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第二一話

間に合いました。

 目が覚めるとき特有の浮遊感を感じる。

 なんとなく察する、これで目が覚めるのだ。

 が、手を引く陽川の表情は芳しくない。


「どうした?」


「……思ったより浮上できていない」


 その渋い表情のまま陽川は言葉を続ける。

 手で引かれているだけの俺はむしろ順調に昇っているように見える。

 すると遠くからガーガもやってきた。


「まずいぞ!! 追いかけてきている!!」


 切羽詰まったその声に思わず下を見た。

 そして後悔した。


「なんだ……アレ」


 泡立つ体を無理やり型に流し込んだような四足歩行の物体が駆け上がってきている。

 泡立ち、溶けて、崩れて、中の骨が見える。

 その骨はガリガリにやせ細った死体が組み合わさったものだ。

 前の姿はまだ愛嬌に近いものがあったが、完全に化け物だ。


「眠りと死は近しいものがあるためだな」


 ガーガは厳かにそう呟いて下から迫ってくるモノを見る。

 その視線は哀れみに近い感情がこめられている。


「なんでそんな目で見ているんだ?」


 陽川もまたガーガの視線を不思議に思っていたようでじっとガーガを見ている。

 その疑問を無視して俺の逆の手をガーガは掴む。


「全力で行くぞ!!」


 すると明確に追ってくる化け物を引き離し始めた。

 覚醒が近くなったらしい。

 ガーガは陽川に目配せする。

 陽川もまた大きくうなずいた。


「我慢してね」


 そう俺に伝えて手を離す。

 同時に下にダイブする。


「なっ!? 足止めか?」


「ちがう!!」


 ガーガは短い言葉でそう伝えてくる。

 続いてダイブした陽川は反転し――


「なんで俺に向かって弓を引いてるんだ!!」


「落ち着け」


 ひかれた弓に貯められた光量は巨大な羊に致命傷を与えたあの時よりまばゆい。

 抗議の声を上げるがそれを無視して陽川は放った。


「あ、これ、しぬ」


 と覚悟を決めると、猛烈な勢いで上に射出される。

 瞬きをする間に追いかけていた化け物が豆粒のように小さくなった。

 続いてガーガが最後の一押しをする。


「あとはそこで目覚めろ!!」


 と言って俺を上に向けて蹴り上げた。

 それで何となくわかるここで目覚めるのだ。


「すまんな!!」


 と感謝の言葉を言って起きるのその寸前。

 腕に違和感がある。

 何重かに巻きつけられた紐が付いている。

 今までそんなもの見えなかった。

 何か物を吊っているように張り詰められてる。


「まさか」


 背筋に悪寒が走るが目覚める。


 ()()()()()()()()


=====


「っ!?」


 飛び起きる。

 そこは学校の保健室のベッドだ。

 ベッドの周りは白い厚手のカーテンで視線が遮られている。

 おそらく廊下で気絶するように眠ってしまったため運び込まれたのだ。

 最後に見えた物のせいで何とも言えない不安と焦りを感じる。


「何だったんだ、アレ……」


 ただの紐だ。

 それまで見えていなかっただけでその前の化け物の方が圧倒的に危険なはず。

 そう自分に言い聞かせて納得させる。


「起きましたかぁ?」


 耳にやさしい声と共にカーテンが開けられる。

 そこに居たのは――


「!? お前は!!」


「ふふ、こっちでは初めましてですねぇ」


 ヒラヒラと手を振り挨拶をしてくるのは白衣を羽織ったヒュプノスだ。

 唐突に様々な事が思い出される。

 ゲームのあとたしか――


「不思議そうですねぇ」


「待て!! 今思い出している」


 思わずそう言葉を返す。

 するとヒュプノスはにこにこと笑みを浮かべてうなずいた。


「いいですよ、まだ時間はありますし」


 といって近くに置かれている椅子に腰かける。

 身長の割には体重が軽いのか軽い軋みでヒュプノスの体重を受け止めた。

 よく見ると椅子の高さもヒュプノスに合わせてあるのかかなり高い。


「ゲームで負けた後、手を繋がれたんだ……」


「思い出したようですね」


 満足げにヒュプノスはうなずく。

 表情だけ見るなら生徒が正答したように満足げだ。


「起こす能力を与えるより、解決させる能力を与えた方が怪しまれないですしねぇ」


「……なんでこっちにこれたんだ? ()()()()()()()()()()?」


「なんでだと思いますか」


 頬に人差し指を当てて悪戯っぽい笑みを浮かべ小首をかしげて言葉を返してくる。

 事情を知らない人間なら少し胸が高鳴るかもしれない。

 が、俺からしたら唯々空恐ろしいだけだ。


「……陽川の射撃とガーガの最期の一蹴りか」


「そうですねぇ、アレに直撃したらの時の私もただでは済まなかったですしね」


 しかしまだまだ疑問が頭の中で回っている。

 何から話せばいいのかもわからないまま押し黙っている。

 するとヒュプノスの方から口を開く。


「私は夢の世界の奥底、あなたたちが死の世界と言っていた場所にいました」


 そこで軽く肩をすくめ、続きを話す。


「まぁ、望んで居たわけではないので出る機会を探っていたわけですねぇ」


「それで俺がのこのこやってきて、抜け出る手助けをしてしまったというわけか」


 そこまで言って後悔に押しつぶされる。

 せっかく何とかできたのになおさらまずい事態を起こしてしまったのだ。

 俺のその様子にクスクスと笑いながらヒュプノスが話しかけてくる。


「まぁ、そちらにとって悪い事ばかりではないですけど」


「なんでだ? 本体が出てきてしまったんじゃないのか?」


「本体と言えば本体ですけど、力のほとんどは夢の世界で倒されたあの羊に渡していたんですよねぇ」


 は?

 と割と鋭い声が出た。


「待て待て、目的がわからない」


「うふふ、そろそろ人が来るのでそこのところはまた後で」


 と感情の読めない笑顔で一方的に告げて椅子から立ち上がってカーテンを閉めてきた。

 降りて追いかけようとして、気づく。


「あれ? 体に力が……」


 流れるようにあくびまで出て来た。

 グラグラと体の芯が定まらず、倒れ込んでしまう。

 瞼がとてつもなく重く、思考が鈍っていく。


「く……そぉ」


 そう言葉を残して三度寝に突入した。

明日も頑張ります。

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