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第一九話

何とかできました。

「……」


 開けた場所を避け、木々の間を縫うようにして隣接したソイツは本当にデカかった。

 途中から完全にただの壁に見えてしまいぶつかるまで歩いてしまった。

 一応ガーガからレインコートのような物を着せてもらいそれのおかげで多少の事は無視されるらしい。

 量が膨大すぎてただのそういう地形だと言われたら納得できそうだし、登ろうにも綿を積み重ねられたようなものなので途方に暮れる。


「どうしようか……」


「そこらへんは為せば成る、綿だと思わず足をかけて見ろ」


「なら、よっと」


 軽く沈み込むがそれでも体重を支える程度には踏むことができた。

 低反発マットレスみたいな感触だ。


「これからは上だけを見ろ、下を見たら飲み込まれるぞ」


「あ、ああ」


 真剣なその言葉に気おされながらもうなずく。

 その様子を見て、ガーガは納得したのか深くうなずく。

 そして俺に話しかけ続ける。

 声色は明るいが、しかし話し方はどこか切羽詰まっているようだ。


「さてそのまま上りつづけながら話を聞いてほしい」


「わかった」


 頷きただ羊の体を登る。

 体感時間は最初の森から考えると数日程歩いた気がする。

 しかしまだまだ疲れは感じず快調に登れている。


「ここが夢の世界だとは知っているな」


「ああ」


 頷きつつしかし視線はまっすぐ向かう先を見つめる。

 チラホラと埋もれるようにしている人間が見える。

 全員おだやかな寝顔だ。


「体力の限界を感じなかったり、妙なものが見えているな」


「妙なモノもなにも、その妙なものに登っているからなぁ」


 その言葉がよほどおかしかったのかガーガは軽く噴き出す。

 体をひくつかせながら会話が中断する。


「ええい、たしかにこいつは妙な存在だが」


「わかっている、いまのところ埋まっている人位だな」


「ならいい、そいつらのように眠りたくなったらガーガに言え」


 その言葉に聞き返す。


「何かしてくれるのか?」


 俺の声をガーガが一刀両断する。


「蹴り起こす」


「うへぇやめておく」


 そんな話をするうちに周りの様子が変わってきた気がする。

 寝ている人間が増えてきたのもあるが、何よりも――


「めぇぇ~」


 かろうじて羊に見えるほぼ毛玉が人を巻き込んで空から降ってきている。

 そいつは羊毛の斜面に着地すると溶けるようにして巻き込んでいた人を残して消える。

 これがこいつの食事風景なのだろう。


「この降ってくる奴全部がそうか……」


「ああ、そうだ」


 ガーガは周りを見渡してつぶやく。

 その口調は止めることができなかったことを後悔しているようだ。


「そしてこれだけ大量の人間を取り込んでも餓死に向かっている迷惑な奴でもある」


「そういえば……」


 今更だがかなり大切なことを聞いていなかったことを思い出す。

 ここまで気づかなかったことも俺の頭がどこか寝ている証拠だと思う。


「餓死――まぁ、コイツが死んだら取り込まれていた人間はどうなるんだ?」


「昏睡するのが八割、一割は即死、運が良ければ体か精神のどこかに障がいが残る」


「それが世界規模か……」


 あまりに規模が大きすぎてピンとこない。

 何となくだが地域単位などもう少し小さいほうが危機感を感じていたかもしれない。

 と不謹慎なことを考えたことに気付き自己嫌悪する。


「どうしたアモリ?」


 腕の中のガーガからそんあ声をかけられる。

 だから少しだけ腕に力を込めて首を横に振り答える。


「なんでもない、ただ遠いなと」


 こうして話しているので大して時間はかかっていないはずだが、もうずいぶんと長い間登り続けている気がする。

 もうここら辺は寝ている人間はおらず、毛玉が飛び上がっていくだけだ。


「もうしばらく――というよりてっぺんだな」


「てっぺん――ああ、見えた」


 と言ってもまだまだ先のように見える。

 しかし今まではゴールらしいゴールが見えてない状態でただ歩き続けてきた身にはやる気が出てくる話だ。


「さて――行きますか!!」


 と駆け出したときガーガが慌てて口を開く。


「まて、勘づかれる!!」


「え?」


 だがもう遅い。

 駆け出した足はそう簡単に止まれない。

 ぷかぷかと浮かんでいた毛玉が一斉にターンして俺たちの方に飛んでくる。


「しまった!!」


「謝る時間があるなら少しでも前に行け!!」


 その声に押されるようにして全力で駆けあがる。

 勾配からすると不可能なはずだが夢の中だからか全く問題なく進める。


「捕まったらどうなる?」


「とりこまれうだろうな」


 おもったように動ける身なので前からまっすぐ突っ込んでくる毛玉を低く飛び越す。

 走っている地形そのものは今のところは無反応だ。


「騒ぎが起きていても無反応って気味が悪いな」


 はき捨てるようにつぶやく。

 怖いから後ろを振り返らないが圧力がすごい気がする。


「ちらっとしか見てないがとんでもない量だぞ、よほど逃がしたくないらしい」


「こんな毛玉に好かれてもうれしくねー!!」


 そこでガーガはしばらく考え込んでるようで、しばらくは無言だ。

 そのあとようやく口を開く。


「毛玉じゃないならうれしいのか?」


「そういう意味じゃないからな」


 若干脱力するが良い感じに肩から力が抜けた気がする。


「アモリ!! 合図をしたら思い切り上に跳べ!!」


 頷く前にガーガが合図をする。


「いまだ!!」


「よし!!」


 何とかガーガの言葉に合わせて頂上で上に飛びあがり――視界いっぱいの光を見た。

明日も頑張ります。

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