001:文化人類学
こういうのを書くのは実は初めてです。
「わぁ、見なよ友希ちゃん。回転ベッドだよ、こんな近所にまだ現存していたんだね」
二人で初めて入ったラブホテルで、子供みたいにはしゃいでいるのは、少し前に付き合い始めたばかりの門脇洋さん。
来春から超京大学で文化人類学の准教授になることが決まっているエリートなの。まだ34才で異例の抜擢なんだよ。
「ああなるほど、回転機構は殺してあるんだ。知ってる?これが廻るようになっているホテルは警察の管轄になるんだよ」
「そ、そうなんですね。こういうとこはじめてだし、よくわからないです」
思わず赤面してうつむいてしまう。これはポイント高いぞ。
ちなみに、私は嘘は少しも言っていない。
だって、こんなベッドのあるラブホテルにきたのは事実はじめてだもの。
私は平岩友希、25才。絶賛婚活中の普通のOLだよ。
「ちょうど30年くらい前かなぁ。風営法が改正されてさ、その絡みから急激に数を減らしていったんだ。いまではもうほとんど御目に掛かる機会がなくなっているらしいよ」
そういえば、ラブホテルの研究をしていたって聞いたことがある。
どんなことを調べてるのかはまったくわからないけど。
洋さんと付き合うようになったのは、洋さんの後輩が私の元カレで、たまたま一緒の飲み会に参加したのがきっかけだった。
一目でいいなって思ったんだ。元カレとは違って顔はそこそこだし頼りがいがあるわけでもないけど、超大で講師をやってたんだよ? 超優良物件じゃん。
そこからは必死だった。元カレとはただの友達だったことにして、ひたすらウブでかわいい女を演じ続けたんだ。その甲斐あって、晴れて恋人同士になった。デートを何回かして、今日はいよいよ既成事実を作る日。
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「んっ」
高まるムードに合わせて、ついばむような優しいキスをされた。
悪くない、と思って油断してたらするっと舌が入ってくる。
「んんんっ!」
不意打ちに自然と声が漏れた。
思ったより手慣れてる? てっきり童貞クンだと思ってたのに。
「はぁ……あっ」
脱がせ方にももたつきがない。ぽーっとしてる間にもう下着姿にされちゃった。
やっぱり天下の超大生だもんね、寄ってくる女はいっぱいいるか。だけど私はそんな連中とはひと味もふた味も違うんだよ。
「いっ……」
大きくマッサージするように胸を揉んできたかと思うと、奇襲をかけるように乳首に軽く歯を立ててくる。一瞬の痛み。だけどそこに続く輪を描くような舌の動きに乗せられるかのように、にぶい疼きは甘美なしびれへと変化していく。
予想外すぎ。あっという間に私の身体は準備を整えていた。
「入れるよ、友希ちゃん」
「や、やさしくしてください」
ここだ、ここで男心をくすぐってから、最後の仕上げ!
「入っ……た」
「い、痛い、痛いです!ああっ!」
実のところあんまり痛くはない。ちょっとは痛いけどね。
あ。よし、予定通り。
破瓜の血が、あそこからおしりの方に流れてきているのを感じる。
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「大丈夫だった? 友希ちゃん」
「はい、ちょっと痛かったけど、平気です。でも、洋さんってこういうの慣れてるんですね」
「そんなことないよ」
事後にはさらに男の自尊心を煽ってやるのが大事。
うまくいった、と心の中でほくそ笑む私。
そこでまたもや不意打ちを食らうとは、夢にも思わなかった。
「ところで、最近は矢島とはどうなの?」
「ど、どうって、なんですか?」
「いや、元カレでしょ。いまでも付き合いあるのかなってさ」
え? なんで。元カレには口止めしておいたのに。
わたしが言葉を失っていると、
「回転ベッドは30年くらい前から減少の一途を辿ってるって言ったよね」
「え?? あ。はい、そう言ってましたね」
どうしていまその話?
「知ってる? 君のそういうのは、20年くらい前から急激に減ってきてるんだって。いまでは大きな病院でも年に10件あるかどうからしいよ。以前に調査したことがある」
え。
「え、あの……なんの、話です?」
彼は、ベッド脇に転がっている血を吸ったティッシュを持ち上げて、興味もなさげに言い捨てる。
「こういう手術の話」




