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第二三話

何とかできました。

 昨日と同じようにメッセージのやり取りを行おうとして、少し考える。

 何となく声を聞きたいのだ。

 だから通話をしないかとメッセージを送る。


「さて、どうなるんだろうな」


 昨日までの様子なら望み薄だ。

 しかしその予想に反して向こうから通話が入ってきた。

 一瞬驚くが受ける。


「こ こんばんは」


 少しだけ上ずったような独特な声だ。

そして何となく弾んでいるようにも聞こえる。

 もうずいぶんと普通の人間と話していなかった気がするので少しだけホッとする。

 ――いや、ガーガの話ではかなり特殊な事情を持っているようだ。

年齢と比べて不釣り合いなコミュニケーション能力からも何となく普通の過去ではないことも察することができる。

が、木下が少しだけ上機嫌になった事を信じたい俺がいる。

だからできるだけ柔らかい声を思って話しかける。


「ああ、こんばんは」


話したいとは思っていたが内容も考えず申し出てしまったので、何を話そうかと少しだけ悩む。

そうしていると木下の方から話を振ってきた。


「き ょうは大丈夫でした か?」


「今日?」


そこで思い出すのは修正前のことしか覚えていない事だった。

ヒュプノスがこっちに出てきたりなかなか信じられないことが起きたが、辻褄合わせが起きたあとのことは全く知らない。

思わず言葉が詰まっていると木下が心配そうに声をかけてくる。


「あ あの本当に たいじょうぶですか?」


「……すまんが、朝の頃から俺はどうなっていた?」


 素直に聞くことにした。

 おそらく俺が覚えてる内容と全く違うので、変なことを言うよりは全く覚えていないとした方が良いと判断した。

 保健室のベッドでかなり深く眠っていたことは確かだ。

 だから変な言動をしていたとしても最悪寝ぼけていたで押し通すつもりだ。


「ぇ と、朝の一限目 から机に突っ伏してそのまま、保健室に運ばれて いきました」


「そうか」


 ある意味安心した。

 妙な言動をしたわけではないからだ。

 明日にこってり教師に絞られるだろうがまだ何とかなりそうだからだ。

 そこであることに気付く。


「そうだ、木下」


「な なんですか?」


 急な声に驚いたように木下は少しだけ上ずった声で返答する。

 そのことに苦笑する。

 そして木下を落ち着けるためにできるだけゆっくりと話しかける。


「ノートってとってないか?」


「あ はい とってますよ」


「コピーさせてくれないか」


 軽く木下の家まで寄って近くのコンビニでコピーをさせてもらう。

 多少は遠回りだろうが、たしか木下も徒歩通学でそこまで離れていないはずなのでいけるはずだ。

 そう考えて提案したら予想していない返答――正確にはその言葉の強さだ。


「ダメ!! 絶対ダメ!!」


「ぁ、すまん」


 今までの自身なさげでどこか挙動不審にも思えた声とはうって変わってとても鋭い語気の拒否だ。

 その勢いに呑まれ気味で俺は引き気味で返答した。

 だから慌てて謝る。


「そうだよな、すまん、いきなり図々しいこと頼んで」


 頭の中では陽川か月宮にお願いしてノートのコピーをもらうことを考える。

 そうすると木下が慌てて話しかけてくる。


「あ いえ そのノートをコピーすることが嫌なわけじゃなくてですね」


「ああ、そうかこんな時間だもんな」


 さっき起きたばかりなので体はまだまだ活動できてあんまり夜という気がしない。

 だからこんな時間にクラスメイトの家に向かう異常性に気付いていなかった。


「 あ、うん、そう」


 と、どこか歯切れが悪い返答だ。

 その理由がちょっと思い浮かばず、内心首をかしげる。

 俺の疑問を知ってか知らずか木下はあることを提案してくる。


「えっと、 ノートをとる ので送ります」


「写真を送ってくれるのか? ありがとう木下」


「どう いたしまして」


 俺の感謝の言葉に少しだけはにかむような言葉を返してきた。

 そこで少しだけ木下はテンションが上がったのか、今日有った事を話し始めた。

 その話で驚いたのが木下は他人をよく見ているという事だ。

 そして全部が自分が体験したことじゃなくて、見た事であるという事だ。

 だからだろうか、妙なことを聞いてしまった。


「ところで一つ良いか?」


「う ん? なんです か?」


 地雷になりかねない質問だし、ある意味踏み込みすぎた質問かもしれない。

 だがそれでも聞きたいことがある。


「木下は今日何をしたんだ?」


「ぇ?」


 完全に予想外の質問を振られたように言葉がとまる。

 おそらく完全に思考も動きも止まっているのだろう。

 だが、他人の事ばかり見て自分を顧みないのは少し異常だ。

 だから踏み込みすぐだという自覚はあるがそれでもその質問をぶつけた。


「そ、えーっと、どうしても、ですか?」


「ああ、俺は聞きたい、どんなことでもいいから」


 無言が帰ってくる。

 それをじっくりと我慢強く待つ。

 きっといつか話せると信じて。

 だがいつまでたっても何も返答がない。

 まずい。

 そんな焦燥感が満ちて慌てて返す。


「いや、いいプライベートな事だったな、俺もデリカシーがなかったよ」


「えっと その」


 ようやく帰ってきた木下からの返答はかなり切羽詰まっている

 ここで俺も慌てたらまずい。

 だから、俺は大きく息を吸い――


「わっ!!」


 周りに特に民家がないことを幸いに受話部分に大声で叫ぶ。

 慌ててスマホを耳にもってくると、向こうから困惑した声が来る。


「ど どうしたんですか?」


「ああ、すまんちょっと調整ミスった」


 という前提しにして話しかける。

 荒っぽいが、思考があることに取り付かれるようになったら一度驚かせるのも手だ。

 だからまた俺がやらかしてしまった思考の堂々巡りに入る前にあわてて別の会話を振る。


「ところで木下は下校時間がとっくに過ぎた学校ってどうなっていたか知ってるか?」


「え?」


 少し俺の話に気が向いた隙にまくしたてるようにして話しかける。

 さっき俺が踏んでしまった地雷の事を考えながら、木下の気を散らせるように話しかけながら家路を急いだ。

明日も頑張ります。

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