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第二二話

何とかできました。

「とぅ!!」


 そんな軽い掛け声と共に腹部に衝撃が入る。

 いきなり入った衝撃に飛び起きる。


「ぶぇ!!」


 そこはもうすでに暗くなった保健室だ。

 腹にはガーガがのしかかっている。


「また深い眠りに落ちかけていたからぞ」


「すまんガーガ」


 もう下校時間はとっくに過ぎているらしい。

 ガーガは続いて話を続ける。


「原因はわからんがアモリ、お前は外的な刺激がないと目が覚めることができない体になった」


 そこで頭を下げてくる。

 声色は本当に申し訳なさそうだ。

 そんな様子のガーガに首を横に振り答える。


「いや、気にするなガーガたちのせいじゃない」


 おそらく原因はヒュプノスだ。

 と伝えようとして気づく。

 カーテンの向こうに誰か来た。


「む、すまん隠れる」


 とガーガは告げてベッドの下に逃げ込んだ。

 俺はというと何食わぬ顔で来た相手を出迎えることにする。


「大谷君、目が覚めましたかぁ?」


 相手はヒュプノスだ。

 とっさにガーガに伝えようとして口から出た言葉は――


()()()()()()()()()()()()()()()()


 言った自分が一番驚く。

 保健室の養護教諭は別人のはずだ。

 だがなぜかその名前で納得する自分もいる。


「元気そうで何よりね、ほら早く下校しなさい」


 といって荷物を手渡され追い出される。

 渋々昇降口に向かっているとスマホに着信がある。

 送り主として表示された名前はネムとある。

 震える指で受けると向こうから聞こえるのはヒュプノスの声だ。


「おまえ、何をした」


 固い声で問い詰める。

 電話の向こうの相手は愉快そうに笑いながら返答してくる。

 日が落ちきり外から入ってくるわずかな光しかない暗い通路で立ちどまりながらだ。


「聞きたい事はいくつかあるのでしょう? どれから聞きたいですか?」


「このっ!!」


 楽しんでいる声に感情が高ぶる。

 が何とかそれを押さえつけて会話を続ける努力をする。

 ゆっくりと足を昇降口にすすめる。


「眠っていた人は無事なのか?」


「ええ、もちろん眠っていたこともなくなったくらいですよぉ」


「なくなった?」


 その返答に首をかしげながら聞き返す。

 通学用の靴に履き替えて校舎の外に出る。

 なぜか出入りするための扉は鍵がかけられておらず自由に出ることができた。

 外気は少しだけひんやりしており心地よい。


「解決したわたしたちが起こした事件はなかったことになるんですよ」


「へぇ」


 だから大きな山羊が襲ってきたときの被害は何も残っていなかったのか。

 と内心納得する。

 もし解決できなかったらと思うと身震いする。

 表向きは平静を保てたことに我ながら驚く。


「そんなわけでわたしの力のほとんどを渡した存在が丸ごと吹き飛んだので事件は解決しました、めでたしめでたしってやつですね」


「……そこだ」


 疑問に思っていたことがそれだ。

 解決したのになぜか外の世界にヒュプノスが居て、養護教諭としているのかという事だ。


「どうしてお前が外にいるんだ? そして元の養護教諭はどうなった?」


「前半の答えはさっきもいましたよね、最後の陽川ちゃんとガーガの一蹴りでこっちの世界に出てきてしまったわけです」


「まてまて、いなかった存在が居るっておかしいだろ」


 その突っ込みを素早く行う。

 だがヒュプノスはクスクスと笑ったまま答える。

 その口調は弟の質問に答える姉のようにやさし気だ。


「そこです、起きるのがかなり難しかったでしょう?」


「そういえば……」


 陽川もガーガも上昇速度が遅いことを何度も言っていた。

 その負荷こそがヒュプノスを底につなぎとめていた物だったのだろう。

 そしてそれを振り切らせたのは――


「俺か」


 そう呟いてやらかしたことに愕然とする。

 そんな俺に対してヒュプノスがフォローしてくる。


「まぁまぁ、わたしでまだよかったですよぉ、乱暴なことは苦手ですし」


「……安心できないんだよ!!」


 思わず言い返す。

 それなりに大きな声だったので自分でも驚く。


「そうだと思うなら監視した方が良いですよぉ」


「言われなくてもそうするつもりだ」


 そう話しているが、なぜか陽川やガーガに伝えるつもりが湧かない。

 頭ではどう考えてもおかしなことだと理解している。

 だがなぜかそれを行動に移すことに大きな抵抗を感じている。


「そして元の養護教諭の方ですが……」


「どうなったんだ?」


 急かすように返答する。

 その様子が面白いのかヒュプノスはクスクスと笑い声をあげた後で話始める。


「今までいなかった存在が出て来たわけですから、弾かれて別の場所に収まっているでしょう」


「……調べる方法なんてないからその言葉を信じるしかないな」


 もう顔なんて覚えていないが、元気ですごしていることを祈る。

 そうして感じている違和感への答えを聞く。


「俺の頭になにか仕込んだな?」


「まぁ、さすがに気付きますよねぇ」


 俺をほめるような口調で続けて話す。

 声質は人を安心させる柔らかな声なのでむずがゆいようないら立つような不思議な感情が湧く。


「積極的にいじったわけではないですけど、いまだにつながってますからね」


「あの紐か……」


 思い出すのは夢かわ覚める直前で見えた手首につながっていた紐だ。

 口にするとさらに実感がわく。

 あれのせいでヒュプノスの不利になることはできないのだ。


「とにかくこれからよろしくお願いしますね、大谷君」


「……」


 悪態をつくのも何かが違う気がして通話を終える。

 するとSNSアプリの方に通知が来ている。

 送り主は――


「木下だ」


 中を開くのはあとにして、とりあえず帰宅し部屋に戻る方を優先した。

明日も頑張ります。

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