第十五骨 叫骨
何かを考える余裕などなかった。
武骨の強さは、骨強度だけではない。
骨ヌンチャクを華麗に操るその様は、百戦錬磨の達人を彷彿とさせる。
左手骨で頭蓋骨を守りながら、突進した。
一撃は喰らうつもりの捨身攻撃。
だが、そんなものは、武骨にとって、ただの見苦しい悪あがきに過ぎなかったようだ。
ボキッという音が響き渡る。
折れたのは、右脚の大腿骨だった。
武器に使っていた大腿骨に続き、自らの大腿骨までへし折られる。
バランスを崩して、倒れる寸前に、武骨の足骨に手骨を伸ばす。
(このまま倒れたらトドメを刺されるだけだっ)
残った左足骨に力を入れて、必死に抱き着こうとする。
だが、武骨はほんの少し身体をズラしただけで、あっさりと俺を躱した。
べちゃり、と情けなく地面に顔骨をぶつけて倒れる。
終わりだ。
後は武骨が骨ヌンチャクで俺の頭蓋骨を砕くか、足骨で砕くか、どちらかを選ぶくらいだろう。
カカッ、と失笑するように武骨が歯を鳴らし、骨ヌンチャクを振り回す。
上を見ることは出来なかった。
すでに死んでいるのに、俺は死ぬことが怖くて、骨が震える。
ブンッ、と空気を切り裂くような音がして、俺の頭蓋に骨ヌンチャクが振り下ろされるのがわかった。
バキャッ、と骨が砕け散る。
だが、それは俺の頭蓋が砕けたのではなかった。
(……クレアっ!)
声にならない声で、名前を叫ぶ。
武骨の骨ヌンチャクから、俺を守るように、女骨が俺に覆い被さっていた。
女骨は、俺の頭蓋骨を大切なものでも守るように抱きしめている。
砕けた骨は、女骨の背骨、12個ある胸椎の真ん中あたりだった。
カカッ、と武骨がなにか言った後、さらに骨ヌンチャクを振るう。
バキッ、バキッ、とそのたびに、女骨の背骨が次々に砕けていく。
(やめろっ、やめてくれっ)
頭蓋に何かの映像が浮かぶ。
右手を亡くした小さな子供とそれを抱える女性の姿だ。
(もう、どこにもいかないでくれっ!)
頭蓋の中が真っ白になった。
いや、頭蓋だけではない。
すべてが白く染まり、何も見えなくなる。
「オ、オオッ……」
声が出た。
その声はどこから出たのか。
自分でもわからない。
覆っていた女骨を退けて、一本足で立ち上がる。
これは怒りなのか。
すべてが真っ白になる中、武骨だけがはっきり見える。
身体中の骨が、燃やされているように熱かった。
「オオオオオオオォォっっ!!」
そして、俺はすべてを吐き出すような声で咆哮した。
カカッ、と武骨が嬉しそうに歯を鳴らす。
(……ぶっ壊してやるっ!)
その感情が最後だった。
そこから先のことは、なにも憶えていない。
気がついた時には、俺の足元で武骨がバラバラになっていた。
【骨骨メモ】
日付 4日目
骨強化 2回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5
総合骨数 213骨
現在の骨強度 脆弱と貧弱の間
負傷箇所 右脚大腿骨 開放骨折
仲骨 女骨
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 背骨胸椎 粉砕骨折




