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第20話 あまり誇れることではないが、私は「授業中に男子がしている妄想出演率」でトップだったりする。……本当に自慢にならない。

 日本以外の国では学校にプールがあるのは珍しいと聞く。

 聞く……というのは私は日本以外の小学校には通ったことがないので実態は分からないのだが。


 私はアメリカ生まれで、幼少期は確かにアメリカで育ったが、幼稚園みたいなところに通ったことも特にないし。

 アメリカの事情は実は殆ど知らない。他の国は尚のことだ。


 なお、リデルティア魔法学園には水泳の授業が存在する。

 魔法使いなら水生生物と戦うことがあるかもしれないから……らしい。


 まあメタ的な、ゲーム的な視点で考えれば「水泳の授業が当たり前に存在する日本人には馴染み深いから」だとは思うけれど。

 



「……あなた、本当に何でもできるのね」(その運動神経は羨ましいわ……)


 ひと泳ぎしてプールサイドに上がった私にクリスティーナ・エデルディエーネが話しかけてきた。

 彼女はあまり運動が得意ではない。

 もっとも、壊滅的というわけではない。泳ぐことくらいならできる。もっとも、上手とは言えないかもしれないが。

 

「それほどでもありますね」


 私は顔について水滴を軽く手で拭いながら答えた。

 泳ぐのは久方ぶりだったが、体が覚えていた。


 リデルティア魔法学園の生徒のうち、多くはこの学園に来る前に親から多少は泳ぎ方を習ったことはあるらしいが……

 しかし専門的な授業を習ったことがあるものは少ない。

 そのためか、この学年で一番泳げるのは私だった。


 ちなみにその他の者たちについてだが、ラインハルト・ブランクラットはそこそこ泳げるらしい。彼の運動神経は決して悪くない。

 次にギルバート・グランフィードだが……彼は日本人として水泳を習ったことがあるものの、カナヅチらしい。……ま、まあ、こればかりは仕方があるまい。根本的に水と相性が悪い人は世の中には一定数いるものだし。


 最後にジャスティン・ウィンチスコットだが……

 

「ベレスフォード、勝負だ!!」(水泳なら、水泳なら勝てるはずだ!!)


 プールサイドから上がったばかりの私に、ジャスティン・ウィンチスコットが言った。

 彼はどうやら水泳には絶対の自信があるらしい。何でも、夏にはバカンスで湖が近くにある別荘に行き、そこで毎日のように泳いでいるとか……

 

 それなら夏にはよく市民プールで泳いでいた私も条件の上なら同じだ。


「別に構いませんが……勝つのは私ですよ?」

「いいや、俺だ。今度こそ、俺が上ってことを証明してやる!」(そ、そうすればベレスフォードも俺のことを……)


 いや、別に私は水泳に負けたくらいで相手のことを好きになったりはしないのだが。

 それに勝つのは私だし、ね。


「じゃあ、あっちのプールでやりましょう。丁度、空いてますしね」


 私は誰も泳いでいない五十メートルプールを指さしてから、そちらへ向かう。

 その後ろをジャスティン・ウィンチスコットが歩く。


(そ、それにしても……随分と機能的な水着を選んだな。……いや。ベレスフォードらしいけど……背中、綺麗……っく、何で俺が、平民なんかの……)


 相変わらず私に対して非常に複雑な気持ちを抱いているらしいジャスティン・ウィンチスコットは、私の水着を見てドキドキしているらしい。

 まあ、小五くらいの年齢になれば女子の水着が気にならない男子はいないだろうし、それが好きな子ならば当然だろう。


 ちなみに水着だが、基本的には日本のスクール水着とさほど変わらない。

 違いがあるのは素材の種類だろう。

 日本とは違い、この国では水生魔法生物の皮膚が水着の生地として用いられている。

 両生類の皮膚を身にまとっているというのは、正直あまり想像したくない事実だ。


 デザインも日本と同様に選べる。

 セパレートタイプもあるし、袖が長いのもあるし、そしてスパッツみたいなタイプもある。

 ただし、生地面積の大きさは値段と比例関係にある。

 そしてこの世界の水着生地は……とても高い。


 だから私は一番安い、生地が少ないのを購入した。

 もっとも生地が少ないと言っても、ビキニだったりするわけでもなく、凄まじいハイグレというわけでもない。(学校の授業で使用するのだから当たり前だけど)


 ちょっと背中が涼しいくらいだ。

 もっとも、その背中を見てジャスティン・ウィンチスコットは興奮しているようだが。


「クリスティーナ、審判をお願いします」

「ええ、分かったわ」(体力勝負となると、さすがのエレナも厳しいんじゃないかしら?)


 確かに、体力・筋力勝負になるとさすがに男子に分がある。

 が、水泳はそれ以上に技術の方が重要だ。何とかなるだろう。


 私とジャスティン・ウィンチスコットは飛び込み台に上った。


「ところで、泳法に指定はありますか? 泳ぐ距離は?」

「泳法? ……魔法を使わなければ、何でもいいぞ。距離は……ターンして、百メートルでどうだ?」(身体能力強化を使われれば勝てないからな……距離は長ければ長い方が、男の俺が有利だし)

「そうですか。なら結構です」


 元より魔法を使うつもりはない。

 泳法にこだわらなかったのは、そもそもこの世界の水泳には明確なルールがないからである。

 地球では水泳は明確なスポーツであり競技だが、この世界では水生生物と戦うための手段。

 

 ようは何だって良い。

 彼は自分に有利なルールを設定したつもりかもしれないが……それが大きな誤りであることを、教えてやろう。


「では……始め!!」(エレナ。頑張って!!)


 クリスティーナ・エデルディエーネの合図とともに、私たちは水に飛び込んだ。

 私は勝つために手段を選ぶつもりはない。


 水中に飛び込んだ私は、すぐに水面には上がらず、潜水を続けながらドルフィンキックで水の中を進んだ。

 競技水泳がないこの世界では、水面で泳ぐよりも水中で泳ぐ方が水の抵抗が少ないため早く泳げるということはあまり知られていないし、そしてドルフィンキックもまだ考案されていない。


 結果、私は最初の十数メートルの潜水で一気に差をつけた。

 その後は体力の消耗を考え、クロールで進む。


 横をチラッと見ると……かなりの速度でジャスティン・ウィンチスコットが追い上げてきている。

 自信があるというだけあって、早いな。


 二十五メートル進むころには、もうすでに並ばれてしまった。

 が、ここで再度追い抜かす。


 タッチターンで折り返そうとする彼を尻目に、私はクイックターンで体の方向を変えた。

 やはりこの世界ではクイックターンが考案されていないのだ。


 それからしばらく潜水とドルフィンキックで進む。

 しばらく私がリードしたが……猛烈な速度でジャスティン・ウィンチスコットが追い上げてきた。


 残り十五メートルというところで並んでしまう。

 ここで私は泳法を切り替えた。


 足だけはドルフィンキック、手だけはクロール。

 ドルフィンクロールで一気に進む。


 結果……


「はぁ……はぁ……、私の、勝ちですね」


 僅かな差でジャスティン・ウィンチスコットに勝利した私は、彼に対して笑みを浮かべて言った。

 すると彼は水面に自分の拳を叩きつけた。


「くっそ……もう一度、もう一度だ! もう一回、勝負しろ!!」(負けたままでいられるか!!)


 受けて立とうと言いたいところだが……

 私はプールサイドに上がってから言った。


「良いですけど、また今度にしてください。……もう、体力がないので」


 正直に言うと、ジャスティン・ウィンチスコットは得意気な笑みを浮かべた。


「なんだ、この程度でへぼったのか?」(百メートルじゃなくて、二百メートルにしていれば勝てたのに……失敗したな)


 当たり前だろう。私は女子だぞ?

 運動神経は良くても、体力と筋力は如何ともし難い。


「私は見ての通り女子なので、男子のあなたよりは体力が少ないんです」

「な、なんだよその言い方……」(か、考えてみれば女子に体力で勝ってもしょうがないな)


 いやー、そこは誇ってもいいんじゃないかな?

 女子と男子で比べると、生物学的な性差があるから仕方がないと思うかもしれないけれど、考えようによってはそれも才能の差である。


 私が持って生まれた運動神経の才能でジャスティン・ウィンチスコットに優るように、彼も持って生まれた体力や筋力の才能で私に優っている……それだけのことじゃないか。


 生物学的な「性差」とは集団単位で比較するときに考えるべきで、私とジャスティン・ウィンチスコットの比較の場合はただの「個人差」でしかないと思う。


 性差は言い訳にならない。体力や筋力では劣っている、それだけが事実だ。


 ……もっともそれを伝えても、彼は納得しなさそうだが。


「今度からは五十メートルの勝負にしませんか? 百メートルを全力で泳ぐのは体力的に少しきついので」


 そういうわけで彼の顔を立てると同時に、私に有利なルールを提案してみる。

 すると彼の機嫌は良くなった。


「そ、そうか……ま、まあ、仕方がないな。許してやろうじゃないか」(五十メートルならフェアだし、これで勝てば俺がベレスフォードに優っていることが証明できるはずだ)


 そんなことを証明したところで、私が彼に惚れるか否かは全く関係ないと思うのだが。

 男の意地というやつか? 理解できないな。


「そ、その代わりと言っては何だが……その、頼みがあるんだけどな」(勝つためにはあいつの泳ぎ方を教えて貰わないとな)


「頼み、ですか? 変態的な頼みじゃ、ないでしょうね?」


 揶揄い半分で私は自分の体を両手で抱きながら言ってみた。

 すると彼は顔を真っ赤にさせた。


「へ、へへへへ、へんたい、って、お、お前は、ば、ばかじゃないか? んなこと、す、するわけないだろ!!! そ、そんな発想をする方が、へ、変態だ。この、変態女!!」(考えてみれば、泳ぎ方を教わるということは水着のベレスフォードと物理的な距離が……いやいや、待て、落ち着け。泳ぎ方を教えてもらうのは。別におかしくなはずだ。おかしくない……よな? 邪な気持ちは抱いて……いや、ないとは言えないけど、少なくともベレスフォードに指摘される前までは思っていなかったし……いや、でもベレスフォードがどう思うかは別なわけで、ベレスフォードに変態だと思われたら嫌われるかもしれないし……)


 なんか、ごめん。

 私は内心で少し謝った。


(エレナ……いくらなんでも、それは酷いよ)

(Mr.ウィンチスコットも大変だな)

(初めてあいつに同情した。……やっぱり、ベレスフォードは性格が悪いな)


 上から順にクリスティーナ・エデルディエーネ、ラインハルト・ブランクラット、ギルバート・グランフィードの内心である。

 ジャスティン・ウィンチスコットが私に気があるというのは、もはやこの学園の一年生の間では常識となっている。まあ、あれだけやたらと何かあるたびに突っかかっていれば当たり前だが。


 知らぬはジャスティン・ウィンチスコットだけだ。哀れ……


「さっきのは冗談です。平民ジョークです。で、頼みとは?」

「い、いや……お前が嫌じゃなければ、その、泳ぎを教えて貰えないかなと……い、いや、無理にとは言わないからな? 全然、これっぽっちも、変なことは考えてないし!」(あああ!! 俺のバカ、これじゃあ変なこと考えてるって、自白しているようなものじゃないか!!!)


 これ、断ったら彼はどんな顔をするのだろうか。

 そんな意地悪い考えが脳裏を過ったが、いくらなんでも可哀想だったので、普通に教えてあげることにした。


 彼の名誉のために、私に泳法を習っている最中に彼のテンションが上がることはあっても、故意的に接触することだけはなかったことを記しておく。


 二、三回ほど、事故った時は頭の中が面白いことになっていたが。


最近、

恋愛ゲームの世界に来たけど何故か噛ませキャラに好かれてる云々みたいなタイトルの方が相応しいのではと思ったので、次回更新時にはタイトルが変わっているかもしれません

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