしたのが気になる。
「名前を名乗るくらいいいだろう」
「ま、勝手にすれば」
ここから最大の見えている地雷を踏みに行く。
覚悟を決めて口を開く。
「それでそっちの がっ!!」
蹴り倒される。
冷たくかたい床にもろに倒れ込み体の各部をぶつけた。
その上で流れるように俺の背に足がのせられる。
「だからなんで君がそんなことを気にするのさ、死にたいの?」
抜身の刃物のような感情がこめられた声が向けられる。
同時に俺を踏む足に力がこめられる。
かなりいら立っているようだ。
やはり地雷だった。
軽率ではあったが、あることが考えられる。
今俺を踏んでいるこいつはかなり危ないフリをしているがそうそう殺しには来ないだろうという事だ。
というのも明らかに地雷で激昂する質問につながる前段階で実力を伴う警告に移った。
本当に危険な奴ならこの時点で激昂し殺しにかかってきていた。
殺しに来ていたら逆にハナアルキの情報を餌に凌ぐつもりだったがかなり大きな収穫だ。
「こんなに手の込んだ自殺はしない、気になっただけだよ」
「ふん、ならこれから僕に何かを聞くのは禁止だ、死にたくないならね」
「わかったよ」
渋々という風に口調を作りながら了承した。
その様子に満足したのか相手は背中から足をどけた。
立ち上がる時相手を見ることもできただろうが立て続けに神経を逆なですることは控えるようにした。
「こっちだ」
と足を進めながら、時間稼ぎについて考える。
保健室までできるだけ遠回りをすることも考えたが露骨にやりすぎると絶対反感を買うのでやめることにした。
せめても歩きをゆっくりにして保健室に向かった。
明日も頑張ります。