第八骨 骨一重
牛骨の突進は、最初のものとは違っていた。
手を抜いていたわけではないだろう。
ただ、そこまで広くない洞穴の中で、避けられた時のことを自然と考えていたのかもしれない。
だが、二度目の突進はそんなものはまるで考えない、全力全開の突進だった。
牛骨の頭に刺さった大腿骨を押し込もうとした左手の骨は、バッギャッ、という音がしてバラバラに砕け散る。
さらにそれだけに止まらず、再び左脇の肋骨に角がぶち当たった。
バキャッ、と破壊音と共に左の三番、四番、五番の肋骨がまとめて、へし折れる。
(……まだ、大丈夫だっ)
両手骨と五本の肋骨を失ったが、まだ動けた。
牛骨は俺にぶつかっても止まらず、そのまま駆け抜けて、岩壁に当たる寸前で急停止する。
それが、最後のチャンスだった。
背を向けた牛骨に向かって、突撃する。
両手の骨がないので、肩骨で牛骨の尻にある恥骨に激突した。
バキバキという骨が折れる音は、全部自分の骨だ。
肩から鎖骨にかけて、ヒビが広がっていく。
しかし、怯まない。
ここで押し切らなければ、もう勝ち目はないだろう。
ただ、がむしゃらに、骨の全てを総動員させ、全開で押していく。
カカッ、と牛骨が歯を鳴らし踏ん張った。
だが、急停止した時に、勢いよく前のめりになっているため、ひ弱な俺の骨力でも、ゆっくりとだが動かせる。
ゴッ、と岩壁に牛骨の頭蓋に刺さった大腿骨が当たった。
ガッガッガッ、と牛骨の牛足骨が俺の肋骨を蹴り上げる。
右の二番、三番、左の一番、二番がバキバキと折れていく。
(これ以上はまずいっ!)
骨から力が抜けていく。
損傷が激しくなると、身体を動かせなくなるのだ。
(あと少し、あと少しのはずだっ!)
最後の底骨力をしぼりだす。
同時に牛骨も最後の底骨力を出したようだ。
牛骨、渾身の後ろ蹴りが肋骨のど真ん中に命中し、胸に大きな穴が開く。
力が抜けるのを感じていた。
最初に倒した骨のように砂になり、崩れていくのか。
そんなふうに考えながら、膝をつく。
(……あ)
同時だった。
目の前の牛骨も、グシャッ、と力をなくして崩れ落ちた。
頭蓋に深く、大腿骨が突き刺さっている。
(間に合ったのか、いや、間に合わないのか)
どちらが早く砂になり消滅するのか。
それは本当に紙一重の差だった。
意識が消えかけ、真っ暗な闇に包まれていく。
骨と骨を繋ぎ止めていた、何かが消えていき、終わると思った瞬間に、眼前の牛骨がバラバラと崩れ出した。
(勝ったのか、いや……)
頭を砕いた人骨と同じように牛骨もサラサラと砂のように細かくなっていく。
それが俺に降り掛かると、折れて地面に落ちていた肋骨や両腕の骨が引き寄せられるようにやって来る。
(生き延びたのか)
愚かにも、骸の王に勝つために、砂骨や強化パーツを温存しようと考えていた。
俺の骨はまだそんなレベルじゃない。
明日を生き延びることすら、ギリギリなのだ。
肋骨と両腕骨が繋がったが、骨は強化されなかった。
どうやら負傷箇所が多ければ、それを治すために砂骨を使い切ってしまうようだ。
しかし、何も収穫がないわけではなかった。
前回と同じように、牛骨の中で一つだけ崩れずに残っていた骨のパーツがある。
それは骸の王が頭に付けていたのと同じ、牛の角骨だった。
【骨骨メモ】
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1 牛角骨1
総合骨数 207骨
武器 折れた大腿骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 全回復




