第二十骨 骨違い
女骨が起きたのは、日が暮れ始めた頃だった。
背骨という重要箇所のダメージを、なんとか少しでも治そうという本能的なものなのか。
亀裂の入っていた女骨の背骨は、幾分かはマシになったような気がする。
(骨の組み替えが可能になった。もしもの時は、俺の持つ予備の背骨と入れ替えることが出来るんじゃないか?)
そんな思いから女骨の腰骨にある仙骨に手を伸ばす。
ビクッ、と女骨が驚いて、後ろに下がった。
自分の仙骨を押さえて、怯えたように身を縮ませる。
(ま、まさか、勘違いしていないかっ)
目玉はないけどわかる。
今、女骨は俺を明らかに軽蔑の眼差しで睨み付けている。
(ち、ちがうぞっ、スケベなことをしようとしたんじゃないっ、背骨を入れ替えれるか、試そうとしたんだっ!)
カッ、カッ、と歯を鳴らしながら、身振り手振りで弁明した。
夢の中のように言葉が解るようになれば、楽なのだが、なかなか意思伝達が難しい。
しばらくして、ようやく誤解が解けたので、女骨の追加された仙骨に俺の追加骨の背骨を繋げようとする。
(……っ!? ダメだ、関節球はあるのに繋がらない)
追加骨には所有権があるのか。
倒した者にしか強化できないのなら、これからも戦いの結果により、強化に差がでてきてしまう。
(やはり二人とも生き残ることは、かなり難しい。いや、一人ですら、生き残る可能性はほとんどゼロに近いのだ)
この穴で初日に出会った骸の王を思い出す。
次にここに来るのは、あと何日後だろうか。
また、次に来た時も弱者として見逃してくれるのだろうか。
1日も早く強くならなくてはならない中、女骨と共に生き延びようとするのは、自殺行為ではないだろうか。
様々な考えが頭蓋を駆け巡る。
そんな俺を見ていた女骨が、何やらペコペコと頭を下げて謝っていた。
俺のことを勘違いしたので、俺が怒っていると思ったのだろう。
(大丈夫、怒ってないよ)
そう思っただけで、ジェスチャーも何もしていないのに、女骨は謝るのをやめて、微笑んだ。
そして、俺も気がついた。
何も変わらない骨だけの表情から、女骨が微笑んだことがわかったのだ。
やはり、俺と女骨は生きている時、かなり親しい間柄だったのだろう。
可能性などゼロかもしれない。
それでも、最後まで諦めず、女骨と二人で生き延びよう。
強く、そう決意した。
そして、再び夜がやってくる。
女骨と二人で天井を見上げていると、信じられない光景が飛び込んできた。
滑車のようなものが見え、その荷台には、大量の骨が積んである。
(まさか、あれを全部落とすつもりなのかっ!?)
そう思った時には、ザーー、と信じられない数の骨が穴に注がれる。
(人の骨じゃないっ!)
落ちてくる骨を見て、それだけが解る。
そして、毎度のことながら、こう思う。
今までで一番の絶望がやって来た。
【骨骨メモ】
日付 5日目
骨強化 2回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5 胸椎12
総合骨数 235骨
武器 骨ヌンチャク 背骨ムチ
現在の骨強度 脆弱と貧弱の間
負傷箇所 右脚大腿骨 亀裂骨折
仲骨 女骨
日付 3日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 背骨胸椎 亀裂骨折




