表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

幕骨 猿

 

 とてもとても大好きなのに、いつも喧嘩をしてしまう。

 幼馴染みのセレアに今日も乱暴なことを言ってしまった。

 他の男子と仲良くするのを見て、イライラしてしまったからだ。


「タケルなんてもう嫌いっ。絶交だからねっ」


 そう言って泣いたセレアの顔を思い出して泣きそうになる。

 なんとか仲直りするために、学校が終わった後、山に花を探しに出かけた。


 凶暴な猿が出るから、山に入っちゃいけないよ。


 少し前に先生がそう言っていたが、関係なかった。

 セレアを笑顔にするために、僕は山に登って行く。

 もう二度と泣かさない。

 そう、心に誓って、走り出す。


 目的の花は山を少し登った丘にあった。

 薄紫色の綺麗な花が一面に咲いている。

 日が暮れる前に帰れそうだ。

 セレアの年と同じだけの八本の花を積む。

 これで笑ってくれるだろうか。

 そんなことを思いながら、帰ろうとした時……


「うき」


 花畑の中心に一匹の猿が座っていた。

 目が大きな猿だった。

 しかも、その目は異様なまでに赤く充血している。


「なんだよ、なに、見てんだよっ」


 不気味な猿が怖くて、強がって叫んでいた。

 猿はまるで、そんな僕を嘲笑うかのように見つめてくる。


「あ、あっちいけよっ」


 地面に落ちていた石を拾って投げつける。 

 ただの威嚇だったので、猿には当たらず、その後方に飛んでいく。


「えっ?」


 思わず声を上げていた。

 石は当たってないはずなのに、猿の大きな目玉の隙間からドロリ、と血が垂れて地面に落ちた。

 しかも、目だけではなく、耳からも口からも赤い血を流している。


 ただの猿じゃない。

 そう思った時には、逃げ出していた。

 後ろから猿の足音とは思えない、不気味な音がついてくる。


「うわぁあああああああああ」


 大声で泣き叫びながら、必死に駆け足で山を降りた。

 しかし、どこまでも足音はついてくる。

 振り向いちゃダメだ。振り向いちゃダメだ。

 そう思いながらも、ついに僕は振り向てしまう。

 血塗れの猿が僕に覆い被さってきた。



 ……セレアに花を見せるんだ。

 襲ってきた血塗れ猿に抵抗する。

 引っ掛かれ、噛み付かれ、それでも僕は諦めなかった。

 僕は、血塗れ猿の手をとって、そこに思い切りかぶりつく。

 もう一度セレアの笑顔が見たい。

 僕は死ぬわけにはいかなかった。



 泣き声が聞こえてくる。

 セレアの声だ。

 もう二度と泣かさないと決めたのに、どうしてセレアは泣いているのだろう。

 セレアは左手の甲を押さえていた。

 血が流れている。

 誰かに噛まれたのか?

 いや、違う。


 僕が噛んだんだ。


 血塗れ猿を噛んだつもりだった。

 それがいつのまにかセレアに変わっていた。

 なぜ? 猿はどこにいったんだ?

 どうして僕はここにいるんだ?

 そうだ。セレアに花を渡さなきゃ。


 ずっと握っていた花束をセレアに向けて差し出した。

 セレアの泣き声はますます大きくなる。

 花はいつのまにか、猿の左手に変わっていた。


「ああああああああぁあぁあぁアぁぁああっ」


 堪えていたものが爆発したように、僕は泣き叫ぶ。

 セレアを笑顔にしたいのに。

 どうして、こんなことになってしまったんだ?

 猿だ。全部あの猿が、悪いんだ。

 ごめんね、セレア、僕は、僕は……


 涙が頬を流れて地面に落ちる。


 それはあの猿と同じ、赤い色をした血の涙だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ