第一二二話
出来ました。
押し黙り考える。
黒い仮面をかぶったエキドナ。
白い仮面をかぶったガイア。
その二人が連れ出してほしそうに手を伸ばしている。
「まて、考える時間をくれ」
その言葉に二人はしばらく黙っていると――
「わかった、選ぶ気になったら呼んで」
と言って風に溶けるようにして消えた。
それを見送って腕を組み、一言もらす。
「どうしたもんか」
ぼやくが答えはわからない。
そもそも正解を連れて行ったら本当に何とかなるのかなんて――
「あ、そうか、そういう事か」
今更気づく。
言ってしまえば二人とも親の愛を受けずに育った。
つまり――
「どっちかを選ぶこと自体が罠だ」
罠と言うと悪意がありすぎるが、選んで終わりという代物ではないというのが答えなのかもしれない。
さて。
とつぶやいてその場に座り込む。
脚の大部分がグレートマザーの泥に汚れるが無視をする。
むしろ今は落ち着いて考える時間が欲しい。
「見た感じグレートマザーは自意識がないんだよな」
ただそこにあり、叫ぶこともすることなくその場にたたずんでいる。
求められたら動くのだろう。
「母親のようにってことか」
ある種の無償の愛だろう。
人であるならそれほどの巨大な愛は振るうことはできない。
だが相手は見てのとおりの規模を持っている。
どんな存在であろうと子である限り愛を注ぐのだろう。
「だけどのその愛はあまりに一方的だ」
泥に包まれば不安もなく巨大な母親の中でずっと眠る。
だけどそれはあまりにもエゴに満ちている。
その姿はやさしく温かだけど、袋小路だ。
「そんなグレートマザーとガイア=エキドナがどうにもつながらないんだよな」
制圧と同化で違うから能力の発言の仕方が違うと言っていた。
「だけど出産と回帰って逆すぎないか?」
確かにどちらも母親を示すような能力だが行っていることは逆だ。
「……ここはふたばとヤヌスの中だ、そしてその中にグレートマザーのまがい物がいる」
ん?
と疑問が浮かぶ。
だがその疑問は一度そのままにしておいて、思ったままを口に出す。
「つまりグレートマザーが呼び出した存在で、その力が二人を通ることでガイア=エキドナとして産む力になっているのか」
口に出せばようやく納得できた。
産むのは未来を創る行為だ。
つまり生きている二人だからこそ産むという形で能力を振るうことができている。
それに対して、グレートマザーは育った子供を腹の中に戻すような行為を行う能力だ。
生きている母親と死んだ母親のような対照的な能力だ。
そしてさっき感じた疑問を咀嚼して口にする。
「なんでここは二人の中なのに世界が一つなんだ?」
根本的な疑問だ。
人格が二人なら普通に考えて二つないとおかしい。
つまりどこかにもう一つあるか――
「そもそもないかだ」
ここに入ってくる前の話だと元居た人格は消える。
それを考えるなら消えていないもう一人の心の世界だという事だろう。
「経緯はともかく、グレートマザーはまがい物でも呼ばれているという事は一人の人格は消えているんだろうな」
そしてもう一人の方に間借りしている。
「ああ、それが欠けた分か」
と言いながら手の中のガラス玉を見る。
そう考えるとガイア=エキドナの仮面のデザインを引き継いだ仮面をそれぞれが付けているのかにも納得する。
「一人のガイア=エキドナをガイアとエキドナで分けているからか」
そうして思い込みに近い考えをまとめていると段々わかってくる。
「おそらくふたばかヤヌス、どっちかがグレートマザーへの愛情以外をどこか望んで居る」
それこそ二人とも望んで居たら、俺を襲って片方の精神のかけらを奪って泥に飛び込んで終わりだった。
連れ出してほしいと望んだことは本心だっただろう。
だが選ぶだけだとゲームオーバーだった。
残された方が唯一のすがれる存在であるグレートマザーを望んでしまうからだ。
「でもこれ詰んでるな」
そう、詰んでいる。
うーん。
とさらに悩む。
この騒動に巻き込まれた辺りからの事を思い出す。
そうすると参考になるのはヒュプノスに挑んだあの世界の事だ。
「あの時は巨大化しすぎた羊が自滅するとかで楽だったが……」
それをグレートマザーに期待するのは望み薄だろう。
最終目標と能力が生命体全部を飲み込むことなので自身規模を維持できないなんてのはありえないだろう。
と、あることに気付く。
「てことはあのデッカイグレートマザーも一人分でしかないのか」
言って疑問に思う。
「なんでエキドナとガイアが飲み込まれてないんだ?」
望まれてないからと言ってしまえばそうだが、一対一なら飲み込まれていてもおかしくないだろう。
考えれば考えるほど単純な話が複雑になる。
だから一番単純な疑問を口にする。
「あのグレートマザーは誰が呼んだんだ?」
その疑問が浮かんだ瞬間、ある考えが浮かびそこから次々と考えが連鎖する。
間違っていたら大ごとだが、相手であるエキドナとガイアの反応を見て動けばいい。
それに何より相手が突きつけてくる条件なんて無視してもいいのだ。
「決めたよ」
すると目の前にエキドナとガイアが現れる。
そして二人は同時に手を差し出して問いかけてくる。
「さぁ、どちらを選ぶの?」
「ああ」
強くうなずいて手を伸ばし――
「二人とも連れていく」
二人の手を握った。
明日も頑張ります。