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第二九話

できました。

 ガラス瓶の中に納められたネズミにも似たその生物をじっくりと観察する。

 ハナアルキ――鼻行類の名前の通りしなやかで強靭そうな触手にも似た鼻を持っている。


「落ち着け」


 わざわざそんな言葉を口にする程度に心がざわついている。

 フェイクの可能性の方が高いだろう。

 ネットに書かれていた情報では執筆した人間が告白しているくらいに偽物だ。


「でもなぁ」


 はく製のそれはよくできている。

 今にも動きだしそうなくらいだ。

 出来が良いから偽物ではないというのは確かに言える。

 しかし、もしそうならここまで精巧なフェイクを作る理由がわからない。


「ぁ の」


 と蚊の鳴くような声と共に背中をつつかれる。

 不思議に思いそちらに目をやると木下が居る。

 今から帰るところのようだ。


「ああ、すまん、邪魔だったか」


 と言って脇によって道を開ける。

 すると木下は首を横に振って否定してくる。

 何事かと思っていると、俺の手にもったガラス瓶――ハナアルキのはく製を指さす。


「そ それ に?」


 何かこういうところばかり見られるなぁ。

 と胸のうちで天を仰ぎながら質問に答える。


「どこかの島の土産物……じゃないか?」


「な で ぎも ん?」


「あー、それはー」


 何て説明しようかと迷っていると、唐突に世界の空気が変わる。

 世界から色彩が落ちる。

 その現象に木下は明らかにおびえ始める。


「ぇ な 」


「っ!」


 身構えて何が起こるのかを考える。

 今まで襲ってきた怪物は最初に陽川が戦っていた奴はしっかりと確認できなかったので抜かすと二体。

 その両方は巨大な体を持っていた怪獣のような代物だ。

 しかしガーガの話では人間に紛れ込める奴がいる可能性がある。

 が、今までの例から考えるとやはり巨大な体を持っていると考えるべきだろう。

 そして大きな山羊が物理的なかなりの脅威としてガーガは考えていたようなので――


「俺が外を見てくる」


「ぇ で――」


 そこで保健室の扉が開かれる。

 開けたのはヒュプノスだ。

 そうして軽くウィンクをしながら俺に話しかける。


「わたしが木下さんをここに保護するから大丈夫ですよ」


「……」


 なんのつもりなのかを見極めるために視線を向ける。

 するとヒュプノスは冗談めかしてシナを作って話してくる。


「そんなにアツい視線を向けられると困りますねぇ」


「っ!! ったく、頼んだ」


 と言って背を向ける。

 木下は何かを言いたそうだったが――


「はいはい、ここで大人しくしていましょうねぇ」


 と言って木下を保健室に連れ込んだ。

 非情に悩ましいが、何もわからずにいると校舎ごと吹き飛ばされる可能性もゼロじゃない。

 それを考えると今のところ危険性は比較的低いと思われるヒュプノスに任せるのがいいと思う。


「とりあえずできるだけ高い場所に」


 階段をかけ上がり、どうせ直るので非常階段への扉のノブカバーを破壊して見渡す。

 色彩が抜け落ちた世界のそこには――


「こっちじゃなかったか!!」


 目立つものは何もなかった。

 いつも通りの街並みで舌打ちをしながら踵を返したとき。

 唐突に()()()()声がかけられる。


「ねぇ、君」


 澄んだ声だ。

 声のトーンは高いが、女性ではなく男の声に思える。

 つまり二次性徴前の男の声だ。

 確かに月宮のように声が高いままを維持している人間もいないこともない。

 しかし高校にそんな声をしている人間なんて普通はいないのだ。


「……急いでいるっていったら逃がしてくれるか?」


「うん、無理、だって()()()()()()()()()()なんて僕の事敵だって思ってるんだよね」


 胸のうちで舌打ちする。

 偶然外に面する非常階段に居たなんて運が悪すぎる。

 頭をフル回転させて逃げれるかどうかを考える。

 しかしすぐにあきらめる何もかもがわからないのだ。

 おとなしく両手を上げる。


「うんうん、良いねその感じ」


 どうやら即俺を殺すつもりではないようだ。

 そういう意味では賭けに勝った。

 内心冷や汗を流しながら考える。

 目的は殺されないように立ち回ることだ。

 陽川が駆けつければそれで解決する。

 なぜなら巨大な山羊のような威圧感はない。

 おそらく強さ的にはあの山羊よりずっと弱い。


「うん?」


 と何かを不思議に思っているのかそんな声をかけてきた。

 これは隙だ。

 背後を取られているが時間稼ぎを行う余地がある。


「すまんが、そっちを向いてもいいか」


「ダメダメ、その隙に何かするつもりなんでしょう!!」


「わかったよ」


 つぶやきつつ考える。

 相手の目的だ。


「君さぁ、何か妙なものもってるよね?」


「妙なもの?」


 すぐに思い浮かぶのはハナアルキのはく製だ。

 つまり相手はハナアルキに関係がある。

 ここでもしただハナアルキを差し出したら迷わず俺を殺す可能性が高い。

 となるととぼけるよりも――


「もしかしてさっきもらったこれか?」


「もらって誰にさ?」


 気のない風に聞き返してくるが、やはり大当たりだった。

 俺の背後にいる奴はこのハナアルキに興味がある。


「わかった、案内する」


「へぇ、素直じゃん」


 どこか感心したようなことを話す。

 つまり案内する間の命は保証された。

 ゆっくり腕を下ろして一息つく。

 とりあえず首の皮一枚だけつながった状況だ。

 慎重に考えと足を進めながら保健室――ヒュプノスの方に向かった。

明日も頑張ります。

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