第四骨 骨対骨
自分と同じような骨が眼前に立つ。
先程見た『骸の王』と比べるとなんとも貧弱に見えるが、俺も似たような身体ということに気がついた。
どちらの骨も、穴に落ちた時に亀裂が入り、簡単な衝撃で崩れ落ちてしまいそうだ。
カッ、カッ、カッ、と骨が歯を鳴らす。
俺のことを敵と見ているのか。
拳を構えて近づいてきた。
(この状況を受け入れているのか?)
俺のように記憶を失っていないなら、色々と事情を聞きたいが、喋れないならそれも不可能だ。
もはや戦うしかない状況なのだろう。
自分がどれだけ動けるのかわからないが、敵と同じように拳を構える。
そこに、かなりのスピードで拳部分にあたる手根骨が飛んできた。
ガツンという音とともに、前腕部にある尺骨と橈骨にダメージが入る。
痛みはなかった。
痛覚というものは存在しない。
だが、ぶつかった部分に入っていたヒビから、さらに亀裂が広がっていく。
(……二、三回殴られたら砕け散るっ)
それは推測ではなく確信だった。
どれぐらいの強さで何回叩かれたら砕けるか、瞬間的に理解できる。
(俺はこれまで何度も骨を砕いたことがあるのか?)
記憶は戻らない。
だが、この戦いにおいて、骨の知識は十二分に役に立つ。
敵が再び拳を振るう。
しかし、今度は前腕部で受け止めず、肘の部分にあたる肘頭で受け止める。
バキンッ、という音がして砕けたのは、敵の手根骨だった。
指を支えていた骨が無くなり、ボロボロと親指以外の四本の指の骨が落ちていく。
大丈夫だ。
俺は知っている。
どこの骨が脆く、どこの骨が硬いか、を。
(どうだ? 降参するか?)
片手が使えない敵に呼びかけたが、やはり声はでない。
こちらも、カッ、カッと歯の鳴る音を立てるだけだ。
そして、それに反応するように、再び目の前の骨がカッ、カッと歯を鳴らす。
(……まさに悪夢だな)
人間だったなら、怯えていたのだろうか。
俺も同じ骨なので、恐怖はまるで感じない。
あるのは、ただ、目の前の骨をバラバラにしてやるという感情だけだった。
拳の骨が脆いことを知った敵が、今度は腕を曲げ、肘を振り回してくる。
学習能力があることから、俺と同じように人間の頃の知識があるのだろう。
だが、骨の知識は俺と比べると、随分浅いように感じる。
肘を振り回すには、身体の骨を大きく使わなければならず、一度避けてしまえば隙だらけだ。
頭を下げて、大振りな攻撃を交わす、その動作の一環で、俺は地面に散らばっている骨を一つ掴んだ。
俺たちのような貧弱な骨ではない、太くて頑強な骨。
半分に折れた足の大腿骨を握りしめた。
攻撃を外してバランスを崩した敵が、片膝をついて、俺を見上げる形になる。
俺はその頭蓋骨に向けて、拾った骨を、力いっぱい叩きつけた。