第十骨 女骨
再び夜がやって来る。
地面に引いた横線の下に、大腿骨で縦線を引く。
二日が経過して、三日目を迎えた。
今夜もまた上から骨が落ちて来るのだろう。
この穴に骨を落とし続けているのは何者なのか。
それを知ることにより、今後の対策も変わってくるかもしれない。
今度こそは見逃さないよう、もうだいぶ前からずっと上を眺めている。
(……きた)
穴の上に人影が見えた。
三つだ。
二人は普通の人間で、一人は骨なのか?
遠いうえに暗いので、ハッキリとはわからない。
(なんだ、抵抗しているのか?)
骨はすぐに落ちて来なかった。
三つの影が、折り重なり、揉み合っているように見える。
(あっ!)
声は出ないが、心で叫んだ。
重なっていた三つの影が、そのまま一緒になって落ちてくる。
落とされそうになった骨が抵抗して、そのまま一緒に引きずり込んだのか。
グシャという音と共に、それらはまとめて落ちてきた。
(わかるのかっ、骨を落としている人間がっ)
一瞬、そう期待したが、すぐにそれが間違いだと気づく。
そこに人間など、存在しなかった。
落ちてきた者達が、カタカタと動き始める。
それは、俺と同じ、三体の骨だった。
(……この穴には、骨が骨を入れているのか)
落ちてきた骨共にそう聞きたいが、もちろん話せない。
やはり、ここでは戦う以外の選択肢はないのか。
起き上がった二体の骨がゆっくりとこちらに近づいてくる。
だが、残った一体の骨だけは、その場から動かない。
(あれは、まさか……)
前に倒した骨とも、近づいてくる二体の骨とも違う。
(……女性の骨かっ)
動かずにじっとこちらを見ている骨には、一目で女性の骨とわかる特徴があった。
骨盤だ。
女性の骨盤は、産道がある為、横に広がっているのに対し、男性の骨盤は縦長になっている。
さらに頭蓋骨も男性のものより小さく、滑らかに見えた。
女骨は、その場から動かずに、ただ呆然としている。
(戦う気がないのか? いや、油断させておいて、不意打ちを狙っているのかもしれない)
これまでの戦いはすべて一対一だった。
今から始まる戦いは、二体の骨と同時に戦いながら、もう一体にも注意しなければならない。
相手は素手で、骨の強度も最初の俺と同じくらいだが、協力して戦われたら、勝ち目はない。
相手が向かってくる前に、こちらから先制攻撃を仕掛けるしかなかった。
右手骨に装着した牛角骨を構えながら、さらに左手骨で折れた大腿骨を握る。
二体の骨が横に並んで迫る中、右の一体に的を絞り、そこに向かって突っ込んでいく。
その時、これまで動かなかった女骨がゆっくりと立ち上がる。
(……なんだ? これはっ!?)
痛みを感じないはずの頭蓋骨に、ズキンとした痛みが走る。
そして立ち上がった女骨が、一瞬だけ肉体を持った人間の姿に見えた。
(俺は、この女骨を知っているのかっ!?)
失われた記憶の断片が蘇ったのか。
完全に意識がそちらに奪われる。
その隙を見逃さず、二体の骨が腕を振り上げ、襲ってきた。
【骨骨メモ】
日付 3日目
骨強化 1回
追加骨 仙骨1 牛角骨1
総合骨数 208骨
武器 折れた大腿骨
現在の骨強度 貧弱貧弱
負傷箇所 全回復




