13-1
穴だらけの芝居小屋を見つけ、リリィは中を覗き込んだ。
鉄姉妹と戦う猿と巨大な猫。そして――
(あれ?)
舞台に立つ幸島と静馴を見つけ、中へ入った。
「貴方達も参加してたの?」
観客席の隅座っていた糸葉が、リリィと田川さんに気が付いて声をかけた。
「糸葉ちゃん……どうしたの? これ……」
見知った顔が埋める観客席を見渡し……リリィはポカンと尋ね、田川さんはスッと目を逸らした。
「少しややこしそうね……」
「……?」
「何でもないわ。気にしないで。それより……」
糸葉はリリィの手を引き、隣に座らせた。
「せっかくだから貴方も見ていったら? ひょっとしたら……貴方のお気に入りの勇姿が見れるかもしれないわよ」
「……?」
一方、舞台上では――
「遊びは終わりだ。ここからは本気で行く」
身構えた睦美の体が沈み――後から飛んできたドアノブを事も無げにキャッチした。
「あちゃー……」
権太は頭を抱え、
「んだテメェ? 後に目でもついてんのか? あぁ!?」
ドアノブは逆ギレを始めた。
「フフフ、こんなやつまで使うとはな……少し見直したよ」
逆ギレするドアノブを見つめ、睦美は楽しげに微笑んだ。
「ああ!? こんなやつだぁ!? 人間の分際で偉そうに!」
喚き散らすドアノブに気を取られていた睦美だったが――ハッと我に返った。
――案の定、幸島は静馴の手を引き、脇を抜けて逃走を図っていた。
しかし、一歩遅かった。睦美は素早く飛び下がり、幸島の腹に容赦のない蹴りを突き刺した。
「ゲブッ……!」胃袋で呻き、幸島は膝をついて蹲った。
「ハッハッハ、惜しいな、幸島。今のはなかなかよかったぞ」
「幸島くん! 大丈夫!?」
静馴は蹲った幸島を抱き寄せ、キッと睦美を見上げた。
「睦美ちゃん……どうしてこんな事するの?」
「言っただろ? お前は私の女にすると」
「……」
「私のものにすると言った女を、こいつは奪おうとしているんだ。半殺しにされても文句は言えんだろ?」
その時、観客席から怒号が投げ込まれた。
「ちょっと、あなた!! うちの子に何してんのよ!!」
腰に田川さんをぶら下げたリリィが、身を乗り出して吠えていた。
「リ、リリィ落ち着くんじゃ……それはあくまでもあの二人がウンと言ったら――」
リリィはキッと目を吊り上げ、田川さんの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「ダーリンだって、理性を失った幸島くんが私に襲い掛かるのを見たいんでしょ!? 幸島くんに貪られる私を見たいんでしょ!? 静馴ちゃんと縺れ合う私を見たいんでしょ!?」
田川さんは鼻息を荒げ、目を血走らせた。
「み、見たい!!」
「私もしたい!! されたい!!」
両手で田川さんの頬を挟み、額を合わせた。
「幸島くんと静馴ちゃんはうちの子!! いい!?」
コクコクと頷く田川さんから舞台に目を戻した。
「そこのクソ女!! うちの子達から離れなさい!!」
シャー!! っと吠えるリリィの首筋を、糸葉の手がむずりと掴んだ。
「いいから黙って見てなさい……。変態夫婦」
きゅん――っと手足を丸めて大人しくなった彼女を席に戻した。
「――ハッハッハ」
楽しげに笑い、顔を戻した睦美はうっとりと、愛おし気に二人を見つめた。
「誤解のないように言っておく。私は、君達を愛している。本当に、心の底から。
ずっと、ずっと側に置いておきたい。今のまま……大事に、大事に仕舞っておきたい」
悲し気な目を向ける静馴を見つめ、そっと頬を撫でた。
「さあ、おいで」
「……いや」
静馴が拒絶すると同時に、身を起こした幸島が彼女を背に隠した。
「ゲブッ……!」っと再び幸島の胃袋が呻き、床に這いつくばった。
「さ、おいで」
静馴へ伸ばした睦美の手を、床に這いつくばる幸島が尚も払いのけた。
「何時になくしぶといじゃないか。少しきつめに教育しないとダメか……」
「睦美ちゃん! 止めて!!」
庇うようにとりすがった静馴の体が割り込み、幸島を踏みつける足を止めた。
「私だってこんな事はしたくないさ。でも仕方がないんだ。このままでは幸島が汚れてしまう……純潔が守れないんだ。ver0.5ぐらいまでは落とさないと……」
「……」
幸島に覆い被さったまま動かない静馴へ、睦美はそっと囁いた。
「わかったよ。君がこちらへ来たら、もう幸島へ手は出さない。私が出来る最大で最後の譲歩だ」
「……」
幸島を背に隠すように、静馴はゆっくりと立ち上がった。
「約束だよ……睦美ちゃん」
――その時、起き上がった幸島が静馴の手を掴んだ。
「幸島くん!」
今にも膝が抜けそうな幸島を、慌てて静馴が支えた。
「先輩……。もう、ちょっと……、マシなウソをついて下さいよ」
ハッと顔を上げた静馴へ、睦美はニヤリと微笑んだ。
「睦美ちゃん……」
「言っただろ? 私はお前達二人を手に入れる……。蓮花静馴! 幸島大! お前達は、私のものだ!!」
幸島は力強く静馴の手を引き、彼女を背に隠した。
大きく息を吸い、決意の隠った瞳をカッと見開いた――




