第十八骨 骨解体
夢だからだろうか。
骨として目覚めてから見てきた世界と、違う世界に見える。
これまで見えなかったものが観え、聞こえなかったものが聴こえるようであった。
壁際に追い詰められた武骨がカカッと歯を鳴らす。
『さすがだな、骨使い』
武骨の声が聞こえてきた。
夢の中の妄想なのか。
それとも本当に武骨がそう言っていたのか。
真実はわからない。
武骨は意を決したように、大きく息を吸って吐き出した。
骨の隙間から、ヒュー、という音が漏れ出る。
空手などで見る息吹と呼ばれるものだろう。
全身を引き締め、集中力を高める為に使われる。
『参る』
残った右手骨で骨ヌンチャクを振り回しながら、武骨が突進した。
すべての力を絞り出しているのだろう。
台風のような勢いで、骨ヌンチャクが武骨の周りを回転する。
だが、夢の中の俺骨は、そんな武骨の攻撃ですら、余裕を持って飄々(ひょうひょう)と躱していた。
一体、俺は何者だったのだ。
あれだけ恐ろしかった武骨がまるで子供扱いだ。
ピタリ、と武骨の動きが止まっていた。
左手骨を外した時のように、骨ヌンチャクを持った武骨の右手骨を俺骨が両手骨で掴んでいる。
左手骨を外した時は、早すぎてどうやって骨を外したかわからなかった。
今度は見逃さないようにじっくりと、集中して観察する。
カチリという小さな音がして、再び武骨の骨が簡単に外れた。
今度はその瞬間を見逃さない。
(あれは、関節球か!?)
骨と骨の繋ぎ目に、透明の球体が見えた。
球体ジョイントという言葉が頭蓋に浮かぶ。
直径10センチくらいの小さな球が、骨の関節となり、肉があった時のような動きを可能にしている。
その球は魂の一部なのか。
夢の中だからこそ、気がついたのだろう。
それは、まさに、命の塊、そのものだった。
腕を掴んでいたと思っていた俺骨の手は、その関節球に直接触れている。
力を入れた様子はない。
優しく、まるで大切なものを扱うように、武骨から関節球を取り外す。
左手骨に続き、武骨の右手にある尺骨と橈骨が外れて、骨ヌンチャクごと地面に落ちる。
『お見事』
それが武骨の最後の言葉になった。
俺骨の両手骨が信じられないような速度で動く。
同時にいくつもの関節球が、武骨から外れ、地面に落ちていった。
透明な球は、月の光に反射して、キラキラと輝いている。
それは、魂が溢れ落ちていくような、そんな幻想的な光景だった。
すべての関節球をなくした武骨が、その形を保てなくなり、バラバラと崩れていく。
俺骨は、そんな武骨を見ることなく、ただ天井から覗く月を眺めていた。
【骨骨メモ】
日付 4日目
骨強化 2回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5 胸椎12
総合骨数 235骨
武器 骨ヌンチャク
現在の骨強度 脆弱と貧弱の間
負傷箇所 右脚大腿骨 亀裂骨折
仲骨 女骨
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 背骨胸椎 亀裂骨折




