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第一一話

間に合いました。

 両親の様子におかしなところはなく、いつも通りのようだった。

 当たり前の話だが周りで昏睡に近いことが起きたことは伝わっていなかった。

 不気味なくらいいつも通りの朝のように感じる。

 しかし、不意に遠くから救急車のサイレンが聞こえる。


「事故かしら?」


「結構近いな」


 そんな言葉を両親が話している。

 ある程度は事情が察せる俺は何食わぬ顔で押し黙っている。

 と、遠くからまたサイレンの音が響く。

 それにかぶせるようにしてもう一台。


「え……」


 異常事態だ。

 それこそ大きな玉突き事故や火災でも起きたようにひっきりなしに救急車が走り回っている。

 父さんが無言でテレビを点ける。

 そこにはいつも通りの情報バラエティ番組がうつっている。

 そのまま番組は続き、サイレンが鳴り響く中続くなか見る番組は空々しく感じる。

 チャンネルが切り替わりニュースがうつる。

 それでもそこにはこの地域の話は全く出ていない。

 両親のどちらか、あるいは二人が息をのんだのがわかる。

 複数台の救急車が行き交うような大事故が起きたのなら間違いなくすぐさま飛びつくだろう。

 しかし、何の情報も触れられていないという事は本当に今起きたのか、それともテレビ局ですら把握できないほど不可思議なことが起きているのか、あるいはもっと別か。

 なんにせよ異常事態が起きていることは確かだ。


「……」


 重苦しい空気が食卓に満ちる。

 家の中は安全で外は危険なのではないか?

 そんな空気が感じ取れる。

 だから俺が口を開く。


「そろそろ時間だから」


 と言って残りの朝食をかきこみ、使用した食器を食器洗浄機に突っ込む。

 それにつられるようにして両親も朝食に手を付けて、出勤に向けて動き始めた。


=====


 登校中気づくのは変に静かなことだ。

 出歩く人自身が少ない上に、どこか眠たげにしている人間がほとんどだ。

 同じ登校中している学生の中には寝落ち寸前なほどにフラフラの人間がいるくらいだ。

 眠気をかみ殺している程度の人間ならちらほらとはいたことがある。


「なにがおきてるんだよ」


 つぶやく俺自身は多少眠い。

 しかし、異常なほどの眠気ではない。

 間違いなく何らかの広範囲でも攻撃が行われている。

 そんなことを思っていると不意に背後から声がかけられる。


「おはようアモリ!!」


 その声と同時に背中を強めに叩かれる。

 そんなことをやらかすのは一人しかいない。

 陽川だ。


「おはよう陽川、今日は変に元気だな?」


「昨日ははやめに眠たからだな」


 そう宣言する陽川の顔色は確かにいつもよりいい。

 それなりに眠気を感じている俺からするとうらやましい限りなので抗議の視線を送る。

 するとニヤリと得意げな笑みで返される。

 その様子にかるく肩を落とし。


「うん、まぁわかってたこの程度で気にする奴じゃないって」


「それにしても――みんなだらしがないな」


 あたりを見る陽川の視線は鋭い。

 その目は数日前の視線とは意味が違っているのがわかる。

 今起きている異常事態への解決策を探す使命を持った目だ。

 と、俺の方を見て話しかけてくる。


「アモリはまだ元気そうだが……」


「そういわれても俺はそこまでおかしなことしていないぞ、そこそこ遅くまでスマホをいじっていたが」


「んん? まぁよくあることだな?」


 そこまでおかしな行動はしていない。

 ここで陽川は時間に気付き若干焦る。


「時間がそれなりに押しているぞ」


「あ、本当だ」


 俺もここでようやく気付いて慌てて学校への道を急ぐ。

 が、道端で倒れている人間を見つけてさすがに足を止める。

 慌てて二人で駆け寄る。


「おい!! 大丈夫か!!」


 と陽川が倒れている人間に呼びかける。

 そこは陽川に任せてスマホで消防への連絡を入れる。

 数コールでつながる。


「消防ですか!? 急病人です!! 場所は――」


 と周りの電柱に記された名前と番号を伝える。

 続いて人数を一人と伝えようとしてふと脇を見たらもうひとりいる。


「えーと、人数は少なくとも五人はいます」


 向こうで息をのむこともなく、受け入れられる。

 おそらく他にも同じようなことが起きているのだ。

 相手は静かに、しかし急速に攻撃を加速している。

 今のところは眠気を持っている人だけのようだがいつ起きている人間を狙ってくるかわからない。


「一体なにが起きてるんだよ……」


 もう何度目かもわからない言葉をつぶやくと、陽川が何かを覚悟したようにうなずいた。

 そして俺に対して一度頭を下げてくる。

 続くのは申し訳なさそうな言葉だ。


「すまん、ちょっと用事があってなここはお願いできるか?」


 即答すると怪しまれるかもしれないと感じ、一応少しだけ悩んだ振りをして陽川を見る。

 意思の強そうな眼はじっと俺の真意を見抜いてくるような光を持っている。

 だからしっかりとその眼を見て一つだけうなずく。


「ああ、行ってこい」


「恩に着る」


 と残して全力疾走で学校に向かった。

 おそらくその途中でガーガと連絡を取り本格的に対処を行うのだろう。

 俺も含めて誰もがここまで急速に影響を広げてくるなんて思っていなかった。


「me――」


 どこかから鳴き声が聞こえた気がする。

 慌ててあたりを見るが何かおかしなものは見当たらない。

 表面上はある意味で平穏だ。

 出歩く人が少ないせいで喧噪自体が少ない。

 そのこと自体が異常なんだと思いながら遠くから近づいてくる救急車のサイレンに耳を傾けていた。

明日も頑張ります。

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