表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トコヨのクニ  作者: 立花 葵
13 盆回り
49/50

13-1

 穴だらけの芝居小屋を見つけ、リリィは中を覗き込んだ。

 (くろがね)姉妹と戦う猿と巨大な猫。そして――

(あれ?)

 舞台に立つ幸島と静馴を見つけ、中へ入った。

「貴方達も参加してたの?」

 観客席の隅座っていた糸葉が、リリィと田川さんに気が付いて声をかけた。

「糸葉ちゃん……どうしたの? これ……」

 見知った顔が埋める観客席を見渡し……リリィはポカンと尋ね、田川さんはスッと目を逸らした。


「少しややこしそうね……」

「……?」

「何でもないわ。気にしないで。それより……」

 糸葉はリリィの手を引き、隣に座らせた。

「せっかくだから貴方も見ていったら? ひょっとしたら……貴方のお気に入りの勇姿が見れるかもしれないわよ」

「……?」


 一方、舞台上では――

「遊びは終わりだ。ここからは本気で行く」

 身構えた睦美の体が沈み――後から飛んできたドアノブを事も無げにキャッチした。

「あちゃー……」

 権太は頭を抱え、

「んだテメェ? 後に目でもついてんのか? あぁ!?」

 ドアノブは逆ギレを始めた。

「フフフ、こんなやつまで使うとはな……少し見直したよ」

 逆ギレするドアノブを見つめ、睦美は楽しげに微笑んだ。

「ああ!? こんなやつだぁ!? 人間の分際で偉そうに!」

 喚き散らすドアノブに気を取られていた睦美だったが――ハッと我に返った。


 ――案の定、幸島は静馴の手を引き、脇を抜けて逃走を図っていた。

 しかし、一歩遅かった。睦美は素早く飛び下がり、幸島の腹に容赦のない蹴りを突き刺した。

「ゲブッ……!」胃袋で呻き、幸島は膝をついて蹲った。

「ハッハッハ、惜しいな、幸島。今のはなかなかよかったぞ」

「幸島くん! 大丈夫!?」

 静馴は蹲った幸島を抱き寄せ、キッと睦美を見上げた。


「睦美ちゃん……どうしてこんな事するの?」

「言っただろ? お前は私の女にすると」

「……」

「私のものにすると言った女を、こいつは奪おうとしているんだ。半殺しにされても文句は言えんだろ?」

 その時、観客席から怒号が投げ込まれた。

「ちょっと、あなた!! うちの子に何してんのよ!!」

 腰に田川さんをぶら下げたリリィが、身を乗り出して吠えていた。


「リ、リリィ落ち着くんじゃ……それはあくまでもあの二人がウンと言ったら――」

 リリィはキッと目を吊り上げ、田川さんの胸ぐらを掴んで引き寄せた。

「ダーリンだって、理性を失った幸島くんが私に襲い掛かるのを見たいんでしょ!? 幸島くんに貪られる私を見たいんでしょ!? 静馴ちゃんと(もつ)れ合う私を見たいんでしょ!?」

 田川さんは鼻息を荒げ、目を血走らせた。


「み、見たい!!」

「私もしたい!! されたい!!」

 両手で田川さんの頬を挟み、額を合わせた。

「幸島くんと静馴ちゃんはうちの子!! いい!?」

 コクコクと頷く田川さんから舞台に目を戻した。

「そこのクソ女!! うちの子達から離れなさい!!」

 シャー!! っと吠えるリリィの首筋を、糸葉の手がむずりと掴んだ。

「いいから黙って見てなさい……。変態夫婦」

 きゅん――っと手足を丸めて大人しくなった彼女を席に戻した。


「――ハッハッハ」

 楽しげに笑い、顔を戻した睦美はうっとりと、愛おし気に二人を見つめた。

「誤解のないように言っておく。私は、君達を愛している。本当に、心の底から。

 ずっと、ずっと側に置いておきたい。今のまま……大事に、大事に仕舞っておきたい」

 悲し気な目を向ける静馴を見つめ、そっと頬を撫でた。

「さあ、おいで」

「……いや」

 静馴が拒絶すると同時に、身を起こした幸島が彼女を背に隠した。


「ゲブッ……!」っと再び幸島の胃袋が呻き、床に這いつくばった。

「さ、おいで」

 静馴へ伸ばした睦美の手を、床に這いつくばる幸島が尚も払いのけた。

「何時になくしぶといじゃないか。少しきつめに教育しないとダメか……」

「睦美ちゃん! 止めて!!」

 庇うようにとりすがった静馴の体が割り込み、幸島を踏みつける足を止めた。

「私だってこんな事はしたくないさ。でも仕方がないんだ。このままでは幸島が汚れてしまう……純潔が守れないんだ。ver0.5ぐらいまでは落とさないと……」


「……」

 幸島に覆い被さったまま動かない静馴へ、睦美はそっと囁いた。

「わかったよ。君がこちらへ来たら、もう幸島へ手は出さない。私が出来る最大で最後の譲歩だ」

「……」

 幸島を背に隠すように、静馴はゆっくりと立ち上がった。

「約束だよ……睦美ちゃん」

 ――その時、起き上がった幸島が静馴の手を掴んだ。

「幸島くん!」

 今にも膝が抜けそうな幸島を、慌てて静馴が支えた。


「先輩……。もう、ちょっと……、マシなウソをついて下さいよ」

 ハッと顔を上げた静馴へ、睦美はニヤリと微笑んだ。

「睦美ちゃん……」

「言っただろ? 私はお前達二人を手に入れる……。蓮花静馴! 幸島大! お前達は、私のものだ!!」

 幸島は力強く静馴の手を引き、彼女を背に隠した。

 大きく息を吸い、決意の隠った瞳をカッと見開いた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ