第十七骨 骨夢
武骨との戦いが終わってから、しばらく経った頃だった。
背骨の傷をチェックしていた女骨が、寝そべったまま、しばらく動いてないことに気づく。
何かあったのでは、と心配して近寄ると、カタカタと小刻みに歯が動いていた。
(寝ているのか?)
ここに来てから四日間、睡眠など取ったことはない。
骨だけの身体にそんなものは必要ないと思っていた。
しかし、だ。
(なんだ? 俺も意識が遠のいていくぞ)
記憶がないが、これは睡魔というやつだろう。
なぜ、いきなりそんなものに襲われるのか。
疑問はすぐに解明した。
(……回復しているのか?)
女骨にあった背骨のヒビが、少しだけ回復している。
骨砂のような大きな回復ではないが、眠ることによりごく僅かな回復が得られるようだ。
ここにきてからは、ずっと骨砂で全回復していたことを思い出す。
だから今まで、一度も睡魔に襲われることが無かったのか。
意識が暗闇に包まれていく中で、疑問に思う。
俺の記憶は、この骨のどこにあるのだろうか。
もしかしたら、それが骨の身体を繋ぎとめているのか。
そんなことを考えながら、意識は闇の奥に消えていった。
「オオオオオオオォォっっ!!」
骨が咆哮をあげていた。
右脚の大腿骨が折れてなくなっている。
その前で、武骨がカカッ、と嬉しそうに歯を鳴らす。
これは夢なのか。
頭蓋が真っ白になった時の、失われた記憶が蘇る。
それは、まるで自身の記憶ではなく、映画のスクリーンを通して他人の記憶を見るような、そんな感覚に近いものがあった。
映画のスクリーン?
頭蓋に意味不明の単語が浮かぶのは、これが夢だからか。
映画も、スクリーンも、何を意味しているのかわからない。
不思議な感覚のまま、武骨と自分の戦いを眺めている。
ビュンッと、武骨の骨ヌンチャクが正確に頭蓋に飛んでくる。
俺なら絶対に躱せない攻撃を、夢の俺骨は頭蓋をずらして簡単に躱す。
(なんだ? おかしいぞ)
俺骨が骨ヌンチャクの攻撃を躱す時の動きは異様だった。
武骨が動き出す前にすでに動いている。
(まさか、わかるのかっ!? 骨の動きがっ!!)
鍛えられたボクサーなどが、筋肉の動きなどで、次の攻撃を予測することができると、聞いたことがあった。
ビュン、ビュン、ビュン、と骨ヌンチャクが連打で繰り広げられる。
俺骨は、足、肋骨、頭、それぞれ違う部位への攻撃を、左脚骨しかない身体で華麗に躱していた。
夢の俺骨は、骨の僅かな振動から、次にくる攻撃を予測しているのか?
武骨の骨ヌンチャクがさらに早くなっていく。
しかし、俺骨はそれすらも簡単に避けて、片足で飛ぶように武骨に近づいた。
カカッ、と歯を鳴らし、武骨が右手骨で骨ヌンチャクを振り回しながら、左手骨で殴りかかってくる。
それをしゃがみ込んで躱した俺骨が、両手骨で、武骨の左手の尺骨と橈骨を掴んだ。
(あっ)
力を入れたようには、見えない。
なのに、あれだけやっても外れなかった骨と骨の連結部が、簡単に外れてバラバラになった。
俺骨がゆっくりとさらに武骨に近づいていく。
武骨には、もう余裕など微塵もない。
さっきとは逆に、武骨が壁際まで追い詰められていた。
【骨骨メモ】
日付 4日目
骨強化 2回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5 胸椎12
総合骨数 235骨
武器 骨ヌンチャク
現在の骨強度 脆弱と貧弱の間
負傷箇所 右脚大腿骨 亀裂骨折
仲骨 女骨
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 背骨胸椎 亀裂骨折
 




