第一一八話
出来ました。
海獣を乗り越え、視界いっぱいに広がるぼんやりと光るナニカ。
巨大すぎてもはや壁にしか見えないそれがガイア=エキドナだ。
近づくと仮面のみがはっきりと実体化しているようで、体の方はうっすらと透けている。
そしてその仮面がこっちを向いた。
「くっ!! でっかいから速い」
俺たちをはっきりと認識したガイア=エキドナはアンごと俺を捕まえようと手を伸ばす。
とてつもない大きさのため見た目よりその動きは速い。
「アン!! 俺を額に投げろ!!」
とっさにアンに向かって叫ぶ。
俺のその言葉に叫びかえしてくる。
「そんなことしたら直撃して死ぬって、最低でも半身不随になるよ」
だが俺には当てがある。
死ななければおそらく何とかなる。
「なんとかなる……多分」
「多分って」
アンは少し押し黙りその後疑問を振り払うように納得した。
「ああ、もう、分かったよ、ここは物理法則が真っ当に働いてない空間だからね、ソレにかけるしかないか」
突き出されるガイア=エキドナの手はおそらく音速を超えているが風圧も感じない。
「よっはっと」
とアクロバチックな動きでガイア=エキドナの手をかいくぐる。
が――
「しまった」
追い込まれてしまったようで、唐突にガイア=エキドナが上から叩いてくる。
それはまるで空が落ちてくるようだ。
「これを何とかできれば……」
とアンはつぶやいた。
叩き落されたら、新しい怪物が生み出されて詰むだろう。
と、唐突に深い声が聞こえる。
「なら任せてもらおうか、大谷少年」
同時に稲光が走り、目がくらむ。
振り下ろされていた手が真横に弾き飛ばされた。
「何が……」
雷が飛んできた方に顔を向けるとそこには巨大な牛が浮かんでいる。
全身のいたるところが焼け爛れ満身創痍だ。
だが、その立ち姿は堂々としている。
「まさか……」
「ようやく帰ってこれたぞ大谷少年!!」
牛の頭の上に死に装束を身にまとったユピテルがいる。
腕を組んで仁王立ちをしているユピテルはそのままガイア=エキドナに突撃する。
大きさはそれこそ腕を弾くだけでギリギリだが――
「最大火力、出し惜しみはなしだ」
と叫んで目もくらむような雷撃を放った。
「これなら!!」
一歩、二歩と加速して腕をすり抜けた。
そして俺に一瞬うなずいて。
「行ってこーい!!」
アンは俺をガイア=エキドナに向けて投げつける。
向かう先は仮面の額だ。
ポケットからある物を取り出して、ガーガの言葉を信じて使用する。
みるみるうちに仮面に飛んでいく。
体勢を整えて、少しでも勢いを殺すために仮面に向かって足を向ける。
「がっ!!」
投げられた勢いで仮面に直撃する。
まず感じたのは足首に走る激痛と何かが押し潰されて破壊されるなようなくぐもった音。
続いて膝が物理的に捻じれた痛みだ。
その痛み――衝撃は腰に伝わり、真下から殴られたように感じる。
「ぁっ!!」
どうやら重力もあいまいなようで仮面からずり落ちることはなかった。
倒れたその体には痛みを感じない。
同時に感触も含む感覚がなくなった。
「お――」
直感でわかる。
首のあたりの骨が折れた。
指一本たりとも動かすことができない。
「残念ね」
柔和な声がすぐわきで聞こえる。
何とか視線を向けると、そこには同じデザインの仮面をかぶった女性が立っている。
ふんわりとした衣装を着ている。
「ここまでたどり着いたことは褒めるけど、動けなくなったら意味がないわね」
どこか俺をいつくしむような声で話しかけて、抱き上げる。
その状態でも触られている感覚はない。
「あとはヤヌスから渡されたかけらを探すだけね」
と悠々と俺の服に手をかけたときだ。
「ん? これは――」
「ここだ!!」
全身の力を使って額にぶつけに行く。
その理由は――
「なんで強力な治癒のマジックアイテムを持っているの!?」
初めてガーガと会ったときに分けられたものだ。
今まで使う機会がなかったから残っていた。
半信半疑だったが、思ったより強力な効果だったようだ。
「さぁ、一か八かの大博打だ!!」
ヒュプノスから託された能力を使ってガイア=エキドナの精神に飛び込んだ。
明日も頑張ります。