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第一六話

今日こそ間に合いました。

 相手は人差し指を立てる。

 顔には余裕の笑みが浮かんでいる。


「さて何となくは理解しているでしょうが勝利条件を特定し、それを達成する事がゲームの流れになります」


「わかった」


 二段階の手順があると理解する。

 おそらく残された質問回数を使用して勝利条件を確認、それを達成する。

 はっきり言えば相手側に極端に有利なルールだ。

 そしておそらく答えが二択のままだったら気づかず手番を浪費していた。


「ここまでで質問は?」


「ある」


 おそらく質問する回数を使用するに足ることだ。

 少しだけ考えてから口を開く。


「勝利条件を達成するには質問をのこした方が楽なのか?」


 ハイととれるなら一つは残す。

 イイエととれるなら全部使用する。


「内容によりますねぇ」


「は?」


 異常な答えだ。

 言葉をそのまま考えるなら勝利条件の内容によっては質問する回数を残しておいた方が良い。

 つまり相手は勝利条件を把握していないという事だ。

 だが相手は俺が達成困難な勝利条件はないと言い切った。

 答えが矛盾している。

 そして手元のカードは六枚に減っている。

 つまり回答と数えられたわけだ。


「……」


「黙っていては何も進まないですよぉ?」


 急かすように話しかけてくる。

 その表情はまだまだ余裕があり、外からの妨害を気にしている様子はない。

 回数制限付きの質問という事で思考が迷走しているのがわかる。

 その理由も理解できる有効活用しようとしているからだ。

 少ない質問で安全に勝利条件に至り、あわよくば嘘をつかないと宣言した答えを知りたい。


「大谷くん、一ついーい?」


「なんだ」


 相手の目はこちらの考えを見透かすように深い。

 その口元にはどこかやさしい笑みが浮かんでいる。


「欲張りはよくないですよぉ」


「……」


 押し黙る。

 軽い警告。

 だがそれに意味がないはずがない。

 そこで思い返すのは先ほど手の傷を治したり、そもそも最初は俺が起きるまで待っていたり、敵対している相手なら不可解な行動ばかりだ。

 思考が危険な方向に行きかけるが、これらの行動をそのまま受け取るなら心配しているという事になる。


「すまん、待ってくれるか」


「ええ、全然いいですよぉ」


 ニコニコと笑いながら了承した。

 なにか決定的なズレがある。

 相手は俺が思っているような立場なのかという事だ。

 あと六回しかないものをそれを使うに足るかどうかはわからない。

 だがこの確認ができれば話は変わる。

 そしてこれは俺が思っているような相手なら当たり前すぎて引っかかる落とし穴じゃない。

 また、そうじゃないならある意味矛盾するのでありえない。


「お前は俺と敵対していないな?」


 まず起きたのは向こうから聞こえる控えめな笑い声だ。

 そして満面の笑みで()()()()()


「なかなかいい質問ですねぇ、陽川ちゃんも含めたらイイエでしたからね」


 椅子の背もたれに体重を預ける。

 通った、という達成感を感じる。

 敗北したときのペナルティが巨大だからこの考えに至らなかった。

 味方まではいかないだろうが、あくまでこれは遊びだ。

 むしろ

 考え方の規模が違っていた。


「これはなかなかデカいな」


「そうですか?」


 首を傾げて反応してきた。

 そのあどけないともいえる反応に惑わされないように気を引き締める。

 俺の表情にクスクスと笑いながら続きを促してくる


「では続きをしましょう」


「ああ」


 二つ三つ確認する事がある。

 敵対していないというならお願いできることだ。


「……昨日取り込まれた人がどうなっているか話してほしい」


「今のところは無事ですよぉ」


「今のところはって……」


 その言い方に愕然とする。

 そして手元にあるカードは5枚のままだ。

 どこまでが有効なのかわからないが言ってみるだけならやっても良いだろう。


「あ~、悪い事考えてますねぇ」


 悪戯でも発見したような顔をしている。

 口調は軽いが空気が変わる。

 背中に氷が突っ込まれたように鳥肌が立つ。

 腹の奥が絞られたような違和感を感じながらなんとか声を絞り出す。


「大丈夫だ、もうしない」


「ええ、ならいいですよ」


 多用されるのは流石に気になるみたいだ。

 確かにルールの悪用みたいなものなのでマズイのは確かだろう。

 ここで情報を整理する。

 まず前提条件として、敗北条件を満たすと世界中の人が終わらない眠りに落ちる。

 そしてその条件は知ったらいけない知識を聞き出す事。

 勝利条件を聞き出して、それを満たすことを俺は目指さないといけない。

 使える質問はあと五回。

 不思議なことに相手も勝利条件は把握していない様子だ。

 最後に俺とは敵対していない。


「あ!!」


「どうしましたかぁ?」


 そこでようやく気付く。

 敵対していない相手とこんなに長々と話すなんて交流を取りたいからだ。

 つまりは人となりを知りあおうという事で――


「あんたは外で動ける仲間が欲しいのか?」


「はい」


 あと四回。


「勝利したら何が起きる?」


「外にお返しして、寝ている人は何事もなく起きますね」


 あと三回。


「あんたは起きないといったが、起こす方法はある」


「はい、ありますね」


 あと二回。


「あんたは俺が負けたら、何らかの代償でその方法を俺に教えて外に返すつもりだった」


「その通りです、裏切れないようにちょっと細工をしてですね」


 あと一回。


「勝利条件は――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 パチパチと手を叩き、嬉しそうに笑っている。


「いやぁ、すごいですねぇ、手探りでここまで来るなんて――最後の答えは()()()()


 どっと疲れてへたり込む。

 ここまで詰めた心労だろうか。

 腰が抜けて立てない。


「大丈夫ですかぁ?」


「あぁ――いや、無理だ」


 立とうとしてどうにも立てない。

 その様子を見てくすくすと笑いながら俺の脇に来て手を差し出してくる。

 それに捕まりたちあがりながら。


「すまんな、あー」


「どうしました?」


 俺の様子がおかしなことに気付いて心配そうにこちらを覗き込む。


「そういえば名前を聞いてなかったなっておもってな」


「ヒュプノス」


「そうか――」


 掴まれた手がびくともしない。


「は?」


 空気が変わる。


「大谷亜守くん、あなたの負けですよぉ」


 その言葉を最後に意識が闇に呑まれた。

明日も頑張ります。

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