第十三骨 武骨
静かに時間が過ぎていく。
あれから女骨とコミュニケーションをとることはなかった。
どちらが決めたわけではないが、領域を半分で区切り、お互いがお互いを干渉しないようにしている。
女骨は自分の骨を、手で軽く叩いて、強度を確かめているようだ。
俺は次の対戦に向けて、右手骨に装着した牛角骨を刺す練習をしていた。
(内に剃りかえっているので、突き刺さると抜けにくい。引っ掻くように使ったほうがいいのか)
敵に躱され、壁にでも刺さると大変なことになる。
腕骨を折るか、もしくは腕骨を外さないとすぐに動けない。
試しに右手の上腕骨を左手骨で掴んで、引っ張ってみた。
(やはり、簡単には外れない。どういう仕組みなんだ?)
通常なら、骨と骨をつなぐ関節が存在するはずだった。
関節は、関節包に包まれ、その中にある軟骨と関節液が、衝撃を吸収したり、骨同士がこすれて傷ついたりしないように、クッションの役割を果たす。
だが、俺にも女骨にもそんなものは存在しなかった。
しかし、見えない何かによって、骨の身体は連結されている。
一体、何がこの骨の身体を繋ぎとめているのか。
それがわからない限り、簡単には骨を外すことは出来ないように思えた。
骨のことを考えているうちに、いつのまにか、天井から入る光が消えている。
四日目の夜が来た。
いつものように天井を見上げ、待機する。
油断は微塵もない。
昨日までの三日間で、簡単に勝てた戦いなど一度もなかった。
こちらが強くなるにつれ、落とす敵も同じくらいの強さになるように調整しているのではないのか。
それぐらい、いつもギリギリの戦いだった。
影が天井から顔を覗かせる。
(……アレは、一人なのか?)
そこには、一つの影しかなかった。
骨が骨を入れているのではなかったのか?
(あっ)
それは落とされたのではなかった。
その影は、自ら望んでいるように、天井の穴から飛び降りる。
これまでの骨は、体勢を崩しながら転落し、地面に激突して骨折していた。
だが、その影は……
バンッという衝撃音と共に、着地する。
骨が折れた音はしない。
しっかりと両足で、大地を踏みしめ立っている。
骨だ。しかし、今までのような骨ではない。
(……すでに強化されているっ!)
見ただけですぐにわかる。
骨密度が桁違いだ。
地面に散らばっている骨と、遜色ない頑丈な骨は、確実に何度も強化を繰り返している。
(なんだ、アレはっ!?)
しかも、その右手骨には、骨と骨を鎖で繋いだものが握られていた。
どちらも腕の上腕骨だ。
カッ、カッ、カッ、と歯を鳴らし、やってきた骨が、鎖を手首の骨に掛けて繋がっている上腕骨を回転させる。
ブンブンと空気を切り裂く音が、穴の中に鳴り響く。
(武器だ。骨で作ったヌンチャクだ)
俺も女骨も目の前に現れた敵を前にして動けないでいる。
やってくる骨が、同じくらいの強さの骨になるよう調整しているなんて、とんでもなく甘い考えだった。
そんなものは、まるで計算されていない。
戦わなくてもわかる。
二人がかりでも、絶対に勝ち目がない。
それほど、この骨と俺達には、圧倒的な差があった。
【骨骨メモ】
日付 4日目
骨強化 2回
追加骨 仙骨1 牛角骨1 腰椎5
総合骨数 213骨
武器 折れた大腿骨
現在の骨強度 脆弱と貧弱の間
負傷箇所 全回復
仲骨 女骨
日付 2日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1
総合骨数 207骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 全回復