第一〇〇話
できました。
「よいしょ」
そんなかる声と共に、早乙女がバラバラになった。
なんの変哲もない蹴りだが体の中央に当たったらそこから波紋が広がるようにして全身が破裂した。
が、血も出ないし全体的に粘土みたいな質感のためあまり衝撃的な映像ではない。
「どうやったらそんな攻撃ができるんだ?」
「半ば次元に手をかけているので、向こうの材質とか関係ないんだよね、上の次元から見たら鋼鉄とゼリーはある意味振る舞いが同じだから」
「全く分からん」
俺のその言葉にアンは苦笑する。
「まあね、口では説明が難しいから」
と気を抜いた瞬間だ。
「が――」
ナニカに殴られてアンが吹き飛ばされる。
しばらく飛んだあと姿勢を整えて着地する。
その視線の先には早乙女だ。
いや、早乙女達だ。
「数で圧すのは流石にどうかと思うけどね」
そこかしこに生えた肉塊が裂けるようにして早乙女が生まれてくる。
「とことん気持ちの悪いやつだな」
顔を背けて言い切る。
造形がまず生理的な嫌悪感をあおる。
その上で地球外生命体じみた生まれ方と、生まれたモノが中途半端に人を想像させるからなおさら気持ちが悪い。
「いぃひぃひぃ」
と本人たちはどこか満足げだ。
そんな化け物たちに囲まれてアンは不敵な笑みをする。
「君!!」
「なんだよ、アン」
鋭い声で呼びかけられたので返す。
「離すタイミングが同じだった、多分どこかに司令塔みたいなやつがいる、そいつを探して」
「わかった」
そう返事をする。
するとアンがうなずきながらこっちの前に出る。
「じゃ、何とかさばき続けるから後ろから離れないでね」
なので慌てて追いかける。
数体が分裂させた腕を突き出してくる。
それはどうやら途中で別れているようだ。
それに対して右拳を構えて突きだした。
「よいしょ!!」
水面をかき乱すような音がしてまとめて砕かれた。
見た目的には衝撃波を発生させたようにも見える。
前に走る速度は調整しているようで何とか追いかけることができる。
そうしているとバク転をするように飛びあがり俺たちを飛び越えて後ろに着地したようだ。
「後ろからの攻撃もわかってるよ」
そんな声と共に背後から砂がこぼれるような音がする。
早乙女からどんな攻撃がされて、それをどんなふうにさばいたのかは全く想像ができない。
ただそのあとすぐに前に出てきてかかと落としを打ち込んで一人を地面に沈めた。
「なーんか攻め手が薄い?」
「俺がふたばを背負ってるからか?」
「なるほど」
とうなずいたとき、変形した早乙女の腕が振り下ろされる。
範囲は体育館を覆うほどだ。
仲間を巻き込んででも避けようのない攻撃を仕込んできたようだ。
「あまいよ」
とアンはつぶやいて俺をふたばごと抱えて上に跳ぶ。
振り下ろされる肉の壁に対して蹴り上げる。
直撃した瞬間、紙を破くように突き抜けた。
「追撃」
そしてさらに空中で姿勢を整えて、急降下。
肉の壁が多数の早乙女を巻き込んだ後で、地面にかかと落としを打ち込む。
すると地面が泡立つように衝撃波としか言えない物が全体に広まる。
その攻撃を受けて一斉に早乙女が苦しみだす。
「そうか!! 地面だ!! 地面の下にいる」
今までは全くの無反応だったのに唐突に食うしみ出したことで気づく。
「なるほど、確かに足を攻撃に使ってないね」
合点したのか俺たちをまとめて空に放り投げた。
空高く投げられて、浮遊感を味わっているときに真下から何かが通り過ぎた。
それは早乙女で、俺たちよりも空高く飛びあがって、どういう手段かは分からないが真下に向けて跳んだ。
あっという間に俺たちを通り過ぎて地面に着弾した。
それは攻撃というよりも砂を吹き飛ばす一撃だった。
「うわっ!!」
砂が噴水のように上にぶちまけられる。
そして落ちてくる俺たちをアンはキャッチして跳んで離れた。
「……デカいな」
砂煙が晴れた後にまず見えたのは逆さになった球根のような塊だ。
それはぶよぶよとした肉の塊で、根にあたる物の先に襲ってきた早乙女達がつながっている。
ご丁寧に足に見えるように二股に別れているあたり無駄に芸が細かい。
「アァァァァっ!!」
その本体からは今まで聞いたこともないほど慌てた声が聞こえる。
間違いなく本体のようだ。
だからか慌てて砂をかき集めようとする。
「これで、さよなら!!」
俺たちを地面に置いて、走り始める。
一歩、二歩と踏むたび加速して三歩目で踏み切った。
「ひぃぃっ!!」
「食らえぇ!!」
対照的な声が響きアンは貫通した。
そのあと空中で一回転して華麗に着地した。
一拍置いて早乙女の本体が内側から沸騰するように膨張し風船のようにはじけ飛んだ。
「よしっ!! 決まった」
その光景は日曜日朝の某番組ようだ。
「あとは逃げるだけだね」
「ああ」
とうなずいた時だ。
「ほう? どこに逃げるつもりかな?」
という低く響く声が聞こえる。
海という潮騒が満ちる開放空間なのにその声は耳によく届いた。
二人でそちらを見ると会いたくなかった存在がいる。
「アン、そして大谷少年」
ユピテルがうっそうとした森から浜に出てくる光景が見えた。
アンは一歩前に出て、俺はきもち下がる。
「ユピテル……」
思わずつぶやいた。
俺のその言葉にユピテルが自信に満ち溢れた頷きを返す。
「そうとも、私が来たとも」
その声と共に威圧感としか言えない物がこの空間に満ち溢れ、空気がきしんだような錯覚に陥った。
明日も頑張ります。