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第二七話

できました。

「しまった」


 はまってしまった。

 ミステリーなんてほとんど読んだことはないが思わず一心不乱に読み進めてしまった。

 どこかとぼけた様子のある探偵役と心配症で一言多い相棒役が小さな事件から発展して殺人事件の解決につながっていく。

 奇をてらった作りではなく、動機付けやトリックなど一つ一つが丁寧に作られていると感じられた作品だった。


「っと、もうこんな時間か」


 間に夕食などを挟んだが、もうかなり遅い時間だ。

 二冊目を手に取ろうとしまうが、考え直す。


「この時間から読んだら間違いなく睡眠不足で後悔する」


 心残りだがこの時期に寝不足になるのはまずいので就寝の準備を行う。

 そうしたときに木下からメッセージが来ていることに気付く。

 そこには一緒に帰ろうとしたとき断ったことへの理由らしきものが記されている。

 要約するとタイミングが悪かっただけらしい。

 ただ次の機会などには触れておらず、今後も難しそうだと感じる。


「なんだろうな、本当に何があるんだ?」


 不自然なまでに何かを避けている気がする。

 俺、ではないと信じたい。

 があまり自信はない。


「まぁ、いい」


 考えはそこで切り上げて、ヒュプノスからこっそり渡された妙な本を少し読んでみることにする。

 窓のカーテンを閉めて、引き出しの鍵を開けて中から本を取り出す。


「相変わらず変な本だな」


 大きさとしては文庫本サイズで、気軽に読むには少し重く、本腰を入れて読むには少し物足りない。

 そんな微妙な厚みだ。

 とりあえず冒頭に目を通す。

 そこにはこの本の大まか流れについて触れられている。


「前半が主にフィールドワークの報告、後半は考察か」


 こういう本は初めてなのでこれが普通の構成なのかは分からない。

 紙の黄ばみからするとかなり古そうだが言葉遣いや漢字は普通に読めるのでそこで詰まることはなさそうだ。

 いわゆる世界各地の神話を中心に据えた民俗学の研究を行い始めたきっかけについて書かれてあった。

 その中で眉唾物扱いされているある種の文書や資料の中にはある特定の共通点がある。

 その共通点こそが隠された歴史に真実ではないか?

 という主張だった。


「いやぁ、気のせいだろう……」


 という割と辛辣な言葉が出た。

 というのもある特定の共通点を持った怪しい資料だけを扱ったとしか思えないからだ。

 完全に俺の中ではこの本はコンビニやらで売られている陰謀論などを扱った娯楽目的の本と同じような味方になった。

 挙げられた資料もネットで軽く検索するだけで否定する話が大量に出て来た。


「紛らわしいことして」


 期待させられていただけに肩透かしを食らった気がする。

 そうとわかれば肩の力を抜いて読むことにする。

 その際一応作者について検索するが――


「ないなぁ、よっぽどマイナーな人間だったのか?」


 出版されかたがかなり特殊なようだしもしかしたら世の中に出回っていない本なのかもしれない。

 そう思いあまり手荒に扱わないようにする。

 となるとある疑問が浮かぶ。


「わざわざ俺をおちょくるためにこんな本を用意したのか?」


 その可能性はないわけではないが、あまりに迂遠すぎる方法だ。

 一応何らかの意味があるはず。

 そう思って取り合ず読み進める。


「この作者が出歩いた時期がいつかはわからないが、えらくいろんなところに向かったな」


 エジプトや中南米、ヨーロッパの片隅に日本国内の山間など幅広い場所でのフィールドワークを行っている。

 おそらくパトロンが居たか、金を持っていた人間なんだと思う。

 各地の信仰や残った言い伝えなどにはそこまで紙幅は割かれておらず資料の写真はそれなりに乗せられていた。

 ただ文章の端々からは綿密に調査したことわかる。


「スタートはともかく、調査自体はまじめにやったんだな」


 そうして考察を行う部分まで読み進めようとして――


「ふ  ぁ」


 大きなあくびが出た。

 どうやら本当に時間がまずいらしい。

 ここまでは大きな成果を手に入れることができなかったのでおとなしく眠ることにした。

 頭がぼんやりとしてフワフワと脳裏に妙な光景が浮かぶ。

 それは俺を呼んでいるようで段々と意識が抜け落ちていくように真っ暗な世界に落ちた。


=====


 誰かがいる。

 その誰かは手元の原稿用紙に一心不乱に何かをかきこんでいる。

 その姿は焦点が合わずぼやけるようにしていて顔の細部を見ることはできない。

 そいつは脇に山積みにされた本から引き抜いて読んではうなずき、また何かを書き始める。

 何となく理解できるのはそいつが原戸だという事だ。

 その鬼気迫る様子はまるで何かから逃げているようだ。

 何となくその手元の紙を覗き込むと、俺がさっきまで読んでいた本ではないという事がわかる。

 ほとんどの文字はぼやけているように識別不明だが幾つか読める文字がある。

 その文字はかつて存在していた島に生息していた生き物についてだ。

 そしていくつかの数字だ。

 それを見たとき――


=====


「がっ!!」


 衝撃で飛び起きた。

 寝床から転がり落ちてしまったらしい。

 その衝撃で目が覚めた。

 ガーガはまだ来ていないらしく、急いで引き出しに本を片付ける。

 そして二つの単語をつぶやく、夢の中で見た単語だ。


「ハイアイアイ諸島ってどこだよ」


 全く聞き覚えのない地名に首をひねった。

 そしてもう一つはもうぼんやりとしか覚えていない単語だ。

 手の中から逃げたそんな記憶を思ってため息を一つだけして、本格的に起きることにした。

明日も頑張ります。

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