第一一七話
出来ました。
第一陣に隠れていた第二陣が見えてきた。
「来るぞ、第二陣!!」
第二陣はテュポンのような巨大な怪物も、空飛ぶ馬のようなたくさんの存在でもなかった。
「多頭の蛇?」
大きさこそテュポンに至らないがそれでもビルくらいなら余裕で押しつぶせそうな巨体だ。
それが一匹どころではない数が迫ってきている。
「ヒュドラ……しかも二桁送ってくるのはまずいですね」
ヘラがポツリと漏らす。
「一体だけ倒して切り抜けるのは無理なのか?」
「ヒュドラはすごくしぶとい怪物なんです」
そこ一度言葉を切って少し考えた後で続ける。
「頭が一つでも残っていたら残りが瞬時に再生します、胴体に急所もない生存能力極振りの怪物ね」
陽川に目線を向ける。
するとガーガが首を横に振る。
「蟹が走っている状態で流鏑馬のように撃ちぬくのは不可能だ、降りないと無理だ」
「なら行くしかないね」
といって陽川が弓を手に降りる準備を始める。
その様子を見てガーガは少しだけ考えて。
「こればかりは仕方がないか、さっきのヘラの話が確かなら足止めするだけでも火力が必要だからな」
そうして陽川の頭の上に移りながら何かを伝える。
「大弓を使うぞ」
「いいの?」
「ここが使い時だ」
と言いながら、何もない空間に飛び出してまっすぐ加速する。
蟹を追い越してドンドン加速しする。
そしてある地点でいきなり輝いた。
その光は太陽のようにまばゆい光だ。
一瞬後に直立した光の輪を形成した。
その光の輪は折りたたまれちょうど半分の孤になった。
縦に伸びたそれはまるで弓のようだ。
一瞬。
それだけのため時間の後に数十はくだらない量の矢が装填される。
「派手だねぇ」
アンがぼそりとつぶやいた。
その感想に俺もうなずく。
ちょうどその瞬間発射された矢はヒュドラに殺到し、頭どころではなく全身を粉々に吹き飛ばした。
難を逃れたヒュドラは何を思ったのか仲間に牙を突き立てて引き裂いた。
するとその断面から泡立つように再生して数が増える。
「あの再生力は反則臭くないか?」
「向こうからしたら陽川ちゃんの火力が反則ですがね」
とヘラは実感のこもった口調で話した。
たしかに相手からしたら陽川の火力は本当にデタラメだと思うだろう。
真正面からの力押しで空間すら割った火力は小細工を無に帰すほど圧倒的だ。
「ま、今は協力者ですから頼もしいと思うことにしておきましょう」
とヘラは言い聞かせるようにして納得したようだ。
処理速度から見るとすべてを処理するのは遠くなさそうだ。
「これで終わりか!?」
ガイア=エキドナにずいぶん近づいたように見えるのでさすがに第三陣はないと思う。
が、そんな考えを裏切るようにナニカが唐突に生まれる。
「これは、直撃!?」
とヘラが慌てたようで話す。
「伏せて」
と叫んだアンの言葉に従って伏せる。
カニの甲羅は案外つかめる場所が多く、しっかりホールドできた。
「行きますよ!!」
ヘラがやけくそのように叫ぶ。
すると視界の端に見えたのは振り上げられた鋏だ。
それは何かを挟み込む。
同時に何かにぶつかった衝撃を受ける。
「うわっ!!」
手の力程度では自分の体重を支える事なんてできずなす術なく前に放り出される。
それをつかまえたのはアンだ。
「よし!! ギリギリ!!」
そのアンにヘラが言葉を告げる。
「これ――海獣が最後です、向かって行って!!」
その言葉にアンがうなずいて、俺を抱えたまま走り出す。
そこで俺は落ち着いてぶつかった怪物――ヘラの話だと海獣と言っていた代物を見る。
「なんなんだこれ?」
それはクジラとイカを混ぜ合わせて、鼻の先に角が生えた怪物としか言えない怪物だ。
メキメキ大きくなる蟹がつかんでいる物はイカかタコの触手だ。
それはおそらく海獣の下半身だと思う。
また蟹を押しつぶそうとのしかかる黒光りする巨体はクジラにしか見えない。
が、口元にはズラリと牙が並びただのクジラではないようだ。
今のところは棒のように振り回されている角はイッカクの物にしか見えない。
「話すと舌を噛むから歯を食いしばっていて」
アンの言葉に素直にうなずいて大人しく歯を食いしばる。
一歩、二歩と走る内にドンドン加速し、怪獣の体の上を駆け抜けてゆく。
「あぶな!!」
アンは唐突に前に身を投げ出し、怪獣の地面スレスレを跳んで抜けた。
視界の端に見えたのは怪獣の触手だろう。
ぬらぬらと独特の光を放ち、妙に生臭い匂いだった。
「よいしょ」
そんなどこか気が抜けた掛け声と共に、走り抜けている海獣の体が揺らぐ。
どうやらヘラの蟹が怪獣にクリーンヒットを与えたらしく同時に地響きに近い絶叫がされる。
「グオォォオオ――」
困ったのはその声よりも、叫んだことにより大きく開いてしまった口だ。
このままいけばまっすぐ開いてしまった口に落ちてしまう。
「このっ!!」
アンの気合の掛け声とともに進路が若干代わり、俺たちの背丈ほどの牙が並んだ場所に向かう。
牙を飛び石に見立てて駆け抜けるつもりのようだ。
「うえ」
と辟易したように漏らす。
その理由は周りからする異様なにおいだ。
磯の香りにも、腐敗臭にもとれるそのにおいは抱き上げられているだけの俺も気分が悪くなってきた。
「うわ、閉じ始めた!!」
アンは慌ててそう叫びタイミングを見計らって軽くジャンプ。
それにより閉じてくる口に巻き込まれることは避けれた。
「よーし、あと少し!!」
アンのその言葉通りに、そこで海獣を登り切り、ガイア=エキドナに肉薄できた。
明日も頑張ります。