第二〇話
投下しました。
「あぶない!!」
光と共にそんな声が届きてきた。
分裂した光が俺の周りに着弾する。
ちょうどそこには下から追いかけてきた毛玉の羊が居た。
場所は通っている高校のようだ。
ただ広さがけた違いだ。
今立っている場所は校舎の屋上だが、見渡す限り校舎が連なっている。
地面もまたはるか下のように見える。
「魔法少女ソル☆シャイン!! 言った通り協力者を連れてきたぞ!!」
ソル☆シャインと呼ばれた陽川は一瞬本気でいやそうな顔をしてガーガを見る。
どうやらその名前には何か思うところがあるようだ。
まぁ十中八九恥ずかしいのだと思う。
ともかくソル☆シャインは太陽を模したと思われる髪留めで無駄にデカいツインテールを作っている。
魔法少女という肩書に合わせるためか年齢は少し下げられている。
顔立ちは今の研ぎ澄まされたソレから比べるとどことなくあどけなさは残されている。
不思議な素材の白やオレンジを基本にしたフリルと馬鹿みたいに目立つリボンが各所につけられたそれらしい格好だ。
手には身の丈ほどのシンプルな作りの弓を持っている。
一瞬だけ俺をみる。
その後非常に表現に困る表情を一瞬だけする。
むりやり言葉にするならホッとしたけど恥ずかしいが近いか?
そんな表情の後に近くに降りてきた陽川は意を決した様子でガーガに話しかける。
「よかった、本体まで行けなくて困っていたの」
「……」
ガーガは一瞬驚愕する。
その後陽川は俺にはばれていないと思っていることを思い出す。
なのでガーガは沈黙こそしたが、言葉を返した。
「本人から許可はとってある」
「よーし」
そう呟いて空高くジャンプ。
矢がつがえらていないユミの弦を引くと光で出来た矢が発生する。
それをたいして貯めることなく放つ。
すると裂けるように別れていき着弾した場所で光のドームが広がり広範囲を爆撃する。
どうやら隠れていた毛玉たちを薙ぎ払ったようだ。
「じゃあ、行きましょう」
「な!?」
白い手袋に覆われた華奢な手が俺の手をつかむ。
同時にガーガが俺の腕から離れる。
その瞬間おちる。
「うわっ!!」
しっかりとした地面に立っていたのに、飛び降りたような感覚を得る。
確かに日本の足で立っているのに頼りない。
バランスをとることもできず転び掛けるが――
「ほら、ちゃんと立って」
と、握られた手が少しだけ強く握られる。
だから陽川の方を見て頭を下げる。
「――ありがとう」
初対面を装う必要があるので言葉を選びながら話す。
俺からそんな言葉を言われることを想定していなかったのかわずかだが虚を突かれた顔になる。
が、すぐに持ち直し視線を下に向ける。
「ガーガ、ええっとパートナー? のあの黄色いニワトリからどこまで説明を?」
「下の階層の大きな羊を倒す手伝いをしてほしい、とだけ」
その言葉に陽川は軽くうなずく。
続いて俺を安心させるためか笑顔を俺に向ける。
「お兄さんには重りの役目――本体の羊がいる階層に私がいるための役目だけしてもらえば大丈夫です」
「戦う必要はない、と?」
「はい、その通りです、ただこの手を握っていてください」
といってつながれた手を示す。
少し気恥ずかしいが頷きで返答する。
その答えに満足したのか陽川は一つうなずいた。
そして下にたどり着いた。
「でっか」
「……」
現物を初めて見た陽川はその巨大さに思わずつぶやいた。
明確に敵と認識した存在が現れたからか寝ていた羊は立ち上がり始める。
が、陽川の方が早い。
「先手必勝」
歯で弦を噛み、片手で弓を引く。
糸が張り詰める音が聞こえ、そのまま五秒ほどキープ。
そして放つ。
「は?」
その光景に思わずぼけた反応を返す。
放たれた矢は俺の背丈の何倍も太い。
もはや柱のような矢は直進し、手前で分裂し矢の雨を降らせる。
「め――」
絶え間なく続く着弾音で羊の鳴き声がかき消される。
おそらく迎撃の毛玉も上げているのだろうが、それを大きく上回る物量だ。
着弾するたびに人が解放されていく。
「……圧倒的だな」
「ふふ」
とだけどこか自慢げな返答をしてさらにもう一射する。
今度は極太の矢のまま巨大な羊に突き刺さる。
一呼吸後、突き刺さったそこから泡立つように膨らみ。
爆ぜる。
「うわぁ……」
かなりグロいその光景にそんな情けない声が漏れる。
見た目こそ完全にスプラッタだが、夢の中だからか血も何も出ていない。
ただ風船がはじけたように見える。
「最後」
そう呟いてもう一射する。
放たれた矢ははじけて空を飛んでいる組織片に向かい一つずつ丁寧に撃ち落としていく。
「……早いな」
「誉めても良いぞ」
若干得意げな表情でそう返してきた。
それに対しては俺はそのまま素直に伝えることにする。
「おかげで助かった」
「む……いや気にするな」
羊の巨体は崩れ、捕まっていた人もドンドン解放されているようだ。
その様子を胸をなでおろして観察する。
「これで終わりか?」
「だと思う」
陽川は俺の手をつないだまま上に向かう。
そうしている間、何とも言えない不快感を感じる。
「……」
上をじっと見つめながら押し黙る。
何か大切なことを忘れているような不思議な感覚だ。
その不快感を感じたまま、陽川に手を引かれ上へと向かった。
明日も頑張ります。