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第一二一話

出来ました。

 そこは黒い泥のような物が広がった空間だった。

 灰色の空と遠くに見える黒い泥を滴らせる巨大な人型が見える。

 だが見た目の不気味さに反して落ち着く空間だ。

 泥はぬるま湯程度の温度で不快さは感じない。

 深さもまた足首程度で多少歩きにくい程度だ。


「ここは……」


「グレートマザーの心象風景と言ってもいいかもな」


 いつの間にかいたガイアが話す。

 それに続けてエキドナも話す。


「そし  て  夢」


「どういうことだ?」


 俺からしたらただどこか寂しいだけの世界だ。

 するとガイアが手を引いてくる。

 それに従って足を進める。

 するとしばらく歩いた先に地面に座り込んでいる人間がいる。

 膝を抱え、身を丸めている。

 その全身は黒い泥に覆われている。

 顔が見えないので何とも言えないが年齢は中年に入ったくらいだろう。


「この人は?」


「かえった  ひと  おなか  のなか に」


 エキドナがゆっくりと泥を払う。

 思った通り中年の男だ。


「……」


 億劫そうに泥を救い上げ塗りたくる。

 その動作は子供の泥遊びのようだ。

 だが、それも面倒になったようですぐに地面に倒れ込み、地面に沈んでいく。


「気づいてないかもしれないけど、この泥温度も感触も母親の胎内と同じなんだよ」


「そうなのか?」


 いまいちピンとこないので聞き返すと、ガイアがさらに話す。


「君もここがとっても心地よい空間に思えるだろ?」


「まぁ、確かに不自然なほど落ち着いている」


 得体のしれない空間だが段々ここにずっといてもいいと思えてくる。

 ここがグレートマザーを名乗る敵と思ってもいい存在の本拠地と言ってもいい場所なのにだ。


「この泥は人に栄養を供給する、そして痛みもなく穏やかでいることができるようになる」


 そして、とガイアは続ける。


「もしこの泥で地球が覆われたならすべての命はただ穏やかにガイア=エキドナが保つ平和の中でいることになる、災害や疫病もなくただ生まれ、眠り取り込まれる世界」


「恐ろしい世界だな」


 俺の言葉にガイアもエキドナもうなずく。


「そう、すべての時間が意味をなさない時計の針がただ進むだけの世界、穏やかな世界の終わりだね」


「地球 そのもの  それが目的」


 そこまで話してふと考えるのはある不自然な点だ。


「そういえばグレートマザー……ガイア=エキドナか? それらの妨害に当たる存在がいないんだが」


 中に入るまでは散々妨害してきたのにここに入ってからはむしろ中の案内を行ってくる。

 その対応の違いが不思議になって問いかける。


「その理由は、当たり前だけど弥生は死んでいるから、もうある程度目的は達成していたんだよね」


「ヤヌス  が  おきたら 終わりだっ  た」


 何かを思い出すような口調でエキドナが話す。


「親から  愛情  を受けれ ず    それでも……」


 自分の体を抱きしめるようなポーズで話す。

 それは何かを怖がっているようだ。


「手に入れることができなかった親からの愛、それこそがグレートマザーが仕込んだこと、そしてたった一人――いや二人の孤独がガイア=エキドナを呼び出したわけだ」


「たった二人で……か」


 その言葉にエキドナが首を振って否定してくる。


「ち  がう」


「たった一人の狂気でとんでもない数の人がまきこまれることもある、そしてたった一人が呼び出した神が大暴れした例を見ているだろう?」


「確かにな」


 はっきりとした例は江種から出たビーナスだけだが、その前段階だけでもうんざりするほどの影響が出た。

 そして、ユピテルなどもおそらくは個人だ。


「なにより、親からの愛情への欲求は子供の頃に受けることができなかったらドンドン積み重なるモノ、実際そのせいで精神への障害を得た程致命的なものだ」


 親からの愛をはっきりと自覚している俺にはどうにもピンとこない。

 だが、地平線に見えるような巨大な存在を願ってしまうほどの大きな穴が開いていたということだろう。


「実のところアレはただの象徴で、呼び出したガイア=エキドナですら()()()()()()()にすぎない」


「アレでまがい物かよ」


 ぼやく。

 思い出すのはほぼ全員が捨て身のような時間稼ぎをしてようやく俺一人を送れたくらいの分厚い戦力。

 規格外のその名前通りの存在だった。


「でもガイア=エキドナと、あのグレートマザー持ってる能力が違う気がするんだが?」


「制圧 と同化 の   ちがい」


「ああ、なるほど」


 さっきから俺が教えてもらってばかりだ。

 そんなこと思っていると二人は小さく笑っている。

 そして同時に話す。

 その声は一つの声に聞こえるほど完全に被っている。


「さあ、選択して」


「え?」


 そこで動きが止まる。

 俺の鼓動が聞こえるほどの静寂が満ちる。

 香るのはどこか湿っぽいにおい。

 目の前には黒い仮面と白い仮面をつけた二人。

 それぞれが右手を差し出している。


「どちらかを連れ帰ればいいのか?」


 俺の言葉に二人はうなずいた。


「ただし、残された方が親からの愛情を求めるならこのままグレートマザーは生まれ、二人はここから逃げだせない」


「な……」


 選択の意味を理解する。

 連れて帰る方を間違えたらそのままこの世界に取り込まれる。


「まて!! おれはこれがあっても無駄なのか?」


 といってガラス玉のようなふたばの心の一部を取り出す。

 それに対して二人は同時にうなずく。


「そう、それを取り込むから全部そろう」


「おいおい、マジかよ」


 重要アイテムだったが結局は大きな意味を持たなかったことに絶望する。

 手の中の心のかけらを見つめて、二人に視線を向けて考え込んだ。

明日も頑張ります。

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