第一一五話
出来ました。
誇っていい。
そうは言われても実感がない。
足を引っ張ってばかりの気がするからだ。
そんあ俺の想いを知ってか知らずかガーガが話を進める。
「さて、早速だが攻めるか迎え撃つかのどっちかが必要になるが――」
「攻め込んだ方が良いわね」
「わたしもそれに賛成ですねぇ」
とヒュプノスとヘラが即答した。
だから俺は疑問に思い聞き返す。
「なんでだ?」
「この空間を食い破られる可能性があるからよ」
とサラリと言った。
それはかなり衝撃的な話だ。
「相手の能力の規模がわからないから、もしかしたらと言う程度だけど」
可能性は低いかもしれないが外に出ていく可能性があるのは危険すぎる。
その場の全員の表情に焦りに近い感情がにじんでくる。
「一応聞いておくが、この空間を上書きすることはできるのか?」
ユピテルたちが作ったこの空間に入ったばかりの時に後出しが有利みたいな話を聞いたので質問する。
それにはヘラは明確に否定した。
「さすがにそれは無理だと思いますよ、色々条件がありますが外を認識しないといけないので」
細かい疑問は浮かぶが不可能という事さえわかればいいのでそれ以上追及するのはやめる。
「ならとにかく急いで襲い掛かるという事で」
その方針に全員で同意したときだ。
「ウォォォン!!」
獣の遠吠えのような物が聞こえる。
思わず扉を開けて外を見る。
すると驚くべきものが見えた。
「なんだアレ!?」
まず見えたのは多数の稲光をまとう下半身が蛇の人間だ。
そして首からたくさんの蛇の頭が生えた異形だ。
最初はそれほど大きいようには見えないがみるみる大きくなる。
どれくらいのスピードで飛んできているかは分からないがそれこそ山を片手でひっくり返すことができそうな大きさに思える。
ヘラはその異形を見て一言つぶやく。
「まさかテュポン?」
「なんだそれ?」
俺のその言葉に今度はガーガが答える。
「怪物だよ、理論上は存在すると言われていた怪物、まずいな」
その口ぶりからおそらく規格外の一言では済まないような代物なのがわかる。
そしてよく目を凝らすとなにか白い物が浮いている。
それは段々大きくなり、細部がわかってくると何なのかが分かった。
「羽が生えた馬か」
強いか弱いかと言われると人相手には恐ろしい相手だろう。
馬の脚力で蹴られたら人は命を失うのだから。
「数も質も厄介だな」
ガーガがポツリと漏らす。
その上でヘラが付け加える、
「しかも生まれた神とは別枠でアレですからね、おそらく」
その言葉に思わず二度見した。
俺の視線を受けてヘラは首を小さく横に振る。
諦めて事実を受け入れろ、とでも言っているようだ。
「生まれたのはおそらく――」
「そこから先はワタシのセリフね」
という唐突な声が聞こえる。
あたりを見るが誰もいない。
「どこをみているのかしら?」
その声の出どころはよくわからない。
それこそ部屋全体が震えているような声だ。
「まさか……」
見るのは部屋の中ではなく外だ。
さらに言うならテュポンのさらに奥だ。
そこに見慣れないモノが浮かんでいる。
向かって右と左でそれぞれ白と黒に塗られた仮面だ。
向かって右が白い笑い顔、左が黒い怒り顔だ。
その下にはぼんやりと身体らしきものが見える。
「なんだあのデカさ」
手前に見えているテュポンより巨大だ。
テュポンの時点で気が遠くなるほど大きい。
だが、それより巨大となると危機感を通り越してもはや感心に近い。
到底俺の手の中にある分が欠けているとは思えない。
「さてさて初めまして、ワタシはガイア=エキドナ、世界を孕み食い尽くすモノ」
どこか独特の反響を持った声が聞こえる。
その声に耳を傾けるように怪物たちが立ち止まりじっと言葉を待っている。
気が付けば俺もガイア=エキドナの声にじっと耳を傾けていた。
「諦めなさい、ワタシは子を産む、それは破滅をもたらす兵隊です」
そう言っている間に第二陣ともいうべき怪物たちの群れが見える。
それは話している間に新たに生み出した可能性がある。
その可能性に気付いて背筋が凍る。
「勝てる……か?」
俺のそんな言葉は押し黙った集団の中を通り抜ける。
誰もが重苦しい沈黙を保っている。
かと思ったらセレネが切り出す。
「でもさ、おかしくないさっきの言葉?」
「なんでだ? 降伏勧告だろ?」
俺のその言葉にセレネは曖昧にうなずく。
そして答える。
「確かに降伏勧告だろうけど、なんでしたの? 敵対しているならそんなことしなくてもいいじゃん」
言われてみれば確かにそうだ。
向こうからしたら倒せばいいだけなのだ。
「じゃあ理由はなんだ?」
「おそらくこの空間の解除でしょうね」
とヘラが落ち着いた声で返事をする。
そして続きを話す。
「つまりガイア=エキドナは派手な示威行為を行っているけど、この空間にとらわれているということか?」
俺のその言葉にガーガはしばらく考えてうなずく。
「さっきの言葉通りなら、兵隊である怪物たちを産めるが抜けるためには大変というのは考えられる」
その言葉はじっくりと俺たちの中に広がる。
相手はものすごい力を持っているが万能ではない。
それは十分勇気づけられる事実だ。
「ならあの巨大な体もこけおどしの可能性がある、これから大量の敵が襲ってくるだろうが、少しずつ相手の事を知っていくぞ」
ガーガのその言葉にうなずいた時だ。
しびれを切らせたのか第一陣の怪物たちが突撃してきた。
明日も頑張ります。