第二十七骨 過去骨
夢を見ていた。
人間だった頃の夢だろうか。
大量の骨に囲まれている。
実験室だ。
そうだ。俺は人間だった時、ほとんどの時間をこの部屋で過ごしていた。
「帰らなくていいのか?」
俺と同じ白衣を着た男が話しかけてくる。
名前はなんだったか、頭がぼやけて思い出せない。
「子供に熱が出たと奥さんから連絡があったぞ」
「今、大事なところなんだ。これが完成すれば、骸の王に対抗できるかもしれない」
大事なものが何なのか、この時の俺にはわかっていなかった。
これが生きた妻と娘と会う最後の機会だったのだ。
「そういえば、逃げ出した実験体の猿は回収できたのか?」
「ああ、今朝捕えて処分した。問題ない」
知っている。
その猿は回収する前に誰かに噛み付いていた。
パンデミックはこの時すでに始まっていたのだ。
ああ、そうか。
俺は最初から、生きていてはいけない人間だった。
目に見えるものが、すべて赤く染まっていく。
そうだ。
俺は猿骨に頭蓋骨を砕かれたのだ。
すべてが終わる。
それでいい。
俺はもう……
「終わらないよ」
真っ赤な映像の中で、白衣の男がそう言った。
「お前はずっと戦い続けるんだ」
男の顔が笑みを浮かべる。
ああ、その顔はっ。
馬鹿なっ、お前はっ!?
記憶が混乱して、様々なものが混ざり合う。
骨。クレア。猿。骨骨。実験。骸の王。骨骨骨。セレア。骨骨骨骨……
「ほら、迎えが来たぞ」
後ろから肩を掴まれる。
振り向くと、そこに巨大な骨が立っていた。
「……ゴリラ骨っ」
肋骨がなくなったゴリラ骨が俺の肩を持ったまま頷いた。
まさか、俺が死ぬ前に……
突然、眩しい光に包まれる。
辺りが真っ白になり、実験室が消えていく。
「お前は俺のっ……」
最後に白衣の男に向かってそう叫んだ所で、目が覚めた。
穴だ。
穴の中心に立っている。
周りは数えきれないほどの骨で埋め尽くされていた。
頭蓋骨に触ると、猿骨に砕かれた骨は元に戻っていた。
そして、立ったまま息絶えていたゴリラ骨の姿がない。
そうか、俺に倒されて砂骨になり、回復してくれたのか。
最後の最後までゴリラ骨に助けられた。
頭蓋骨だけではなく、全身の怪我が治っていた。
それどころか、骨はさらに強化されている。
ゴリラ骨の砂骨は、かなり強力だったようだ。
残った四匹の猿骨が、女骨に襲いかかっていた。
大丈夫だ。
この身体ならもう負ける気はしない。
猿骨に向かって歩き出すと、頭蓋にズキッと痛みが走る。
頭を砕かれた時に、何か夢を見ていた気がするが、それがどんな夢だったのか、思い出せない。
(……俺の記憶に関する夢だったのか)
朧げながら、過去ことを見ていたような、そんな夢だった気がする。
確かめるには、もう一度死にかけるしかない。
(しばらくはごめんだな)
背後から猿骨を強襲する。
最後の戦いは、驚くほどあっさり決着がついた。
【骨骨メモ】
日付 5日目
骨強化 3回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5 胸椎12
総合骨数 235骨
武器 背骨ムチ
現在の骨強度 ひのきの棒レベル
負傷箇所
全回復
仲骨 女骨
日付 3日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
武器 骨ヌンチャク
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所
背骨胸椎 亀裂骨折
左手上腕骨 開放骨折
右脚大腿骨 開放骨折
他多数亀裂骨折




