第六骨 獣骨
戦いから、一日が経過する。
正確な時間ではないが、日が昇り、また日が暮れて夜になったので、一日ということにした。
『たすけて、うばわれる』
そう書かれた地面の文字の下に、骨で横に線を引く。
使った骨は、戦いで利用した折れた大腿骨だった。
明日まで生き延びれば、その下に縦線を引くことになるだろう。
『正』の字が完成するまで生き残れるだろうか。
その可能性は低いように思えた。
恐らく、これから定期的に上から骨が落とされてくるのだろう。
それを倒していき骨を強化しても、最後は骸の王に破壊され奪われる。
逃れようのない死がここにあるのだ。
(とはいえ、生き残れる可能性がないわけではない。ごく僅かな可能性だが……)
まずはこれからの戦いに生き残り、骨を強化する。
ただ、強くなり過ぎてはいけない。
強くなりすぎれば、骸の王の餌として認められる。
ギリギリのところで、強化を止めておくことはできるだろうか?
骸の王に認められる手前で、強化をやめて砂骨を保存する。
さらに仙骨のような強化骨も隠しておく。
どれぐらい貯めれば、あの完璧な骨に近づけるのか見極めは難しいが、やれるだけのことはやってみよう。
日付の横に、自分の骨状況もメモしておく。
骨になる前の記憶はないのに、骨の知識だけは異様なまでに覚えている。
また昨日と同じような骨が落ちてきても大丈夫だ。
ヒビも治ったし、骨密度も上がった。
トドメを刺した時に使った折れた大腿骨も、肋骨の中に隠し持っている。
普通の骨なら負ける気はしなかった。
そう、それは油断だったのだろう。
落ちてくるのは、自分と同じ骨だと勝手に思い込んでいた。
頭上から再び、骨が落ちてくる。
昨日と同じようにすぐに上を見たが、やはり落とした者の姿は見えない。
ごんっ、と鈍い音がして、地面に激突する。
……骨の折れる音はしなかった。
昨日よりも丈夫な骨なのか。
落ちてきた骨を見て、納得する。
(ああ、そうか、どうして落ちてくるのが人間の骨だけだと思ったのだろう)
骸の王にもあったではないか。
牛の角や蝙蝠の羽が。
ここには、人間だけではなく、様々な骨が落ちてくるのだ。
落ちてきた骨は四本の足で立ち上がった。
顔には大きく鋭い角が二本付いている。
骸の王についていたものと、同じ角。
それを俺のほうに向けて、地面を後ろ足の骨で蹴って威嚇している。
牛だ。
どう見ても人間の骨より、頑丈そうな牛の骨がそこにいた。
(これは、勝てないかもしれないな)
人間の骨のように牛の骨の名称は、スラスラとは出てこない。人間にある骨と似た部位の骨しか判別できなかった。
俺はどうやら人間の骨しか詳しくないようだ。
どこが頑丈で、どこが脆いかもわからない。
牛の骨が大きく後ろ足を蹴りつけ、こちらに突進してくる。
狭い穴の中では、避ける場所もほとんどない。
カタカタカタカタ、と歯が震える。
それは、声にならない俺の悲鳴だった。
【骨骨メモ】
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
武器 折れた大腿骨
現在の骨強度 貧弱貧弱