第6話 人は見かけによらないとは言うが、案外見た目通りの方が本質であることも多い
ギルバート・グランフィードはいろんな意味で目立つ。
まずはその魔法の実力。
彼は中々優れた魔法使いで、おそらくだが使える魔法の種類と威力ならば私より上だ。
まあ、精度が微妙なので実技試験だとあまり成績に繋がらないのだが。
次にその痛々しい言動の数々。
初日から殴り合いの喧嘩をした私が言うのもなんだが……そこ言動の節々が目に付くというか、痛々しいというか、癇に障るというか、背筋が冷たくなるというか、とにかく悪い意味で目立つ。
そういうわけで私もいろいろ注目しており、彼の“内心”には注意を払っていたのだが……
結論から言うとやはり彼は日本人である。
見た目はリデルティア人なのだが……私のようにコーカソイド人種とか、そういうわけではなく、本人曰く“転生”らしい。
……私からすると科学的観点からも、信仰的観点からも、“転生”とやらには少々懐疑的だな。
脳味噌だけ入れ替わったと考えた方が分かりやすい。
『リデルティア・ストーリー』は男女選択ができ、そして性別によってキャラクターの攻略難易度が変わったり(例えば男主人公だと女主人公と比べると男キャラクターが攻略しにくくなるらしい……というか攻略できることがやや驚きだけど)、ストーリー・シナリオに変化が生じるので、男主人公が、つまり私と同じ境遇の男子がいる可能性は考慮に入れていたのでさほど驚くことではなかった。
まあ、だからと言ってどうこうしようという気はなく、私はできるだけ関わらないように彼とは距離を取っていた。
面倒事に巻き込まれたくなかったからだ。
がしかしいくら避けても、ご本人の方から来られては避けようもない。
「大丈夫か? 俺が来たからにはもう安心だ!」(こんなキャラクターいたっけ? ……記憶にないということは、モブキャラか?)
この目の前の転生者殿、ギルバート・グランフィードは私がジャスティン・ウィンチスコットに現在進行形で虐められていると、完全に勘違いしているようだ。
私とジャスティン・ウィンチスコットの小競り合いは、虐めではなく喧嘩だ。
そして今のところ、ボールをジャスティン・ウィンチスコットの顔面にぶつけた私の勝ち越しである。
勝っているのは私だからな? そこのところが重要だ。
「何の用だ、グランフィード。俺はただ、ベレスフォードと話していただけだ」(くそ、よりにもよってこのタイミングでか)
「お前は女子と話すのに、胸倉を掴むのか?」(殴るのはやめたみたいだけど……あれは絶対に虐めだよな)
睨み合う二人。
こういう時は、女主人公として「私を巡って争わないで!」とでも言うべきなのだろうか?
「……お前には、関係ないだろ!」(まさか、こいつ……ベレスフォードに気があるのか!?)
「関係なくない。虐めを見て見ぬふりをするのも虐めだ!」(俺はこのゲームの世界の主人公だ……守れる力があるのに、見て見ぬふりなんでできない。……それに女主人公じゃないにしても、この子可愛いし。ここで助けて好感度アップできれば……)
ジャスティン・ウィンチスコットはギルバート・グランフィードを恋のライバルと勘違いし始めたようだ。
そして私のことを完全に攻略キャラとして見ているギルバート・グランフィード。
彼はこの世界を、完全にゲームの中だと思っているようだ。
もう滅茶苦茶だ。
はぁ……しかし、蚊帳の外で自分のことについで勝手に争われるのは思っていたより不快だな。
「ご心配、ありがとうございます。Mr.グランフィード。ですが……私とMr.ウィンチスコットは少々喧嘩をしていただけです。断じて虐めを受けていたわけではありませんし、私はあなたの助けは求めていません。お引き取り願えますか? これは私と彼の問題なので」
私はジャスティン・ウィンチスコット程度ならば口でも拳でも勝つ自信がある。
頭でも運動能力でも性格の悪さでも、私の方が上だから、負けようがない。
「……それは本当か? 言わされているわけじゃないよな?」(どう見ても多勢に無勢だし、女の子だし、小さいし……)
……小さい? おい、お前、私のことを小さいって思ったな?
やや、私は自分が不機嫌になっていくのを自覚した。
「本当ですよ。……それに言わせるなら、『遊んでました』でしょう?」
「それは、そうだけど……いやでも喧嘩だったとしても、一人の小さな女の子を相手に、男が寄って集ってなんてのは間違っているだろう! 弱い者虐めだ!」(こんなのは喧嘩って言わない! やっぱり止めないと)
いちいち勘に障る奴だなぁ。
小さいって、口にも出したし。
「さっきから、あなた、失礼ですよ?」
「え? 失礼って……」(俺、何か言ったっけ?)
「さっきから、小さいだの、弱いだの、何だのと、私のことを下に見ていなければそんな言葉は出ませんよね? というか、私とあなたは同年代ですよね? 小さいって、もしかして身長のことですか? あなた、十年生きてきて人間の身体的特徴のことを不用意に言うと相手を不快にさせるということすら、分からないんですか?」
私は指でギルバート・グランフィードの胸を力強く、ぐいぐいと押し、言葉を叩きこむように言ってやった。
彼は私の剣幕に押され、後退りする。
「い、いや……小さいってのは、その、事実だし……」(確かに背が低いって意味で言ったけど、いや、でも俺は十歳じゃなくて三十歳だから、同年代じゃないし……)
……え!?
三十歳だったの? ま、まあ確かに言われてみれば、本人曰く“転生”なんだから実年齢と肉体年齢が一致していないのはおかしくはないか。
……まあ、今の今まで気づかなかったくらいだし、問題ないか。実質、中身は小学生みたいなもんだ。
十歳児が女子大生できるんだから、三十歳が小学生でも問題ないだろう。多分。
「事実なら何言っても良いと思ってるんですか? もしあなたが私を不快にさせる目的がないなら、そういうことは口にするべきではないという判断すらできませんか? その年まで生きて」
「で、でも……実際、殴られそうになってただろ? 俺はお前が助けを求めているんじゃないかと思って、助けに入ったのであって……」(だからそんな風に責められる筋合いはないというか……)
「大きなお世話ですね。勝手に人の気持ちを分かったような気にならないでください。あなた、モテないでしょう?」
「モテって……か、関係ないだろ!」(確かに童貞だけど……)
それから彼は私から思わぬ反撃を食らったことに怯んだのか、逃げるようにその場から立ち去った。
ギルバート・グランフィードを見送ってから、私はジャスティン・ウィンチスコットに向き直った。
「邪魔者はいなくなりましたが、どうしますか? やりますか?」
「……いや、どうでも良い。みんな、戻ろう」(やりますかって……殴り合いするわけにはいかないしな)
興が冷めてしまったジャスティン・ウィンチスコットはそう言うと、ドッジボールに戻った。
私は彼らの声を流し聞きながら、再び読書に戻ったのだった。
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