第一〇六話
出来ました。
「海に行く!!」
そう宣言してガーガとセレネを乗せたまま海に向かって走る。
一歩目は水あめの中を走るようにゆっくりとしか動けない。
体の動きが軽くなるたびに周りで行われている戦いが視認できなくなる。
「リオン!! ビーナスを引き留めて」
海岸に向かう俺たちに生物が殺到してくる。
リオンは一瞬だけなんのことかわからなかっただろうが、すぐに納得したらしい。
一呼吸だけおいて襲ってきていた生物の眉間に短剣が突き刺さり、回転後ろの奴も引き裂いた。
「これで行けるわよ!!」
セレネの甲高い声が耳元で響く。
若干耳鳴りがするが無視をして波が押し寄せている穏やかな海に飛び込む。
「少し長めに息が持つはずだ」
というガーガの声が聞こえる。
不思議なことに海の中で目を開いていても痛くならない。
浅いところはほとんど生物がおらずナマコのような生物がいる。
「……あれもビーナスだな、近づくなよ」
「は?」
危険性が薄いように見えるものだったので驚く。
それに対してセレネがフォローする。
「ただ、中継する者だからそこまで危険じゃないね、ただ次の奴は攻撃してくるかも」
「なるほど触らぬ神にたたりなしか」
海の中でも問題なく意思疎通ができる事に少し驚く。
が、今は
こうしてみるとなかなか穏やかな海だ。
海底が砂地から岩に変わり南の海のような光景になる。
だがそれはどうにも作り物のように見える。
「……もしかしてこの辺のサンゴみたいなのも全部ビーナスか?」
テーブルようなサンゴ礁とそこから顔をのぞかせる色とりどりの小魚。
海の底にはイソギンチャクや貝などが生えている。
目の前を人の大きさ程もある魚が悠々と泳いでいる。
「ああ、新しく作られた海だ、生物がいるはずない」
ガーガの重々しいうなずきで事態を思い知る。
これだけの中からおそらく一つだけの親を探さないといけないのだ。
「一応聞くけどこの視界内にいる可能性はどれくらいだ?」
「ここにはいる、絶対」
とガーガからの補足が入る。
となると問題はどれなのかだ。
たくさんいるうちの一つに紛れ込みやすい小魚なのか。
はたまたタコなどの擬態が得意な奴に化けているのか。
「……」
考えこむ。
しかし、目安はついた。
「貝だ」
「貝?」
「そう、二枚貝」
セレネが聞き返してくる。
そのセリフは半信半疑だ。
どうしてそこまでわかる?
とでも言いたげだ。
「ビーナスがやってきたとき二枚貝を通じてやってきたんだ」
思い出すのはアンと二人で見ていた光景だ。
その時は出ていったビーナスにばかり目が行っていたが、乗ってきた貝の行くえは確認していない。
いつの間にか消えていたのだ。
そのことをガーガとセレネに伝えた。
「……どうだろうな」
ガーガは考え込みうつむく。
「セレネもそう思う」
セレネは目を伏せ両手から力を抜き脱力させる。
「形を変えている可能性もあるだろう、同じ確率は高くて二割じゃないか? セレネはどう思う」
「そういうの難しいからちょっと、セレネにもわかるように説明して」
ふむ。
と、ガーガが何かを考えている。
「いまだ!! セレネ!! やれ!!」
「ここっ!!」
くぐもった音と共に何かが海底から引っ張り上げられる。
それは――
「ホタテ!?」
大きさは規格外どころか人を仕込めそうなほど巨大だ。
だがその形は間違いなくホタテだ。
「なんかされる前によおいしょ!!」
海岸に向かって放り投げる。
その間にホタテは殻が開き中からナニカが出て来たように見える。
遠目なのでよく見えないが、特徴的な光沢をしているのがわかる。
「ウワァァァ――」
雑然としたという印象が出てくるひめいを上げなら空を飛んでいく。
手足をばたつかせる動きは必死だ。
そんな相手に対して海岸から金色に輝く存在が迫っていく。
リオンだ。
「――」
一瞬で交差する。
その後にはズタズタに破壊されたビーナスの残骸と、血糊を払うように剣を振っているリオンだ。
「お ぉぉ」
と地面から地響きにも近い声が聞こえる。
セレネとガーガは俺の両脇を抱えるようにして空に逃げる。
「なんだアレ!?」
「なりふり構わず潰しに来たぞ」
岩盤が組み合わさったような巨人が海底から立ち上がる。
それはモーフィングをするように巨大なビーナスに変わっていく。
その巨大さなら、腕の一振りで海岸ごと潰せそうだ。
「一つ一つは小さいからまとまったんだ!!」
とセレネが慌てた様子で話す。
その巨大さはどうしようもないと思っていたら――
「うわっ!! まぶしい!!」
いきなり視界が光で塗りつぶされる。
出所は陽川だ。
ユピテルとの砲撃合戦の合間に一発だけこっちに割り振ったらしい。
だがその一発はまとまればユピテルの雷と同等の威力を持つ代物だ。
「あ ぁ ぁぁ」
どこか嘆くような声を上げて崩れていく。
それを見てガーガが満足げにつぶやく。
「あのデッカイのは存在を保てるだけの数を下回った、もう大丈夫だ」
それにセレネが返す。
「という事であとはリオンの仕事だね」
そんな風に話しながら来た時より幾分ゆっくり陸に戻っていった。
明日も頑張ります。