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顔を見合せ、クスクスと楽しげな笑みを溢す二人に――観客席からカサカサと孫の手を動かす音響いた。
「私も……素直に振り向いてればよかったって後悔した」
ポツリと呟やき、トンっと幸島の肩に頭を預けた。
「……あ、あのさ、レンゲちゃん」
何処か決意のこもった声が響き、幸島を見上げた静馴が呟いた。
「……静馴の方がいい」
「し、静馴……ちゃん」
幸島を見上げたまま、静馴はそっと瞳を閉じ――口元に現れた引力がゆっくりと二人を引き寄せた。
触れ合った鼻先は戸惑い……しかし、引き合う唇を止めるには至らなかった。
高鳴る鼓動とは裏腹に――ゆっくりと、滑らかに……唇を重――
「ドン!!」と鈍い音と衝撃が走り抜け、教室がかき消えた。
「うわッ!?」
「キャッ!」
椅子も消え、二人は反り返るように倒れて尻餅をついた。
「痛ってぇ……。大丈夫? ……し、静馴……ちゃん」
「うん。大丈夫」
地面が小刻みに揺れ――立ち上がろうしていた二人はバランスを崩し、慌てて身を屈めた。
「地震……?」
静馴はそう呟いたが、幸島には分かった。
(回ってる……)
視界の右端から……紙芝居のページを捲るように、ゆっくりと観客席が現れた。
「な……。こんなに居たのかよ……」
観客席を埋める村人達を見つめ、幸島は思わず呟いた。
そして――
「ハッハッハッ! なかなか頑張っていたじゃないか」
最前列の椅子へ足をかけ、身を乗り出す睦美が姿を現した。
「先輩……!」
「睦美ちゃん……」
ヒラリと――睦美が舞台へ舞い降りた。
「……ッ!」
「だが、そこまでだ。悪いがそれ以上先へは進ませない」
その時――睦美の背後を、冴子にぶら下がって滑空する権太が横切った。
「兄さん! こっちへ!」
権太の行く先は――非常口と掲げられた扉が見えた。
しかし、そこへ行く為には……。
「フフフ、なかなか良いシチュエーションじゃないか」
睦美はニヤリと笑みを浮かべ、幸島の前に立ち塞がった。
「もちろん、通すつもりはない」
「……」
「どうすればいいかは……分かるな?」
睦美はゆっくりと両手を持ち上げ、半身に構えた。
「レンゲを連れてあそこへ辿り着いたら見逃してやる。今後お前達の邪魔もしないと約束しよう」
「……」
幸島はゆっくりと立ち上がり、同じく半身に構えた。
っと、睦美が構えを解いた。
「ちょっと待て」
いい終えるが早いか、突如睦美は服を脱ぎ捨て下着一枚になった。
「ちょ、先輩!? 何して――」
睦美は素早く着替えて再び身構えた。
「どうだ? 懐かしいだろ?」
「制服?」
静馴の視線に、幸島はポツリと返した。
「高校の時の……」
「高校編があるはずだったんだが……手違いがあったようでな、実演に変更だ」
幸島の僅かな表情の変化を読み、睦美はニヤリと口元を歪めた。
「本当に懐かしいな……。蹴りを打つ度に、お前は私のパンツを――」
「ぼ、ぼ、暴力はいけません! そ、そんな勝負にはのれませんよ!」
っと、もっともらしい事を叫んで睦美の言葉をかき消した。
「フフフ、まあいいさ。精々紳士を演じてみせるがいい」
睦美の体が僅かに沈んだ――その時、照明が落とされ闇が覆った。
同時に、目出し帽シーツの妖怪が舞台へ滑り込み、幸島と静馴の手を取った。
「コージマ急いで」
目をこらすと、頭の上にナナさんがしがみついていた。
「ナナさん!」
「コージマ早く」
皆、闇に視力を奪われてしまったが、ナナさんには関係ないようだ。
シーツの妖怪を操り、ナナさんは出口を目指した。
「――鉄姉妹!!」
睦美の大音声が響き――間髪入れず、無数の破裂音と衝撃波が周囲を埋め尽くした。
壁に、天井に、無数の穴が穿たれ、光が射し込んだ。
そのうちの幾つかは、スポットライトのように幸島達を照らした。
「チッ……」と忌々しげな舌打ちを洩らし、飛び掛かった睦美の蹴りが脱皮するように脱ぎ捨てられたシーツを切り裂いた。
「貴様……」
「あちゃー、バレてまいましたな」
「……アレクサンダー・ザンダー三世」
「すんまへんな、嶺洲はん。ワテは幸島はんに付くことにしまして」
「なるほどな……バスの客に不発のイベントは貴様の仕業か」
睦美はスッと猿からナナさんへ視線を滑らせた。
「予定と違う演目は貴様の工作か?」
「そーよー」
言い終えるが早いか――瞬く間に巨大化したナナさんは、睦美めがけて猫パンチを繰り出した――
しかし、撃ち込まれた衝撃波がそれを弾き返した。
「その2匹は」
「私達に任せなさい」
睦美を飛び越え、鉄姉妹こと金枝と矢枝が舞台に舞い降りた。
「こりゃ他を気にしとる余裕はあらへんな」
「コージマ。その女に負けないでよー」
「ウキャキャキャッ!!」
っと床を打ち叩き、アレクサンダー・ザンダー三世が金枝に飛び掛かり、ナナさんは矢枝へ襲い掛かった――
「さて……」
睦美は向き直り、再び半身に構えた。
「まさか、お前にまともな抵抗が出来るなんてこれっぽっちも思っていなかったよ。驚きだよ。正直、舐めてたよ」
細く絞った睦美の瞳が、鋭い光を帯びた――




