第一〇八話
出来ました。
今日は少し早めです。
自爆覚悟の攻撃で一気にひっくり返された。
見た目のダメージはユピテルとヘラの方が大きい。
だが、今この瞬間動けるのはその二人だけだ。
いつ死んでもかしくないような格好で空から降りてくる。
その手には意外なほどきれいな姿の陽川とリオンがいる。
どうやら地面に落ちる前に回収したらしい。
二人を地面に置き、指を鳴らす。
すると枷のように雷が陽川たち四人に絡む。
触れたら問答無用で死ぬ威力だろう。
するとヘラがよろよろとその場を離れる。
「どうした? ヘラ?」
無事なところがないユピテルはゆったりとした足取りで追いかけ捕まえる。
その手つきはどこまでもやさしい。
「あなた……その……みないで ください」
恥ずかしそうに顔を背ける。
その動作で体の一部――手首の先が崩れ落ちた。
「こんな姿をあなたに見せたくは――」
そう話すヘラをゆっくりと抱きしめる。
ユピテルの崩壊寸前の組織が裂けて血があふれるが気にせず抱きしめる。
「どんな姿であろうと君は美しい」
「……」
おそらく数秒ほどだろう。
その時間だけユピテルはヘラを抱きしめてその場に横たえる。
「さて、ゲームセットだ」
かろうじて動かせる右手をこちらに向けてくる。
おそらくなりふり構っていないので動いたら本気で死ぬだろう。
「わかった」
もうどうしようもないので両手を上げて降参した。
その時だ。
「あ――」
ふたばがいきなり身を起こした。
場所は俺たちからさらに離れた岩の上だ。
今までずっと寝ていたらしい。
「あ は」
だが様子がおかしい。
その顔は今までの自信なさげな表情ではなく。
楽しげに笑う、自身に満ちた顔だ。
「あははは!!」
気が触れたように高々と声を上げて笑う。
その毛先からからは色素が落ちてゆき、白に近づいてゆく。
「まさか!?」
ユピテルは慌てて攻撃を行う。
が、それが直撃する一瞬手前で消し飛んだ。
「おぃおぃ、いきなりはひどいじゃあないか」
声は間違いなくふたばだ。
しかし口調がおかしい。
そもそも内容からして異常だ。
その上で見えるのは金属で覆われた右腕だ。
それが虚空から出ている。
そして歯車がかみ合うような音がして頭部が現れる。
前面が鏡のようで、後頭部が目を伏せ眠っている人の顔だ。
「まさかの相手だな」
「裏をかけたなら言うことなしだな」
互いに抱き合う人間をモチーフにした鎧だ。
それが出てきて前傾姿勢で立ちふさがる。
「ほらよ!!」
何かが飛んできた。
それは俺たちにまっすぐ向かっている。
「は!?」
ふたばに攻撃を仕掛けられたと感じて思考が真っ白に染まる。
その攻撃から守ったのはユピテルだ。
「ふむ、いきなりは剣呑だな」
「それこそ敵なのになぜ守る?」
その質問をユピテルは鼻で笑い飛ばす。
「愚問だな、横からかすめ取りにくる奴にくれてやる命などない、ヤヌス」
その言葉に見るからにヤヌスと呼ばれた存在は不満そうにする。
ほどけた豊かな髪は柔らかく光を反射しながら零れ落ちる。
癖もなく揺れう神は見ほれるほど美しい。
「忌々しいが一度引く、ヘラ!!」
「はい、とっくに」
鋭い言葉に平は間髪置かず柔らかな口調で返す。
そう語るヘラの背後の蟹には横たわる四人が見える。
「な!? どういう?」
「死にたくないなら従え、良いな?」
有無を言わさぬその言動に思わずうなずいた。
「ではな!!」
そう言い残して地面に雷を打ち込んで、土煙を上げて目隠しをした。
それと同時に浮遊感に包まれた。
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「さて、どこから話そうか」
とユピテルが口を開く。
場所は湖の岸辺だ。
そこの脇に倒れたままの四人を下ろして、蟹は湖に戻っていく。
ヘラはそれにを追って水に入っていった。
「まず聞きたいのは、どうして助けた?」
その内容はヤヌスと呼ばれた存在からした質問と同じだ。
ユピテルは先ほど変わらず即答する。
「言っただろう? 大谷少年、漁夫の利を狙ったやつに渡すほど君らの命は安くはない」
「それは敵相手でもか?」
「敵だからこそだとも」
自信に満ちたその口調に口をつぐんでしまう。
そうしている間にユピテルは一瞬ふらつきかける。
が、結局上体がふらついただけで下半身は乱れもしていない。
「休んだらどうだ?」
「これは意地だよ」
その返答は当然のごとくよどみなく出て来た。
「まぁ、俺たちは遠慮なく休ませてもらう」
とその場に腰を下ろす。
湖を上をかけてきた風はひんやりとしていて気持ちがいい。
そして体中にのしかかるような疲労感が訪れる。
「なん……だ」
これ?
と言うことすら億劫だ。
「脳を使いすぎだ、しばらくは休んだ方が良い大谷少年」
そこでふとガーガとセレネの声が聞こえないことに気付く。
二人はもうすでに寝落ちしていたようだ。
ガーガの羽毛に潜りこむようにしてセレネが寝ている。
その光景はどこかの絵本のワンシーンのようだ。
そこにユピテルから力強い言葉がくる。
「安心しろ、ユピテルの名に誓って休みを守る、必ずだ」
ぼんやりした頭でうなずいた。
その選択は危険かもしれないが、それ以上に何かを感じることがとても億劫だ。
だからやってくる眠気を無抵抗に受け入れて目を伏せた。
そして、そのまま俺の意識は水の中に落ちてゆくように闇に包まれていった。
明日も頑張ります。