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第13話 あだ名というものは大抵、酷いものが多い。


「何でもねぇ……本当に、何でもしてくれるのか? お嬢ちゃん」(意味、分かって言ってるんだよなぁ?)


「もちろん。どんなことでも、命じてください。……その代わり、私とみんなの命を助けてください」


 私がそういうと、密猟者の男は舌なめずりをしつつ、杖を向けながら言った。

 性欲がガンガン溢れ出ているのが分かる。

 私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに、エロ同人みたいに!

 と、ちょっとテンションを上げて緊張を誤魔化してみる。焼け石に水だな。落ち着け、私。


「じゃあ、嬢ちゃん以外も杖を放しな」(よし……殺すのは少し、楽しんでからにするか。フェンリルの代わりだ)


 密猟者がそういうと、すぐにラインハルト・ブランクラットとクリスティーナ・エデルディエーネの二人は手を放した。

 それから悔しそうにしながらジャスティン・ウィンチスコットが杖を手放す。


「お前はどうするんだ?」(一人、反抗的なのがいるな)

「っく……」(っく、俺は主人公なのに……)


 それからギルバート・グランフィードが手を放した。


「じゃあ、お嬢ちゃん」(体は貧相だが、見てくれは悪くないな。これはこれであり……)


 密猟者の男は杖で私の胸を突きながら言った。

 弁明するが、私の体は貧相なのではなく、年相応なのだ。

 十歳なんだから、つるつるぺったんすっとんとんなのは、当たり前だ。むしろ巨乳だったら困るだろう。


 これから背も、胸も、当然大きくなる……予定だ。


「服を脱いでくれよ」(まあ、自分で脱がないのであれば魔法で切り裂くけどな)


 はいはい、良いですよ。

 私はブレザーを脱ぎ捨てる。

 それからブラウスのボタンを外し、地面に捨てた。

 キャミソールが露わになる。


 前方からは密猟者、後方からはクリスティーナ・エデルディエーネら四人の視線が私に集まっていることが読心能力から分かる。


 クリスティーナ・エデルディエーネは酷く心配そうな視線を向けている。

 ラインハルト・ブランクラットはできるだけ私の姿を視界に収めないようにしているが……しかし少しは気になる様子だ。

 ジャスティン・ウィンチスコットは密猟者に対して怒り、また目を逸らしながらも、チラチラとこちらを見ている。

 ギルバート・グランフィードは悔しさと歯がゆさと罪悪感を抱いているようで……私の下着にはあまり興味はなさそうだな。いや、中身が三十歳だから当たり前か。少し安心したぞ。


「下もだ」(案外、躊躇なく脱ぐな)

「分かっていますよ、急かさないでください」


 私はスカートのホックを外す。

 すとーん、とスカートが地面に落ちて私のパンツが露わになった。


 背後の男子諸君、しっかりと見て起きたまえよ。

 私の下着姿なんて、そうそう見れるものじゃないぞ? SSRくらいの価値はあるからな?


「へぇ、なかなか綺麗な肌じゃないか」(さて、その下はどうなっているのかな?)


 見たそうにしているので、私は下を見せてあげることにした。

 キャミソールの右の肩紐を指で持ち上げ、肩から外した。


 その瞬間、男の注意が私へと強く注がれ、同時に警戒が緩んだ。 

 しめた!

 男の目を真っ直ぐ見つめ、そして“中”へと入り込む。


 するり、と狭い場所に入り込んだ独特な感覚。

 様々な情報がそこでは飛び交っており、そして私の中へと流れ込んでくる。


「(アーロン・エルガー、性別は男性、年齢は四十五歳、ですか)」

「え?」(急にこいつはどうして俺の名前……って、どうして俺の名前を知っている?)


 困惑した様子を見せるアーロン・エルガー氏、四十五歳。


「(出身は……へぇ、没落した下級貴族ですか? 奨学金を借りて、リデルティア魔法学園に入学……奇遇ですね、私もそうです。というか、先輩だったんですね)」


「お、お前、急に何を……」(ど、どうして俺の個人情報を……)


 どうして? 

 理由は簡単、『探心魔法』だ。

 私の実力では相手の心の中に潜り込むには、警戒を緩ませるのと同時に注意を自分へと向けさせる必要があった。

 だからこそ、服を脱いだわけだ。断じて私に露出癖があったわけではないのである。


「(学生生活は……ぷっ……す、すみません、ちょっと笑ってしまいました。へぇ、入学早々、授業中に漏らしてあだ名がうんこマンになった? っぷ、す、すみません、ちょっと面白すぎます)」


 うんこマンの顔面が蒼白になっていく。

 そしてすぐに顔が真っ赤になる、


「わ、笑うな! この、クソガキ、調子に乗りやがって!!」(ぜ、絶対に許さないぞ!!)


「(大きな声を出さないでくださいよ、うんこマン。みんな、びっくりしちゃったでしょう? 顔真っ赤にして、そんなに恥ずかしいですか、うんこマン。まあ、そうですよね。うんこマンって、ずっと言われ続けたんですもんね。在学中、揶揄われ続けたんですよね。可哀想に……あ、でもちゃんと学業は続けていたんですね。優秀な成績を収めて卒業……をする前に退学? どうして? え、彼女を寝取られた? 貴族の男に? うんこマンって馬鹿にされ続けて、我慢ができなかった? それでその人を半殺しに? いやいや、限度があるでしょう? あの学校は喧嘩は黙認してくれますし、私も幾度か喧嘩しましたけど、そこまでやったらさすがに問題になりますって。というか、ロリコンのうんこマンなんて、誰だって彼氏にしたくはないでしょう。あなたに多大な問題がありますよ)」


 尚も、私は捲し立て続ける。

 そしてようやく、彼は気付いたらしい。


「お、お前、まさか……」(こ、こいつ、直接脳内に……読心術師か!!)


 御明察。

 でも、もう遅いかな。


「(退学後はどうしたんですか? え、就職先がない? そりゃあ、唐突にブチ切れて人を半殺しにするうんこマンは雇いたくないでしょう、誰だって。奨学金が返せない? それは自業自得ですって。でも、魔法使いですし、給金は少なくても働ける場所はいくらでも……そんなところで働きたくない? 自分は学年十位に常に食い込んでいたんだぞ、って? いや、でも退学しちゃってたらそんなの意味ないでしょう? それでどうしたんですか? え、貴族の男を殺した? 唐突ですね……え、自分の元彼女と結婚? それで許せなかった? でもそれ、逆恨みですよね? 退学したのも、就職先がないのも、奨学金が返せないのも、原因はあなたでしょう? え、悪いのは社会? はあ……まあ、あなたがそう思うならそうなんでしょうね、あなたの中では。ええ、それから殺人・強盗・強姦を繰り返し、密猟や麻薬の密売に手を出して……闇の世界の住民に仲間入り? なんかカッコいい言い方してますけど、要するに負け犬ってことですよね。うんこマンから負け犬ですか? で、今は密猟者? 犬のフンみたいな人生ですね。何? あの時、漏らしたせいで人生転落? いや、脱糞しただけで転落するようなら、例え脱糞していなくとも近いうちに似たような結果になりましたよ。世の中には脱糞しても、しっかり頑張って生きている人がいるんですよ? そういう人に失礼ですよ。私、あなたみたいにならないように、あなたを反面教……)」


「人の心を覗くな、このクソガキがああああああ!!」(ぶっ殺してやる!!!)

「(クソはあなたでしょう?)」


 うんこマンはそう叫ぶや否や、杖を引き抜いて魔法を放った。

 高威力の、当たればどんな人間も木端微塵になるような魔法だ。


 結界では防ぎきれず、そもそもあまりにも杖捌きが早すぎて避けられるようなものではない。


「はははは!! どうだ、ざまあみろ! 俺に逆らうから、そうなるんだ……え? どうして立っている? ふ、ふざけるな、この、この、この!!」(か、体が再生している? ば、化け物め!!)


 化け物とは失礼だな。

 どっからどう見ても、美少女だろう? 下着姿で、ちょっとエッチな感じになっている。


 ……まあ、彼の目には、全身がぐちゃぐちゃになり、肉片になっても、あっという間に再生するゾンビ女に映っているのかもしれないけれどね。


 私は別にアーロン・エルガーを煽るために探心魔法を使ったのではない。

 彼の動揺を誘い、より深く心の奥底へと入り込み、幻覚を見せるために敢えて行ったのだ。

 ぶっつけ本番だったが、成功したみたいだ。良かった。


「哀れなものですね。あなたの人生には心底同情しますよ、まあ、同情だけですけれど」


 私は杖を拾う。

 そして見当違いの方向へ魔法を放ち続けているうんこマン……もとい、アーロン・エルガーの頭に杖を突きつけた。


 彼はそれに気づく様子はなく、必死に虚空へと魔法を撃ち続ける。

 そこにいる、幻覚の私と戦っているのだ。


「『失神せよ』」


 頭に直接、魔法をぶつけた。

 バタリ、と音を立ててアーロン・エルガーは倒れた。


「一件落着、ですね」


 私は笑みを浮かべ、親指を突き出した。

 すると……慌てた様子でジャスティン・ウィンチスコットが駆け寄ってきた。



「べ、ベレスフォード!」(い、いつまで下着のままでいるつもりなんだよ、年頃の女の子が!)


 彼は自分のブレザーを脱ぎ、私に被せた。


「チラチラ見ていたのに、意外に紳士的なんですね」


 まあ少し恥ずかしかったので、助かったのは事実だけど。


「み、見てねぇよ!! へ、平民女の下着なんて、汚いだけだ! 早く着替えろ!」(ば、バレてた? こいつ、頭の後ろに目でもついてるのか?)

 

 汚いとは、失礼だな。

 そう思いながら私は自分の脱ぎ捨てた制服を拾い集め、草陰で着替えるのであった。


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