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第9話 貴重な体験ができて、一生の思い出になったことについてはむしろお礼が欲しいな

「は、走るぞ!」(ま、不味い!)

「はい!」


 私たちは揃って駆け出した。

 筋力強化魔法を使っているため、その速度はかなり早い……がそれは教授も同じこと。


 筋力強化魔法は加算ではなく乗算で、元々の筋力・流し込む魔力・魔法の練度の三要素によってその最終的な出力が決まる。

 魔力量はともかくとして、筋力と魔法の練度で大人に敵うはずもない。


 距離はどんどん近づいてくる。


「『魔力の 結界よ 我らの 姿を 隠せ』『魔力の 結界よ 我らの 音を 防げ』」


 だから追いつかれる前に私は再度、魔法をかけ直した。

 取り合えず、これで姿が見られることはなくなり、そして足音も聞かれない。


 だが……


「ま、まだ追いかけてきますね……」

「ま、魔力を辿られているんだろ!」(どこかに隠れて、魔法を解除して、息を潜めないと……)


 と言ってもな、隠れられる場所なんてあるかな?

 机の下とか? ……いや、絶対見つかるよね。


「こ、こっちだ! 心当たりがある!」(あ、あそこなら、もしかすると……)

「本当ですか!!」


 ジャスティン・ウィンチスコットに手を引かれて逃げ込んだ先は……

 屋外プールへと繋がっている、男子更衣室だった。

 ずらりとロッカーが並んでいる。


「ど、どこに隠れるんですか?」

「こっちだ!」(ここなら多分、大丈夫なはず)


 た、多分って……

 本当に大丈夫なんだろうね!?


 まず先にジャスティン・ウィンチスコットが入り、そのあとに彼の手を借りてその中に入り込む。

 

「せ、狭いな……」(か、体がくっついて、あと良い匂いが……)


 ええい、いちいち意識をするな。

 恥ずかしくなるだろうが!

 

 って!


「ちょっと、どこ触ってるんですか! この、変態!」


「仕方がないだろ、狭いんだから! というか、くっつくなよ、この馬鹿!」(は、腹だとばかり……でも、今のはわざとじゃないし、俺は悪くないだろ!)


「誰が馬鹿ですか、馬鹿って言う方が馬鹿なんですよ、この馬鹿!」


 丁度その時、遠くでドアが開く音がした。

 教授の足音もする。


 私たちは互いの口を手で塞いだ。


「ふん、浅はかな……所詮は子供だな。こんな逃げ場のないところに逃げ込むとは」(ロッカーの中か、そこにいなかったらプールだな)


 み、見抜かれている……

 で、でも、ここはちょっとだけ、盲点なんじゃないかな?

 

 教授の注意力がないことを、願うばかりだ。


「出て来い!」(ガキ共め、鞭打ちしてから、丸一日晒し者にしてやる)


 ガンガン!とロッカーを強引に叩く音、そしてバン!!とロッカーを開く音が少し遠くでした。

 それは徐々に近づいてくる。


 バクバクと痛いほど心臓が高鳴る。

 

「ここか!!」(これで最後だが……)


 最後のロッカーが開く。

 

「……っち」(プールの方か。まあ良い。袋の鼠なのは変わらない)


 教授の足音が遠ざかる。

 

「ふぅ……」

「はぁ……」(良かった)


 私たちは揃って息をついた。

 それから慎重にドアを開け、ロッカーの上から降りた。


 ロッカーの上には実はもう一つ、小さなロッカーがあるのだ。

 多分、プールの備品とかを入れるのだろう。


 私たちが入ったのは、たまたま物が入っていなかった。


 教授が見逃してしまったのは……

 視線より上にあったことと、小さかったからだろう。


 私たち二人で限界ギリギリのギュウギュウ詰めだったから、大人の目から見ると隠れなさそうに見えたんじゃないだろうか。


「た、助かりました……ところで、どうやってここを見つけたんですか? 水泳の授業はまだ先ですよね?」


 ここを使うことなんてないと思うが。


「ん……ま、まあ……いろいろとあってな」(か、かくれんぼで見つけたっていうのはちょっと子供っぽくてカッコ悪いな……)


 そういう発想がすでに子供っぽい気がするんだけどな。 

 まあ、しかしそのおかげで助かったわけだから、良かったんだけどね。


「さあ、教授が戻ってくるまでに逃げましょう」


 もうすでに彼は私たちの魔力を見失ったから、再び魔法を使っても問題はない……

 はずだ。


 私たちは再度、魔法をかけ直し、寮へと向かった。



 幸い、そのあとは見つかることなく校舎の外に出ることができた。

 あとはお互い、寮へと戻るだけだ。


 女子寮と男子寮は分かれているので、ある程度歩いたらお別れだ。


「じゃあ、そろそろお別れですね。……なんか、迷惑をかけてすみません。あと、付き合ってくれてありがとうございます」


 私はそう言って軽く頭を下げた。

 すると……


 まるでUFOでも見たかのような表情を浮かべるジャスティン・ウィンチスコット。


(べ、ベレスフォードが頭を下げた!? お礼を言った!? 謝った!?)


 ……いくら何でも、失礼過ぎるだろう。


 感謝もしているし、巻き込んで悪いとは思っているよ?

 まあ、普段からジャスティン・ウィンチスコットは私に迷惑をかけているので、その点はお相子だと思っているけど。


 それにね、初恋の女の子と夜の学校を二人きりで探検なんて、一生ものの思い出でしょう?

 十分、対価になっていると私は思うのだけどね。


 ……ずっと手も繋いでたし。

 

「ま、まあ……良いよ。……俺も、少し楽しかったし」(こ、今回でベレスフォードと仲良くなれたような気がする。……も、もしかして、お、俺のことを好きになったり……)


 少しだけ頼もしかったのは認めるが、それで惚れるか否かは別の話だけど。


「じゃあ、また明日、学校で会いましょう」

「あ、ああ!」(また明日!? こ、これはもしかして、俺のことを……)


 それはないです。







「ふわぁ……」

「大丈夫、エレナ?」(なんか、珍しく眠そうだけど……)


 翌朝。

 私は眠気に堪えながら、ようやく教室まで足を運んだ。


「いえ……昨日、少し夜更かししまして……」


 私は日頃から規則正しい生活を送っている。早寝早起きを欠かしたことはない。

 だからこそ、夜更かしすると、翌日がとても辛いのだ。

 

「一時限目はえっと……ああ、『幾何学』ですか」


 『幾何学』は基礎教養科目の一つだ。

 日本で言うと……数学に当てはまるな。図形の面積とかを求める。


 文法学、修辞学、論理学、天文学、音楽、算術、そして幾何学を加えて七教科が二年生までに履修しなければならない基礎教育科目だ。

 三年生になるとこの七教科が一つにまとまって哲学になる。


 日本だと「せいかつ」が「家庭科・技術」に、「理科」が「物・化・生・地」に分かれたりするが、リデルティア魔法学園の場合は一つに統合されるわけで、この辺は教育方針の違いみたいなのが出てきてちょっと面白い。

 

「本当に大丈夫?」(顔色、悪いけど……)

「大丈夫です……ええ、朝、カフェインをガンガン取ってきたので」


 この国の紅茶は中々美味しい。

 まあ、私は紅茶より珈琲派だけれど。


 ともかく、カフェインの大量摂取で冴えてはいる。眠いのに、寝れる気がしない……そんな感じだ。

 体調はやや悪いけれど。


「大丈夫じゃないでしょ? ……今日の一時限目は授業じゃなくて、課外授業の説明だよ?」(楽しみだなぁ、課外授業!)


 課外授業……

 ああ……思い出した。



 安全なはずの課外授業、なぜか急に発生する深い霧。

 そしてはぐれてしまう主人公!


 そこで出会ったのは、人食いフェンリル!!

 主人公はどうなってしまうのか!!


 っていう、イベントが発生する課外授業ね。

 はぁ……


 面倒くさいな。


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