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第一〇一話

できました。

 古今様々な神話体系において主神に当たる存在はほぼ戦神の面を有している。なぜなら戦争という物は人類が生まれてから絶え間なく行われてきたことであり、敗北は滅亡につながりかねない重大な事柄だからだ。つまるところその神話における最強の戦士こそが主神を名乗ることができるのだ。

 だがここで注意せねばならないことがある。すなわち神は敗北し人の時代に移っていることだ。また最強の主神だからこそある種の怪物に敗北している例が多数あるという点だ。あたかも沈まぬ太陽がないようにだ。



     ――原戸 寺目『隠された信仰とその軌跡――カミヤドリを追って』


=====================================


「おわった」


 とアンがつぶやいた。

 そのまま俺たちを抱えて地面に飛び込もうとしたときだ。

 まばゆい光で目がくらむ。


「くっ!!」


 もう一度跳んだ浮遊感を感じる。


「ダメか」


 そんな声と共に着地した。

 目がようやく慣れる。

 するとおそらく飛び込もうとした場所がクレーターのように盆地になっている。

 その盆地の底には溶岩で湧いているようにみえる。


「何が起きたんだ!?」


「これがユピテルの力だよ」


 俺たちをかばうようにアンは立ちはだかる。

 その視線の先のユピテルは体に電撃をまとってふわりと浮かぶ。


「なぁに、単純な雷の力だ――」


 言いながら空が光る。


「ああ、もう!!」


 手を引き跳んで下がる。

 さっきまでいた場所が同じように破壊されている。


「落雷か!?」


「ふふ、それだけじゃないぞ大谷少年」


 その瞬間体が弾けるような衝撃を感じる。


「ゥぁ……」


 体がが全く動かない。

 全身が強張ったようにひきつった痛みを感じる。


「死なないように手加減した電撃はどうだ?」


 その言葉で肝が冷える。

 つまりさっきの一瞬で俺は殺されていたかもしれない。


「小細工なし、ただ純粋に強い、だからこそ打つ手がない」


 アンはフラットな声で話す。


「まて、この空間の事はどうなんだ?」


「それこそ単純な存在の格の違い」


「マジか、規格外の大きさなのにか」


 その答えに呆然となる。

 本職じゃない能力でかなりの規格外らしい。

 だとすると本来の能力である雷がどれぐらいなのか想像したくもない。

 さらに運が悪いことに――


「ふふようやく追いつきました」


 ヘラもやってきた。

 空から滑り降りるようにしてやってきた。

 薄い笑みを浮かべているが俺たちをじっと見つめている。

 逃がさない。

 とでもいうようだ。


「さてここからどうするつもりですか?」


 と口調はやさし気だ。

 その上でこう重ねてくる。


「投降するなら悪いようにはしませんよ」


「君は甘いな、だがそれが良い」


 とユピテルも鷹揚にうなずく。

 その態度からすると本当にいきなり殺されることはないだろう。

 逃げる事はできないように軟禁されるだろうが、それ以上の事はおそらくされない。


「いや、やめておくよ」


 とアンが答えた。

 俺もまた顎を引くようにして頷く。

 しかしそこであることを頼む。


「あ、でもふたばは助けてくれ、ずっと寝ていて巻き込まれるのは流石に夢見が悪い」


「よかろう、誓うとも」


 その言葉を聞いて安心して地面にふたばを横たえる。


「さて、足手まといを背にして一人でどこまで行けますか?」


 その言葉と共に外で見た蟹が現れる。

 ユピテルは苦笑しながらヘラに話しかける。


「おやおや、君が前に出るのかい?」


「一番槍は戦場の華ですが、良人と肩を並べて戦うなんて久しぶりですもの、気がはやってしまいました」


 その言葉にユピテルは嬉しそうに笑う。


「ふふ、何時までたっても初々しい君は素晴らしい」


 ヘラは顔を赤くして顔をうつむける。

 二人のいちゃつきを俺とアンはあきれ顔で眺める。

 そのあとアンがおもむろに口を開く」。


「そろそろいい?」


「なかなかお行が良いですねぇ」


 とどことなく嬉しそうだ。

 そんなヘラにげんなりしながら答える。


「あの空気に割り込んだり、隙と見て襲い掛かったら問答無用で殺しに来ただろ」


「? 何を当たり前なこと言っているんですか? お行儀が悪い存在にはそれなりの対応はしますよ」


 と答えられる。

 うすうす気付いていたがヘラとユピテルは大体の事は受け入れる度量がある。

 その中には敵対する事すら含まれている。

 おそらくどれだけやらかしても許容できる程度でしかないと理解しているのだ。

 だからこそ逆鱗にあたるモノへの対応は苛烈だ。


「ま、二人とも腕の一本や二本は覚悟してもらおうか」


「なくなったら生やしてあげますから安心してくださいね」


 差し出した手を振り払われてすら、それでも俺たちを殺すつもりは皆無らしい。

 おそらくそれがユピテルとヘラの神としてのスタンスなのだろう。


「終わりだ!!」


 ユピテルがそう言った瞬間、稲光が走りアンに直撃した。

 雷に対してアンは殴る掛かり、どういう原理かは分からないが雷を破壊した。

 だがそれは一発だけではなかったようで、連続して打ち込まれ押し切られれる。


「がっ!!」


「アン!!」


 と叫んで何とか受け止めようとした時だ。


「さっきいましたよね」


 とヘラの声がすぐわきで聞こえる。

 そちらを見ると大蟹が鋏を振り上げている。


「っぁ!!」


 体の真ん中あたりを殴り飛ばされる。

 手加減されたのかまだつながっている。

 が、勢い良く殴られたためニ、三度地面にバウンドして、岩に背中をしたたかに打ち付けてようやく止まる。

 全身から悲鳴が出ているように痛い。


「ぁ……」


 視界の端にぼろ雑巾のようにアンが転がっており、俺もまたまともに動けない。

 これまでか、と目を伏せた時だ。

 空に大きな亀裂が走った。

明日も頑張ります。

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