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第1話 私はエレナ、ごく普通の東京の大学に通う女子大生!

「ふぅ……」


 十月の末。

 今日は少し普段よりは気温が高く、そしてよく晴れていたため、珍しく私は大学の敷地内にある、広場のベンチで読書をしていた。

 時折、吹く風が心地よい。

 我ながら完璧な女子大生っぷりだなと自画自賛する。


 そんな若干ナルシスト気味なことを考えている私は、西園寺エレナ。

 東京の大学に通うごく普通の(・・・・・)女子大生である。

 今はごく普通の(・・・・・)女子大生らしく、読書に勤しんでいる。


 そういうわけで良い気分でいた私だが、そんな雰囲気を壊すものが現れた。


「お嬢ちゃんは……一人かい? もしかして迷子? それともお父さんとお母さんを待っているのかな?」(The Modern World-Sys……こんな小さい(・・・)のに、難しそうな本を読んでるなぁ。理解できているのか? 眺めているだけ、とか? 大人の真似かな?)


 やや失礼なことを考えながら私に話しかけてきたのは警備員のおじさんである。

 私のことを知らないということは……うーん、この職場に就いてから間もないのかな?

 まあ、無理もない。


「ご心配なく……私はここの学生ですから」


 そう言って私は学生証を見せた。

 こういうやり取りはもう両手の指では数えられないほどしてきたので、慣れたものだ。


 やはり想像通り、学生証を見た警備員のおじさんは目を見開いた。

 驚きの感情がしっかりと伝わってくる。


「小さいのに凄いねぇ……でも、もう四時だし、暗くなる前に帰りなさい。今はすぐに日が暮れる」(うちの娘と同い年くらいなのに……全く、世の中変わったなぁ)


「はい。……そうですね。そろそろ家に帰ります」


 暗くなると危険なのは事実なので、忠告をありがたく受け取り、私は鞄に借りた本を詰めて大学の正門へと向かった。


 ああ、そうそう……普通の(・・・)女子大生と言ったが、二つほど普通ではない点がある。


 一つは私の年齢が、偽りなく十歳であるということ。

 私は数年前に日本で本格導入された飛び級制度(スキップ)を利用して、この大学に通っている。


 もう一つ、それは私が読心能力者であることだ。





 さて帰り道。

 丁度、公園の前を通ると急に私は横から“敵意”と“害意”を感じた。

 しかもこれは……私が知っている人間のだな。


 視線をわずかに横にずらす。

 するとすぐ目の前に、ボールが迫っていた。

 

 私はそれを寸前で掴む。

 

「ドッジボールをやるのは結構ですが、人に当たらないようにやるべきでは? 危険ですよ」

「あんたが、ボーっとしていたんでしょ」(っち、あのハーフ女、すまし顔でムカつく……)


 そう内心で毒づいているのは、私より大柄で少し小太りの、同年代の少女だ。

 彼女は私の、以前の同級生である。

 まことに遺憾なことながら、私は一年前までは小学校に通っていた。


 彼女は同学年の女子たちの女王的な存在で、ヒエラルキーの頂点に君臨していた。

 同学年の女子児童よりも大柄で力が強く、運動神経も悪くなく、そして頭もそこそこだったからだ。

 

 過去形なのは私が転校してきたことで、その座から転落したからだ。

 言わずもがな私は天才だし、運動神経も彼女よりも良く、喧嘩も強かった……そして重要なことだが彼女よりも可愛かった。


 別に私に悪気はなかったのだが、ともかく自分よりも注目を集めている私が大変気に食わなかった彼女は、私を排除しようとした。


 結果的に言うと私はその全てを返り討ちにした。

 以来、彼女は私のことを逆恨みしており、度々チョッカイを出してくる。


 ところで「ハーフ女」とは私のことである。

 まあ、正確には私はクォーターなのだが彼女にとってはそれは大差ないことなのだろう。


「そうですか。ではボーっとせずに受け取ってくださいね」


 私はそう言ってボールを金魚女(金魚のように普段からフン(取り巻き)を連れてあるいているから。あと顔がやや魚っぽい)の顔面に向かって投げた。

 それは見事に決まった。


 すると金魚女は顔を真っ赤にし、僅かに涙を溜めて、怒鳴った。


「「よくもやってくれたわね! この根暗ハーフ女!!」」


 私がそっくり声を被せると、金魚女は歯軋りした。

 

「「真似をすんじゃないわよ!!」」


「「いい加減にしなさい!!」」


「「もう、我慢できない!!」」


 金魚女はフンを引き連れて、私に殴りかかってきた。

 私はその全てを避ける。……読心能力と恵まれた運動神経を持つ私なら、金魚共の鈍い攻撃を避けるのは容易い。


 そして彼女たちの動きを誘導したり、足を引っかけてやったりする。

 しばらくしてから、傷だらけの金魚女とフン共は私に半泣きで言った。


「「先生にいいつけてやる!!」」


 声を被せてやる。

 しかし自分から喧嘩を売っておいて――しかも複数人で――よく先生に言いつける気になるな。

 それに私はもう小学校の生徒じゃないから、先生のお叱りを受ける必要もないのだが。


 まあ、しかし変な風に説明されて養父母に迷惑が掛かるのは不味いな。


「良いですけど、その時はあなたの秘密を吹聴しますよ?」

「は、はぁ? な、何のことよ!」(ひ、秘密? ま、まさか……まだおねしょが直ってないことじゃないでしょうね?)


 自白、ありがとうございます。


「あ、別にいいなら良いんですよ? もっとも……翌日から、あなたのあだ名がおねしょマンになるだけです」


 女なのに“Man”とは変な話だが、おねしょWomanよりは日本語的に語呂が良い。

 私の言葉に怖気づいたのか、金魚女は半泣きで――というかほぼ泣きながら――背を向けて走り去っていった。


「お、覚えていなさい!!」(うぅぅ……ムカつく、ムカつく!!)

「ちょっと、待ってよぉ!」(まだおねしょが治ってないの? 信じらんない!)

「置いて行かないで!!」(よし、学校中に広めてやろう!!)


 金魚のフンは金魚を裏切ることにしたらしい。

 しかしフンのくせに「おねしょ」が理由で裏切りを決めるとは、変な話だ。

 おねしょマンにはお似合いだと思うんだけどな、金魚のフンは。

 





 帰り道、ケーキを買って帰ると……誰もいなかった。

 それもそのはずで、養父母たちは数週間前に誕生日を迎えた実子――私の又従姉、十一歳。小学五年生――のためにディズニーリゾートに行っているからだ。

 

 私は行きたくなかったわけではないが……遠慮させていただいた。

 家族水入らずで過ごしたいだろうという私の気遣いだ。読心能力を持つ私にとって、相手の本音を知るのは造作もないことだ。


 さて……取り合えずラインを送るか。

 えー、「今帰宅しました。楽しんでください」っと。

 するとすぐに返信が来た。「お土産は何が良い?」か、うーん携帯越しだと私の読心能力は機能しないんだよなぁ……えー、「何でもいいです」と。


 ちゃんと土産を買ってきてくれるつもりのところから分かると思うが、私は養父母から虐げられているとか、そんなことはない。当たり前の摂理として実子よりも扱いが悪いが、まあそれでも不自由なくさせて貰っている。

 大学進学も許してくれたし。もっとも……それはどう扱えば良いか分からない私を大学に放り込んでおこうという子育て上の手抜きもあるが。

 学費は実父が出してくれたし。


 とりあえず、私はテーブルに購入したホールケーキを置く。

 一個、丸ごと食べてみたいと常日頃思っていたので、これは良い機会だ。


 私は蝋燭を取り出し、ケーキに書かれている「Happy Birthday,Elena」の文字を消さないように、慎重に十本立て、火をつけた。

 窓のカーテンを閉め、最後に部屋の明かりを消す。


 ボーっと、蝋燭の灯がともった。


 私は思わず笑みを浮かべる。


「誕生日、おめでとう……私」


 蝋燭の火を吹き消した。

 




「さて、どう食べるか……うん、やっぱりそのままだよね」


 せっかくホールで買ったのに、切り分けて食べるのでは意味が半減する。

 少々お行儀は悪いが、ここにはそれを咎める人は誰もいない(・・・・・)のだから、問題はない。


 私はフォークをケーキに突き刺し、端から少しづつ食べ始めた。


「うん、美味しい……」


 ケーキを口に運ぶ。


「正直、お養母かあさんのより美味しいな……やっぱりプロが作ったのは違う」


 ケーキを口に運ぶ。


「これだけ美味しいなら、全部食べれそう」


 ケーキを口に運ぶ。


「……」


 ケーキを口に運ぶ……前に私はフォークを置いた。


「…………飽きた」


 口の中が甘さで一杯になっている。

 正直、くどい。


 この日、私はホールケーキは一人で食べるようなものではないということを学んだ。





 なんとなく、むしゃくしゃした私はVR装置を手に取った。

 ゲーム、『リデルティア・ストーリー』をプレイするためだ。


 これは恋愛シミュレーションRPGという、恋愛ゲームは面白い、RPGも面白い、なら二つ合わせればもっと面白いに違いないという、カレーラーメン的な発想によって作り出されたゲームだ。


 まあ、実際面白い……らしい。


 らしいというのは、私はレベル上げやミニゲームしかやっていないからだ。

 ストーリー攻略をしているのは又従姉なので、その内容そのものは詳しくない。


 そもそもこのゲーム自体も、こういうストレス解消の時しかやらない。


「ん……帰ってくるまで、限界までレベル上げでもしようかな」


 ベッドに横たわってからスイッチを入れて、ゲームを起動させる。

 そして……









「……あれ?」


 気付いた時には私はベッドの上に横たわっていた。

 ベッド、と言っても自宅のベッドではない。


 全く知らない場所だ。


「豌嶺サ倥>縺溘h縺?§繧?↑」


 起き上がり、キョロキョロとしている私に老人が話しかけてきた……が何を言っているか分からない。日本語でも英語でもないな。

 だが容姿には少しだけ、不思議と見覚えがあった。


「縺薙%縺ッリデルティア蟄ヲ蝨偵?謨キ蝨ー蜀?§繧??や?ヲ窶ヲ螟ァ荳亥、ォ縺九?縺会シ溘??蜷榊燕縺ッ險?縺医k?」


 一部だけ、『リデルティア』という名詞だけが聞き取れた。

 そして思い出す。……この爺さん、『リデルティア・ストーリー』に出てくる学園長にそっくりだ。

 ……まさか、まさかなんてことは、ないよねぇ? 

これはどっからどう見ても普通の女子大生

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