第二六話
できました。
「はい、以上です」
そう技師の人に言われて筒のような装置――CTスキャンを行う機器からとベッドごと取り出される。
ガーガにボディープレスで起こされた後、昨日の倒れ込むようにして眠ってしまった事への検査が行われる。
結果が出るのはまた後日だ。
ほぼ午前中いっぱい検査を続けたので若干疲れた。
ソファに深く腰掛けていると医者との話がおわったかあさんが俺の肩に手を置きながら話しかけてくる。
「亜守……大丈夫?」
「検査で疲れた」
その言葉にかあさんは軽くふきだす。
唐突に起きた体の不調で俺よりも落ち込んでいたかあさんの気が少し軽くなったように見える。
その後かあさんに学校まで送ってもらった。
大丈夫だと伝えたが、押し切られた形だ。
=====
「大丈夫? 亜守」
学校につくと早速月宮が話しかけてくる。
他のクラスメイトもどうやら気になっているらしく、ざわめきがトーンダウンした。
全員の中では俺が唐突に倒れてようやく登校してきたわけなので仕方がないかと思いながら話す。
「検査結果はまだだが、まぁ大丈夫だ」
「ふぅん、ならいいけど」
と言っている月宮はじっと俺の顔を見ている。
その目はおかしなところがないか探しているようにも見える。
「ま、問題はない、今のところは多少目覚めが悪いくらいだな」
その言葉で聞き耳を立てていた連中が元の行動に戻る。
あっという間に普段の休み時間の教室に戻った。
視線を巡らせると、チラチラと木下がこっちを見ていたのに気づく。
なので軽く顎を引くようにしてから安心させるために笑みを浮かべた。
「何してんの?」
「いや、何でもない」
そうしている間に予鈴が鳴り、いそいそと席に戻り始める。
実感があまり湧かないがそれでも平和を噛みしめながら授業に備えた。
=====
放課後ヒュプノスに指定された図書準備室に向かう。
夢の中で伝えられた本を受け取りに向かうためだ。
部屋として存在はしているがまれに図書委員が使用する時以外は誰もおらず、鍵もかかっていないそこは穴場だ。
そこに扉を開けて入ると――
「おやおやなかなか早いですね」
「おい養護教諭!! 保健室に居なくていいのか」
ヒュプノスが待っていた。
いつけが人が出るかわからない状況でここに居るのはまずいと感じたため突っ込んだ。
そんな俺をクスクスと笑いながら見ている。
「本を手渡すだけですし、というわけでこっちですよ」
渡されたのは一つの紙袋だ。
それなりに本が入っているらしくてズシリと腕に来た。
予想以上の量にさすがに文句の一つでも言おうと視線を上げたらもう消えていた。
ぶつぶつ文句を言いながら準備室から図書室に向かうと見知った人間が居た。
「木下? 何だってこんなところに?」
「ぇ の 本 ていま た」
相変わらず直で話すと本当に声が聞き取れない。
図書室に居たので本への用事があったことはわかるが、それ以上の情報が得られない。
なので細かいことは無視して話題を進めることにする。
「今から帰るところか?」
木下はコクコクとうなずいている。
なので友人としてごく当然のことを申し出る。
「なら一緒に帰らないか? 途中までなら一緒だろ?」
間髪置かず首を横に振ろうとして止まる。
たっぷり二呼吸考えて、やっぱり首を横に振られた。
なのですぐに特に気にしていない風を装って別れる。
「ん、わかった、またなー」
「また ね」
別れた後で木下の反応を考える。
確かに出会ってすぐではあるが、ただの人見知りなら即座に拒否する。
考えた上で拒否するという事に少しだけ違和感を覚える。
人見知りであること以上になにかためらう要素があるのかもしれない。
「まぁ、考えすぎか」
そう口に出して家へと帰る道を急いだ。
=====
「で、これがヒュプノスから渡された本か……」
作者はちょっと見覚えがない作品で、ミステリーシリーズのようだ。
厚さもそれなりにありただ本屋で見たら手に取る本ではないと思う。
とりあえず紙袋から全部取り出すと妙な本が一冊あった。
「何だこれ?」
見た目はベージュのブックカバーが付けられた本だ。
裁断面の黄ばみから考えるとずいぶん古い本のようだ。
不思議に思いながら開く。
そこにかかれた本の題名は――
「隠された信仰とその軌跡――カミヤドリを追って」
作者の名前はパッと見は載っておらず、奥付を開いてようやくわかった。
「原戸 寺目」
それ以外の経歴も他の出版物も書かれていない異常な奥付だ。
出版年も書かれていない。
明らかに異質なその本に緊張のためにつばを飲み込む。
何となく頭の隅で理解する。
この本を渡すためにこんな面倒なことを行ったのだ。
そしてガーガからも隠さないといけない本だという事も理解できた。
だから慌てず鍵をかけることができる引き出しに入れて今日は閉じておく。
本格的に隠すのはまた後日にする。
「……」
鍵を閉めたあと、そのちゃちな見た目の鍵に目を落とす。
今まで信用していた相手への裏切りにも近い情報の秘匿行為に心臓が強く脈打つ。
家の鍵が付けられたキーホルダーに鍵をつなげて鞄に入れる。
「ふぅ」
ひどく緊張していたのかようやく一息付けた。
そうしたときヒュプノスから渡された複数のミステリーが見える。
気を紛らわすために第一作目を手に取り、読み始めた。
明日も頑張ります。