第一二話
間に合いました。
道端で救急車を待つ。
学校に連絡をするとどうやら同じように家で倒れたり道端で倒れた生徒が居たので登校は保留されているらしい。
サイレンを鳴らしながら来た救急車から出て来た隊員は一人一人の状態を確認して渋い顔をする。
不安になったが、話しかけて仕事の邪魔をするわけにはいかないので様子を観察していると隊員の一人が俺の方にやってきて話しかけてくる。
「君が通報した子だね?」
「はい、登校途中だったんですが倒れているのを見かけて通報しました」
「そうか、ありがとう」
なにかあるんですか?
という一言を言えずに押し黙る。
そうしていると救急車とは別のサイレンが聞こえる。
パトカーだ。
どうやら消防から連絡がいったらしい。
「あ、そういえば忘れていた」
どう考えても何か事件があったと思える状況だ。
警察に連絡するのが筋だったと思い当たる。
しかしやってきた警察官も気が動転していたと思ってくれたらしく状況の説明等を頼まれたぐらいで解放される。
一応連絡先は押さえられたがこの程度は大丈夫だと思う。
「協力ありがとうございました」
と警察官が敬礼して見送ってくれた。
とりあえず向かう場所が思い浮かばない。
だから登校するかどうかあやふやな状態になっている学校にとりあえず向かうことにした。
=====
「おはよう亜守」
「月宮……きていたのか」
教室に入ると月宮から挨拶される。
人は三分の二ほどはいるように見える。
全員突然の事態にクラスの全員がどことなく浮ついた様子で噂話のような物を行っている。
すると月宮がふと俺の方を見て首をかしげる。
「そういえば陽川さんは?」
どうやら月宮の中で俺と陽川はコンビ扱いされているらしい。
前途多難だなぁ。
とぼんやり思いながら適当に返す。
「さあな、途中まで一緒だったがなんでも今日ははやめに来る必要があるとか言ってたな」
「ふぅん」
と気のない返事が返される。
とりあえず担任の教師を待つため席に座る。
と、月宮の目は鞄に向けられている。
「なんだ? 月宮?」
「それって?」
指さしたそれはガーガのマスコットが付けられたキーホルダーだ。
それに対して軽く笑いながら返事をする。
うまい事興味を持ってくれと祈りながら。
「ああ、これか? 陽川が付けてたやつと同じキャラ物の奴だな、どこぞで取ったやつだな」
「へぇ」
その視線は相変わらずマスコットに向けられている。
微妙な手ごたえを感じながら話を進め、あわよくば月宮が陽川に話しかけるきっかけになることを祈る。
「陽川に話したら一個くらいならもらえるかもな」
「あ~、いや、そこまではいいかな」
と変に潔く引き下がった。
そのことは不思議に思うが、突っ込んだ話ができるわけではないのでそこで引き下がるようにする。
そうしたとき、ちょうど担任の教師が教室に入ってきた。
全員慌てて自身の席に戻る。
教室に居る全員が席に戻ったのを確認して教師が一つうなずく。
これと言って特徴のない男性教師は教卓に手をつきながらゆっくり話す。
「もう全員知っていると思うが欠席している生徒についてだ」
教室のそこかしこから物音が聞こえる。
居住まいを正して言葉を聞き取ろうとする者、隣の人間とこっそり話し合おうとするものなど様々だ。
教師もまたじっと待ち、騒ぎが収まるのを待つ。
おしゃべりをしようとしていた人間も目立っていると気づいたのか段々と声がしぼむように収まっていく。
潮が引くように静かになりその後ようやく口を開く。
「原因がわからない状態で無責任な噂話は控えるように、またマスコミが街に集まっているって話もある、取材は受けないように」
そして。
と言いながらじっと俺たちの顔を見回す。
「遅くなったが途中の時限からは通常通り授業を行う」
教室じゅうから抗議に近い声が上がるがそれを受け流す。
以上。
と短く切り上げて教室から出て行った。
「ちぇ、せめて午前はお休みなると思ったのにな」
「まぁな」
と月宮に返答しながら思うのは陽川がどこに行ったかだ。
まず間違いなくこの異常事態を何とかするために動いているだろう。
しかし見かけないというのは少し不安だ。
すると不意に月宮が話しかけてくる。
「それにしても、さ」
「ん?」
「陽川さんどこに行ったのかな?」
言葉に詰まった。
月宮の認識だと、通学途中までは俺と一緒にいたがこの期に及んで学校に来ていないという事になる。
どうしたものかと頭の中で考えを巡らせていると――
「遅くなりました!!」
教室の扉を勢い良く空けながら陽川が飛び込んできた。
その顔は焦りきっており全力疾走してきたのがわかる。
あまりに必死なのでクラスメイトの一人が苦笑しながら答える。
「まだ授業は始まってないし、今までの授業はないってさ」
「ふぅー、よかった」
と胸をなでおろしながら机に向かって行く。
その陽川に対して声をかける。
「あの後どうしたんだ? 救急車の対応大変だったんだぞ」
「ぅ……それは」
と明らかに答えにくそうだ。
つまり何らかの言い訳を用意していなかったという事だ。
内心ため息をつきながら助け舟を出す。
「また別の場所で誰か倒れていたのか」
「っああ」
表情を輝かせその助け舟に乗っかった。
それにわざと気づかないふりをして言葉をさらに続ける。
「ったく、良いけどな」
と、そのあたりで次の授業の担当教師が教室に入ってきた。
人数はかけたがそれでも日常の一コマが始まった。
だが全員が言い表せない不安を持ちながらだったが。
明日もがんばります。