第一骨 骨しかない
骨が辺りに散らばっていた。
ほんの僅かな光が差し込む、深い深い岩穴の奥。
俺はそこに仰向けで寝そべっていた。
どうして、こんなところにいるのか。
考えようとしたが、まったくわからない。
いや、それどころか、自分の名前すらまったく思い出せないことに気がついた。
尋常ならざる事態のようだ。
とにかく、少しでも情報を得ないと話にならない。
まずは、起き上がり、ここがどこかを確認しよう。
両腕を動かして、上体を起こそうとしたが、まったく力が入らない。
まるで、身体中の筋肉がなくなったみたいだ。
力を入れても、固定されたように俺の身体は地面に張り付いている。
状況から察するに、俺は洞窟の落とし穴かなにかから転落したのだろう。
頭を打って記憶を失い、さらに全身を強打して動けないようだ。
そして、まわりの骨は、自分と同じように穴から落ちて亡くなった者達の骸といったところか。
あれ?
これ、もう終わってないか?
絶対絶命どころではない。
これは、もう死を待つだけの状態ではなかろうか。
誰か、助けて。
そう叫ぼうとして声が出ないことに気がつく。
ただ、歯と歯が噛み合う、カチカチという音だけが、穴の中で虚しく響く。
終わった。
このまま死んで、俺もまわりの骨と同化していくのだろう。
動かない身体で、目線だけ動かして、じっくりと散らばっている骨を見る。
ひび割れた頭蓋骨。
粉々になった肋骨。
変色した尾骶骨。
折れた上腕骨。
砕けた大腿骨。
すぐに俺も、こうなるのか。
そう思うと同時に、いくつかの疑問が浮かぶ。
どうして、俺はこんなにも骨の名称に詳しいのだ?
自分の名前も思い出せないのに、目にした骨の名前はすべて明確に判別できた。
人体には、およそ200個の骨が存在する。
正確には200から208個、基本的には206個だ。
存在する個所から、頭部・体幹・上肢・下肢の四つに分類される。
骨の知識がぱっ、と頭に浮かぶ。
やはり、詳しすぎる。
俺は骨専門の医者か何かだったのか?
そして、さらにもう一つ、わかったことがあった。
散らばっている骨は、穴から落ちただけでは、このように砕けはしない。
何者かが、手を加えないとこのような状態にはならないはずだ。
絶望の中でさらなる絶望を予感する。
これで終わりじゃない。
ここに落とされた後、何者かがトドメを刺しにやってくるのだ。
なんとか逃げられないかと、必死に動こうとする。
しかし、先程と同様にぴくりとも身体は動かない。
一体、どれほどの怪我をしたのか。
自分の身体を見ようとするが、目に入るのは、辺りに散らばる骨と、地面の砂だけだ。
そこでようやく気がついた。
ここには、骨しかない。
骨以外存在しない。
そうか。
俺の肉体など、とっくになくなっていたのか。
今までの感覚とは違う。
筋肉ではなく、骨を動かすイメージを頭の中で構成する。
驚くことに、俺の身体はすんなりと立ち上がった。
頭蓋骨を動かして、自分の身体を見る。
筋肉も内蔵も脳味噌もない。
所々にヒビが入った白い骨。
それが、俺に残ったすべてだった。
骨が主役のお話です。
ここまで読んでくださった読者様、ありがとうございます!
おかげさまでホラー月間ランキング2位、四半期ランキング三位となりました!
「ちょっと骨が好き」
「骨を応援したい」
「骨が気になる」
「一日二骨を毎日にしてほしい」
「骨骨骨骨骨」
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骨感想や骨レビューもお待ちしております。
どうか骨をよろしくお願いします!
追記
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