第一〇九話
出来ました。
「おはよう、大谷少年」
そう挨拶をしてきたのユピテルだ。
服装は死に装束のような白いスーツだ。
ネクタイや手袋、靴まで白で統一されている。
それに反して見えている首から上は治療された様子はない。
「ようやく目覚めたかアモリ」
と少し離れたレジャーシートでガーガはくつろいでいる。
周りを見ると陽川たちも回復している。
が、見慣れない存在が一人いる。
ユピテルのように白を着た女性だ。
白いロングのワンピースにベールをかぶっている。
数秒考えてようやく結論を出す。
「ヘラか」
「顔も見えないのによくわかりましたね」
半ば以上当てずっぽうだが、根拠らしいものがあるにはあるのでそちらを伝える。
「……ペアルックに見えてな」
「まぁ」
と少し嬉しそうに頬に手を当てている。
「あなたあなた、大谷君がそろいの衣装が似合ってるっていってましたよ!!」
内心、似合ってるまでは言ってない。
と思うが絡まれるのも面倒なのでそのままにしておく。
ガーガたちの方を見るとユピテルとヘラのやり取りをげんなりした顔で見ている。
「これで全員が起きましたねぇ」
とヒュプノスが話始める。
「ああ、これでヤヌス迎撃の話をスタートするわけだが、その前に大谷少年に聞きたいことがある」
「なんだ?」
ユピテルがえらく真剣な顔で問いかけてくる。
だから俺も姿勢を正す。
「ここで離れるつもりはあるか?」
「え?」
ここまでかかわった手前その内容に驚く。
だが冷静に考えれば理解できる。
「危険だからか」
「ああ、そうだ、アモリ、相手の性質等を考えると危険すぎるのだ」
ガーガのその言葉にセレネが続ける。
「詳細はまだ言えないけど、守るための手が回らない可能性が高いんだよね」
「こればっかりはよく考えてからの回答が欲しいですねぇ」
「今なら私が外に置いてこれる、危ない事から距離を取るのは自然な話だよ」
アンのその言葉にリオンがうなずいている。
「決めるのは大谷君だよ」
ソルを名乗っている陽川が最後に話しかけてくる。
全員からの説得に、考え込む。
「わかった」
そして結論を出す。
「わかった」
ここを去ることにする。
そもそもスタートは完全に巻き込まれたからだ。
俺は身を守る手段すらないただの人だ。
足手まといになるわけにはいかない。
「よし!! じゃあ早速――」
「そいつはちょっと構ったなぁ」
そんな声が虚空から聞こえる。
方向は湖の上だ。
振り返る空から染み出るように一人出てくる。
ふたば――ヤヌスが現れる。
風揺らめく銀色に近い髪は太陽光を美しく反射し、制服の上からでもわかるスタイルは完成せれている。
「せっかくの観客を返すのは寂しいじゃあないか」
一瞬身をくらまし、背後に現れたヤヌスは俺を後ろから抱き着くようにしてくる。
同時に深くしみこむような香りがする。
それは落ち着くようなにおいではなく突き刺さるような攻撃的なにおいだ。
それでいて蜂蜜のように甘ったるいにおいだ。
喉の奥だけで笑いながらするりと俺の腕に入ってくる。
その動作があまりに自然なためごく自然に横抱きをしてしまう。
俺を見つけるその瞳は潤んでおり、吸い込まれそうな――
「あぶねぇ!!」
とっさに放り投げて距離を取る。
あそこで離れないと危険だった。
そんな直感がしたからだ。
「ははっ、こんな可愛い子を投げ捨てるなんてひどいじゃあないか」
ぺろりと唇を舌で軽く舐める。
その仕草はひどく色気がある。
「気に入ったよ、大谷亜守くん」
とどこか背筋が凍ることを言われて一歩距離を取る。
何がどうというわけではないが、とにかく危険人物の気配がする。
「いやーよかったですねぇ、大谷君、美人に見慣れていて」
まぁ、ここ最近の出会った人間は大体が美形だった気がするので否定はしないがさすがに突っ込む。
「自分で言うなよ」
「まぁ、本当は精神に影響与える能力への対抗を持たせただけですけど、それでもあと一歩まで持っていくのは流石ですねぇ」
ヒュプノスが何かを俺に勝手に仕込んでおいたらしい。
そのことで若干文句が浮かびかける。
が、結局それで助かったのでその文句は飲み込んだ。
「さぁて、どうしようか」
と笑みを浮かべたままその場にヤヌスがたたずんでいる。
たった一人のたくさんの実力者が機をうかがっている。
「いく!!」
まず飛び出したのはリオンだ。
たくさんの煌めき――武器を飛ばして嵐のように襲い掛かる。
それに対してヤヌスの後ろから鏡の仮面をかぶった大きな像が現れ、右腕を一振りする。
そこから同じようにきらめきがとびだし迎撃する。
その攻撃をかいくぐったリオンが斬りかかる。
といつの間にか持っていた同じようなデザインの剣で受け止める。
その動きが止まった隙にアンが地面から飛び出して蹴りかかる。
「危ないじゃあないか」
そんな落ち着き払った声と共に巨大な像の左腕が殴り掛かる。
「くっ!!」
跳んで下がって避ける。
リオンもまた同じように離れる。
そこに巨大な像の両腕から大量の剣が射出される。
「おかしくないか?」
その異様な光景に思わず声に出した。
だが、その言葉への答えは来ることなく、巨大な像が両手を組み合わせて振り上げる。
「じゃ、早速この空間を壊すよ」
といって地面に向かって振り下ろし、ガラスが割れるような甲高い音がして空間にひびが入っていき――
砕け散った。
明日も頑張ります。