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第27話 子供の競技は安全には最大限の配慮が必要だと思う


 さて、簡単なルールを説明しよう。

 この競技は魔法決闘……まあ、言葉の通り決闘だから、戦いだ。


 試合は不正がないように、体操着で行われる。

 体操着だと防御力が薄いから、怪我するんじゃないか……と思うかもしれないが、事前に体を保護する特別な魔導具を貸し出される。

 

 この魔導具により、体は保護される。

 加えてさらに事前に教師たちが保護魔法をかけてくれているし、危険と判断すれば審判が魔法を使う。


 勝敗は降参させるか、もしくは何らかの手段で十秒以上拘束する、もしくは致命傷に相当する攻撃を受けたと魔導具が判断するか、場外へ吹き飛ばすの四つが勝利条件だ。


 ちなみに、一年生と八年生が戦ったら勝負にならないので……

 一・二年生、三・四・五年生、六・七・八年生の合計三つのブロックに分け、それぞれでチャンピオンを決めることになる。

 

 かれこれこの世界に来て、あと少しで一年になるので私の魔法の技量もかなり上がってはいるのだが、さすがに上級生の相手は難しい。

 ……まあ読心魔法を使えば余裕だが。


「では、両者向かい合って、礼!」(怪我だけはしないで貰いたいね)


 私は対戦相手の二年生に一礼する。

 それから審判の指示に従い、握手する。


 すると二年生は私の手を強く、強く握りしめてきた。

 無論、対戦相手――彼――の悪意には気付いていたので私はすぐに握り返す。

 彼は一瞬、顔をしかめた。


「……平民女、最近、ウィンチスコットに取り入っているようだな?」(薄汚い、雌鼠が……)


 ふむ、どうやら彼は私がジャスティン・ウィンチスコットを誘惑していると思っているらしい。


「だから。なんですか?」

「人は人と、ドブネズミはドブネズミと付き合うべきだと思わないか?」(図に乗りやがって。貴族と平民の上下関係を教えてやろう)


 そう言えば、ウィンチスコット閣下も嘆いていたな。

 最近は血筋しか取り柄のない、貴族としての精神を忘れた、ろくでもない貴族が増えていると。


「では、負けた方がドブネズミで良いですね?」


 私は笑みを浮かべた。

 彼は額に青筋を浮かべる。


「双方、互いに背を向けて三歩、審判の合図とともに歩きなさい。その後、互いに向き直ってから、はじめの合図で試合を始めます。一、二、三……」(くれぐれも、くれぐれも怪我はしないでくれよ。クレーム処理は面倒だ)


 私たちは向き直る。

 そして審判は大きな声で叫んだ。


「始め!!」


 それと全く同じタイミングで、私と対戦相手は杖を振った。


「『雷よ』!」(死ね、平民め!!)

「『水よ』!」


 私が生み出した純水は彼の放った雷撃を防いだ。

 これには彼は驚きの表情を浮かべる。


 いきなり隙あり、だな。


「『凝固せよ』!」


 雷撃を受けて飛び散った水を、私は氷に変化させる。

 そしてさらに杖を一振り。


「『穿て』!」


 氷の弾丸を、回転を加えながら放つ。

 柔らかい人体ならば穴をあける――つまり一発でも急所に当たれば魔導具が勝利判定を下す――程度の威力はある。


「っほ、『炎よ』!」(あ、危ない!!)


 彼は火炎の盾を生み出し、頭と胸を防いだ。

 弾丸は彼の足や肩に当たったが……急所ではなかったためか、勝利判定はでなかった。


 もっとも、ここまでは想定通り。


「『霧よ』!」


 私は氷が蒸発したことで生じた水蒸気を操り、彼の視界を封じた。


「『雷よ』!」


 そして意趣返しも兼ねて雷魔術を放つ。

 私が放った雷魔術は彼が身に着けていた魔導具によって防がれ……そして大きなブザー音が鳴った。


 致命傷に相当すると、魔導具が判断したのだ。



 

 一回戦、私の勝ちだ。




 魔法使い同士の戦いはチェスに例えられる。

 つまり単純な魔法のぶつかり合いではない。


 撃ち込んだ魔法を、そしてまた撃ち込まれた魔法を、いかに次の魔法に繋げるか。

 それが鍵になる。

 

 実力が低い魔法使いの放った魔法は尽く逆手に取られるか打ち消されてしまうし、逆に実力の高い魔法使いの魔法は介入が難しい。


 まあ、早い話高威力の魔法などあまり意味がない。

 というのが、ウィンチスコット閣下の教えであった。


 しかしそのあたりをまともに理解できている一・二年生なんてほとんどいないし……

 分かっていたとしても天然の読心術師である私には読み合いで勝てるはずもない。


 あれよあれよと、私は勝ち進んで行った。


 そして……


「あなたなら、勝ち進んでくると思いましたよ.。Mr.グランフィード」

「まあ……こうなるよな」(お互い、フラグは回避した感じだな)


 決勝が一年生同士の対決になることは異例のようで、会場は少し盛り上がっていた。

 遠方からラインハルト・ブランクラット、クリスティーナ・エデルディエーネの声援が聞こえる。

 リスティア・リステルシアは……私と同じクラスだというのに、ギルバート・グランフィードを応援しているようだ。この、裏切り者め……いやダンスのパートナーだからだと思うけれど。


 私と彼は握手を交わし、背を向け合って三歩、歩く。

 そして向かい合う。


「始め!!」


「『猛火よ』!」(間違いなく、風か水で防いでくるだろうな)

「『暴風よ』!」


 ギルバート・グランフィードの放った火炎魔術を、私は風を操り、弾き返した。

 すると彼は無音詠唱で水の盾を作り、これを防ぐ。

 水蒸気があたりに発生する。


 彼は杖を振り、水蒸気を氷に変えて私に放とうとしたが……

 私の方が早く魔術を展開した。


 霧は渦を巻き、まるで蛇のように彼の体にまとわりつき、その視界を塞ぐ。


「っく、『凝固せよ』!」(前よりもずっと、巧いじゃないか!)


 彼は有音詠唱で強引に水蒸気の支配権を奪い取り、氷の弾丸を創り出した。

 それを、以前の試合で私がやったのと同様に放ってきた。


「『風の盾よ』!」


 炎で防げば水蒸気を次の攻撃に使われることが分かっていた私は、風の盾を展開して急所から逸らす。

 手足や肩に氷が当たる……痛いな。

 大怪我は防いでも、軽い怪我や痛みは防いでくれない魔導具の不親切さにイラつきながらも、私は杖を振る。


 盾のように展開していた風を小さな竜巻状に変えて、投槍のように杖の先から放った。

 当たれば確実に心臓まで穿つ槍だ。


「『土の 壁よ』!」(風は質量で防げる! 師匠の教えだ)


 地面が盛り上がり、土でできた壁が竜巻を防いだ。 

 風の魔術は使い勝手が良いが、しかし質量に欠けるのが欠点だな。


 うーん、この流れは不味いな。

 いくら読心術があるからと言っても、やはり攻撃魔術には彼に一日の長がある。


「『変質せよ』!」


 飛び散った土に、彼が魔術を掛ける。

 すると土はまるで石のように固くなり……次の瞬間、私に襲い掛かってきた。


 しかも氷の弾丸の時よりも、早い、おそらく今度は風では防げないだろう。

 もっとも、この手は彼が土の壁を出そうとした時から、すでに読んでいた。


「『強制解除』!」


 私は硬質化して石へと変わった土を、再び元の土くれに戻した。

 そして私は左手で自分の顔を覆って土が目に入らないようにしつつ、右手の杖に魔力を込める。


「『剣よ』!」


 杖先から魔力でできた剣が出現する。


「『剣よ』!」(なるほど、接近戦か。受けて立つぞ!)


 やっぱり乗ってきたな。

 ……でも残念、私は君とまともに斬り合うつもりはない。剣術を“師匠”とやらに教わった君とは違い、私は“剣術”なんて使えないからね。


 だから私は杖を……投げた。


「な、なに!?」(ええ!! ね、狙いは何だ?)

「『光よ』!」


 彼が自分の杖で私の杖を弾くのと同時に、私が杖の中に仕込んでおいた閃光魔術が炸裂した。

 

「っく、!」(み、見えない!!)


 私は身体能力強化を最大限使い、体当たりする。

 そして関節技を仕掛けて、彼の動きを拘束。


 そして杖を持つ手を掴み、捻り上げる。


「いた、痛い!痛い! 痛い!」(お、折れる! 折れるから、折れちゃうから!!!)

「降参してください」

「っぐ、こんなことで……ああ!! 痛い、痛い! こ、降参します、降参です!!」(う、腕が曲がっちゃいけない方向に曲がってる!!)


 斯くして私は優勝し、クラスの勝利に貢献したのであった。

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