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第一一一話

出来ました。

 ふと気が付くと真っ暗な世界の中でポツンと浮かんでいた。

 自信の呼吸音が聞こえてくることから窒息死はなさそうだ。

 だから好奇心に任せてどこかに進もうとする。


「あっちだな」


 なぜか確信にも近い感覚で向かう。

 上下左右もわからず歩いているとも落ちているとも違う進み方でどこかにまっすぐ向かう。

 すると唐突に少しだけ見覚えのある場所に出た。

 フローリングとどこか湿った空気はそれだけで心が重くなる。

 そしてある声が聞こえる。


「出して!! 出してよ!!」


 外から錠前をかけられて封鎖された扉だ。

 その扉の奥からは一人ではない気配がして、扉の前には非常に印象が薄い誰かが立っている。


「――」


 立っている誰かを押しのけて扉の錠前に手をかけようとする。

 が、そいつは退かない。


「なんで邪魔をするんだ?」


「    ?」


 何を言っているが意味のない事であるのは理解できるので無理やりどかす。

 まとわりついてくるが無視して錠前を握る。

 とげが生えたのか手に刺さる。

 が思い切り引っ張て錠前ではなく扉との接合部を破壊する。


「ぁぁぁっぁああぁっ――」


 まとわりついている誰かを引きはがして小学生くらいのふたばの手を取り外に出る。

 今度は風呂場だ。

 体当たりでぶち破り衣服をはがされていた中学生くらいのふたばに上着を渡して外に出る。

 後で恨めしそうに見ている二体を無視して外に歩いてゆく。


「ここまでくればいいか」


 そうはいったが地面がないので左手と右手それぞれで寝室に閉じ込められていたふたば、風呂場に閉じ込められていたふたばと手をつないで歩く。

 いまだに二人ともぐすぐすと泣いている。

 顔の造形は確かにヤヌスを思わせるほどに整っているが、その仕草は学校で調べたその姿とは似ても似つかない。

 二人が落ち着くまでどんな声をかけていいのかわからず無言で歩く。

 何もできないがただ一緒にいることはできるという事を示すように。


「ねえ、お兄さん」


 小学生のふたばが話しかけてくる。


「ぱぱとままはわたしのことがきらいなのかな」


 と、いきなり重い事を聞かれる。

 俺は親の心理なんてわからない。

 だが一つだけ言えることがある。


「好きではない、と思う」


 理由は何であれ閉じ込め続けるというのは異常だ。

 もしかしたら外部からの助けができたのかもしれないし、大切にしたと思っていたのかもしれない。

 だが事実としてふたばは長い期間虐待を受けて、両親はふたばを捨てたのだ。

 過去は変えようがないし、俺がこうして閉じ込められていたふたばの手を引いて逃げているのもただの偽善でしかなく、気が重くなる。


「だ  だい  ょう から」


 と大き目のふたばがはにかんだような笑みを浮かべる。

 同時に握った手に力を込めてきた。

 元気づけるつもりが元気づけられたな。

 などと思いながら進んでいると開けた場所に出た。


「ここは?」


「おやおやぁ? どうやら安定した場所にこれたみたいじゃあないか」


 とどこかで聞いた声がする。

 慌ててそちらを見るとふたば――いや、表情からするとヤヌスがいる。


「なかなか恥ずかしい過去を見られてしまったね」


「? どういうことだ?」


 聞き返す。

 さっきまでの事はあくまでそういう幻覚を見ただけだと思っているからだ。

 するとヤヌスはどこか恥ずかしそうな表情を浮かべて答えた。


「ここに来るまでに大分時間が狂ったらしい、ここではないいつかで会ったことだね」


「……おかしくないか?」


「何が? 時間も場所も関係がない空間を通ってきたんだ、何が起きてもおかしなことはないだろう?」


 その言葉を否定する。


「ここから出ることができないって言っていたのはそっちだ」


「……まぁ、そうなんだけど網で考えると大きな魚は引っかかるけど、小さい魚は引っかからないっていうとわかるか?」


「ああ、俺は気づかれないほど小さいのか」


 ヤヌスは視線をそらした。

 その様子にある意味納得した。

 おそらくアレは過去にあったことなのだ。

 現実かどうかはわからない。

 悪夢の中で俺が手を引いて逃げ出したかもしれないし。

 そうでないのかもしれない。

 ただ言えるのはヤヌスはそれを覚えていたという事だ。


「もしかして、ふたばも覚えているのか?」


「それはどうだろうね、明確には覚えていないとおもうよ」


 なるほど。

 と納得して改めて周りを見るとここはかなり広い地面のようで、通路にあたる部分のようだ。

 地面は石畳で、ずっと遠くまで伸びておりその脇にはいくつもの柱が立っている。

 さらにその外は芝生のような草で覆われている。


「さて、もう少し歩こうか」


 と手を伸ばされる。

 一瞬迷うが意を決して伸ばしてつかむ。

 ヤヌスは一瞬驚いた顔をするが結局軽く表情を崩しい浅くうなずいた。


「で、どこに俺を連れていくつもりだ」


「え? おさんぽ」


 さすが抗議の意思をこめて視線を向ける。

 するとヤヌスは喉の奥で笑いながら少しだけ足を速め、手を引く。


「秘密だよ」


 どこか弾んだ声で話した。

 以外に強い力で手を引かれたので俺は若干ッバランスを崩しながらもつい前に進んでしまう。

 そうしてどこから差しているかわからない陽の光が満ちた石畳の道を進んでいった。

明日も頑張ります。

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