第七骨 牛骨突進
牛骨の突進は予想以上のものだった。
身体を捻じらせ、躱したつもりが、脇の肋骨に角がぶつかる。
(左の六番と七番をもっていかれたっ!)
肋骨は全部で二十四本で両側に十二本ずつ、それぞれ第一肋骨から第十二肋骨と名前が付いていた。
そのうち第一肋骨から第七肋骨は胸骨と繋がり、完全に胸部を覆っているのに対し、第八肋骨から第十二肋骨は胸骨と接しておらず、前腹部は開いている。
カラン、カラン、と折れた二本の肋骨が地面に落ちて音を立てた。
肋骨が欠けた左胸を見る。
そこにあるべき心臓は存在しない。
だが、まるでそこには大事なものがあるような、そんな感覚に襲われる。
前回の戦いで、頭蓋骨を砕いた骨は崩れ落ちた。
もしかして、心臓部分を砕かれても同じことが起こるのではないか?
骸の王の肋骨を思い出す。
大切なものを守るように、数えきれないほど大量の肋骨で覆われていた。
ガッ、と再び地面を蹴る音が聞こえ、振り向く。
突進した牛骨がUターンして、再び俺の方に角を向けた。
明らかに心臓の位置を狙っている。
本能なのか、それとも知識として知っているのか。
ガッ、ガッ、と何度も地面を蹴る牛骨からは、次でトドメを刺すという強い意思が伺えた。
これ以上、ダメージを負うことは死に直結する。
まあ、すでに死んで骨だけなのだが、牛骨に負けてその一部となるのは、勘弁願いたい。
どうせ、奪われるなら、骸の王に奪われたい。
真っ直ぐに突進してくる牛骨の攻撃を今度は避けようとはしなかった。
肋骨の中に入れていた、拾った大腿骨。
右手骨で根元を持ち、折れた部位を迫ってくる牛骨の頭に向けて突き刺すように前に伸ばす。
バキン、という骨が激しく折れる音がした。
大腿骨が折れたのかと思って、右手骨を見る。
折れたのは、大腿骨ではなく、俺の右手骨だった。
牛骨の突進による衝撃に耐えきれず、肩骨に近い上腕骨が真っ二つに折れ、クルクルと宙に飛んでいる。
(……強い。これはもう、どうしようもないか)
諦めかけた時だった。
すぐに攻撃してくると思った牛骨がこちらを振り向かない。
カカッ、カッカッ、と歯を鳴らしながら頭を激しく動かしている。
(これはっ……!)
ようやくこちらを向いた牛骨の頭蓋骨に、折れた大腿骨が突き刺さっていた。
ちょうど角と角の間に、刺さった大腿骨はまるで牛骨の新しい角のようで、思わずカッ、カッ、カッ、と歯を鳴らして笑ってしまう。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、と、それに気づいた牛骨が狂ったように地面を蹴りまくる。
絶望的と思われたが、最後にチャンスがやってきた。
残った左手の骨をゆっくりと前に出す。
(お前の頭蓋に、その骨を深く深く押し込んでやるっ)
そこに恐怖はなく、ただそれだけを強く思った。
【骨骨メモ】
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
武器 折れた大腿骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所
左第六肋骨 粉砕骨折
左第七肋骨 粉砕骨折
右上腕骨 開放骨折